39話 洩れた情報
前話を朝10時ごろに大幅に改稿しました。もしよければ読み直していただけるとありがたいです。
「聖水の製作工程について話がしたいですか?」
先ほどジゼルから、聖水の作り方は教会だけが知っていて、他の国には秘密にしていると聞きましたけど、その製作工程の事で話とは、どういう事なのでしょう?
「はい。どうやら、レティシアさんが転移魔法陣を最適化させたという話を聞いたらしく、聖水もできれば最適化して欲しいそうです」
はて?
転移魔法陣の最適化は、グローリアさんに頼まれて作った時の事ですけど、どうしてアブゾールの工房の人がその事を知っているのでしょう?
グローリアさんは、ややこしい事になるからと秘密にしておこうと言っていたのですが……。
私達はラウレンさんに案内されて聖水工房の中に入ります。
工房の中に入ると、案内役の神官が応接間に案内してくれました。ここからは聖水を作っているところは見えません。どうやら、作っているところは見せてもらえないみたいですね。
五分ほど待つと、綺麗な女の人が入ってきました。
「初めまして。私が聖水工房神官長カリアです。レティシアさんが転移魔法陣の最適化……、それに、聖女様しか使えないはずの魔法を最適化したという話を聞きました」
話を聞いたですか。
今カリアさんが言った事は、どちらも秘密にしておく事になったのに、どこから情報が洩れている事やら……。
私がその事を聞こうとした瞬間、ジゼルが私を見ています。
「ジゼル、どうしました?」
「忌み子ちゃん、【創造】の力を公に人前で使っているのかい?」
はて?
最適化ではなく【創造】ですか?
「グローリアさんやギルガさんに、外であまり使うなと言われているので、そこまでは使っていませんよ」
私がそう答えると、ジゼルがカリアさんとラウレンさんに向かい殺気を放ち始めます。
さすがに魔神の時よりも、殺気は弱く小さくなっていますが、魔導王と呼ばれるだけあって、かなり強力な殺気ではあります。戦わないラウレンさん達には辛いかもしれません。
でも、どうして殺気を?
「おい。なぜサルヴェイションやゴスペルヒールの最適化の事をお前達が知っているんだ? やはりアブゾルは……」
ジゼルは私の腕を掴み立ち上がります。
これは……怒りですかね?
これには、カリアさんもラウレンさんも驚いて顔を青褪めさせています。
「あ、あの……、な、何を怒って……」
「悪いが、この話はなかった事にてもらうよ!!」
ジゼルはエレン達も立たせ部屋を出ようとします。
しかし、ラウレンさんが先回りして、青い顔でジゼルに出ていく理由を聞きます。
「なぜです?」
確かにです。
ジゼルがなぜ怒っているかが、いまいちわかりません。
「なぜ? 逆に聞きたいものだね!! どこで、その話を聞いた!?」
「ジゼル!?」
敵だった頃から冷静だったジゼルが、ここまで怒っているのはどういう事でしょう?
これにはカチュアさんも驚いたのか、ジゼルの肩を掴みます。
「落ち着きなさい!!」
「カチュアちゃん。下手をすれば取り返しのつかない事になりかねないんだ」
「は、はい……」
普段ならカチュアさんは、ジゼルの言い分なんかを聞きもしないのですが、あまりにもジゼルが真剣だったので、何も言えなくなったみたいです。
ジゼルはカリアさんの腕を掴み立たせます。
「さて、吐いてもらおうか……。返答によってはお前を殺し、私一人でアブゾル教を滅ぼしてやる」
はて?
アブゾルは敵ですか?
一人で滅ぼすなんてずるいです。私も遊びます。
そう言いたいのですが、ジゼルの怒りは本物みたいです。本当にどうしたのでしょう。
もしもの時は、私が止めなければいけないのでしょうか?
「へ!? あ、あの……。どうなさったんですか!?」
「私の質問に答えろ!!」
「ひゃ、ひゃい!! レティシアさんの最適化の話をしてくれたのは、グランドマスターさんです!!」
グランドマスター?
なぜその名がここで出てくるのでしょう?
「やはりな……」
ジゼルは気付いていたのですね。いつ気付いたのでしょう?
グランドマスターの名が出た事に私達も驚きましたが、一番驚いていたのはラウレンさんでした。
「な!? グランドマスターを聖水工房に入室させたのですか!? な、何を考えているのですか!?」
「ち、違います。町を歩いていたら、アブゾール内で慈善活動をしていたグランドマスターさんが話しかけてきたんです。「聖水の需要が高くなったみたいだが、生産は大丈夫か?」 と言われたんです。そして、今作れる量を話したら、レティシアさんの事を教えてくれたんです」
「聖水の需要が増える?」
ジゼルはその言葉を聞いて、何かに気付いたみたいです。
そして……。
「忌み子ちゃん。急いでギルガ殿に連絡を入れてくれ」
「はて?」
「セルカの近くの死霊系の魔物が出る洞窟の捜索を禁止するよう、ギルドに申し出るんだ。リーン・レイが調査をするとでも言えば、グランドマスターの耳に入れる事もなく禁止させる事はできるだろう」
「なぜです?」
「その洞窟にグランドマスターが関わっている可能性がある。リーン・レイならともかく、一般の冒険者では太刀打ちできないかもしれない!! あの洞窟に入っているのは、Cランク以下の冒険者だ!!」
私がその言葉を聞いて魔法玉を取り出そうとすると、エレンがもう魔法玉を取り出していました。
「レティ、急ぎだったら私が連絡を入れておくよ。ジゼルさん。レティと一緒に聖水の話を聞いておいて下さい。もし、その洞窟に行くのなら、聖水は必要ですから。カチュアさん、一緒に来て」
「はい」
そう言って、エレンとカチュアさん、そしてラウレンさんが部屋を出ます。
ジゼルも落ち着いたみたいで、静かに座ってカリアさんも座らせます。
「それで、聖水の需要が高くなったと聞いたが、このアブゾールでは日に何本作れるんだ?」
「二百本です。急いだとしても三百本は作れません」
はて?
思ったよりも少ないですね……。
「そうか……」
「どうします?」
「最適化するしかないだろう……。リーン・レイが調査できれば必要なくなるが、もしもの時の為にストックは多い方がいい」
「そうですね」
それを聞いたカリアさんが、私達を聖水工房の中に案内してくれます。




