31話 神との対談
「聖女ベック様……。その隣にいる御方は……」
アードフルさんは、ベックさんよりも隣のお爺さんに驚いているみたいです。
おそらくですが、これがアブゾルなのでしょう。
確かに見た目は、クランヌさんや毛玉の言う通り優しそうなお爺さんです。
「あぁ。この爺がアブゾルよ。ほら、爺、挨拶しなさい!!」
「なんで、ワシが怒られておるんじゃ?」
お爺さんはベックさんの言葉に呆れているようでしたが、別に怒ってなどいないようでした。
もしかして……。
「そのお爺さんとそういう関係なのですか?」
「は? やめてよ。こんな爺と気持ちが悪い」
「では、どうしてベックさんがここに?」
「この爺に連れてこられたのよ。しかし、なぜ子供がそういう関係という言葉を知っているかが疑問よ」
むぅ。
誰が子供ですか。
「ベック、黙っておれ。「なんですって!?」……こほん。皆のモノ、集まってもらって済まぬな。ワシがアブゾルじゃ」
やはりそうでしたか……。
このお爺さんがアブゾルと聞いて、アードフルさんとギナさん、それにラウレンさんはとても驚いているようです。
「ところで、どうしてセルカの司教であるベックさんがここにいるのですか?」
ベックさんはとても不満そうに私を見ています。
「こ奴のワシに対する態度があまりにも悪いのでな、無理やり聖女に任命して、少しは立場をわきまえさせようとしたんじゃよ」
「クソっ……。よりにもよって、うちの神官長のレウスに神託を降ろしやがって、すぐに私が新しい聖女だと信徒の連中にバレてしまって逃げれなかったのよ。どうして、こんなに汚らしい爺と一緒にいなきゃいけないのよ……」
「うるさいわい。お主は今はここにいればいいんじゃ。それにあの教皇を見てみろ」
「ん? 確かにイケメンだけど……彼は駄目よ」
「なぜじゃ?」
「彼は結婚しているでしょう? 指輪を見ればわかるわ」
「指輪?」
「神官である以上、貴金属をつける事を制限しているわ。ネックレスやイヤリングなどは王族のパーティなどの時以外、それに指輪は既婚者しかつけてはいけないと、教典に書いてあるわ」
ふむ。
ベックさんは、不真面目そうに見えて、教典などはちゃんと覚えているのですね。
「ベックがいいのなら、それでいいわい。とりあえず、座って話をしようかの。ワシは見ての通り爺での。歳をとると、腰にきて仕方ないんじゃ」
ふむ。
アブゾルも不老だと思うのですが、歳を取ってからの不老は大変そうです。そう考えたら、私は幼い頃に不老になったっぽいですから良かったです。
「レティシアさん。こちらです」
私達は、祈りの間の隣にある部屋で話をする事にしました。
あ、そうです。
私は、毛玉とアマツを呼び出します。
アマツはともかく、毛玉とアブゾルは旧知の仲と聞いたので、会わせてあげましょう。
エレンが近くにいるので、毛玉を呼び出す事は簡単なので、便利ですね。
『む? おぉ、アブゾル殿じゃないか!?』
「なんじゃ? お主のような魔物とは知り合いではないのじゃが……? しかし、しゃべる特殊個体か……。お主と以前、どこかで会ったかのぉ?」
はて?
毛玉はアブゾルとお友達じゃないのですか?
もしかして、嘘を吐いていたんですか?
『そうか。今の私はケダマの姿だったな。アブゾル殿……、今の私はこんななりだが、バハムートだ』
「な、なに!? あの美しい白竜がなぜそのような妙ちくりんな姿になっておるのじゃ!? いや、確かに寿命が近いと、精神体になる魔法を教えはしたが……」
美しい白竜ですか。まぁ、今は見る影もないですけどね。
私はついつい笑ってしまいます。
『おい。なんで笑うんだよ』
「え? 面白いからですよ。あ、アブゾルさん。これは私のボールですから、妙ちくりんではありませんよ」
『誰がボールだ!?』
はて?
私はケダマを掴み地面に叩きつけます。すると、良い弾力で私の手に返ってきます。
あはは。
楽しいです。
私は何度も同じ事を繰り返します。
「ね? ボールでしょう?」
「へ、へぶぅ!? ぎゃあ!! え、エレン、助けてくれ!?」
何をエレンに泣きついているのですかね。もっと、速く投げつけましょうか?
「え? う、うん。レティ、あまり強く叩きつけるとけだまんが壊れちゃうよ」
「そうですね。壊れるのは困ります」
エレンに怒られたので、地面に弾ませるのは止めます。
私はケダマを握ります。すると、毛玉は少し泣きそうになっています。
その光景を見てアブゾルは若干青褪めています。
「……鬼神ともなると、伝説の竜神ですらコケにできるという事か……」
鬼神?
いえいえ、私は【鬼神化】は使えますが、鬼神ではないですよ。本物の鬼神がちゃんとあいさつした方がいいでしょう。
私はアマツをアブゾルの前に置きます。
アマツはアブゾルをジッと見ます。
「ほぅ。さすがは神族と言うべきか。私を知っているとは驚きだ」
「な、なんじゃ? このぬいぐるみは……」
確かに今のアマツはぬいぐるみです。
しかし、神気を発する事は可能なので、アマツはめいいっぱい神気を発しています。
「私は鬼神アマツ。貴様が神界で噂を聞いた鬼神の残留思念だ」
「な、なんじゃと!?」
アブゾルはとても驚いているようです。
どうやら神様達の間でも、鬼神であるアマツは有名みたいですね。
アブゾルはしばらくアマツを見た後、隣で面倒くさそうにしているベックさんの頭を叩きます。
「ベック、皆様の分の茶を淹れんか!!」
「痛いわねぇ!! 茶くらい自分で淹れなさ……、いや……、分かったわよ」
ベックさんはこの部屋に併設してあるキッチンに入りお茶を淹れて戻ってきました。そして、アブゾル以外の人の前にお茶を置いて、自分も淹れてきたお茶を飲み始めます。
「おい。ワシの分は?」
「へ? いるの?」
「なんじゃ? お主……、これは嫌がらせか?」
「べ、ベック様? アブゾル様に無礼では?」
「はぁ? こんな爺に無礼も何もないわよ!!」
「お主なぁ……」
アードフルさんとギナさんは、アブゾルさんを邪険に扱うベックさんを見て、青褪めています。きっと、自分達の崇拝している神が目の前にいて、聖女に任命された女性が神をコケにしている……。
信じられないでしょうね。
「さて、何から話そうかのぉ……。まずはちゃんと自己紹介しておこうか。ワシがこの世界を管理する神族、アブゾルじゃ」
おや?
この世界を統べるとも、一番偉いとも言わないのですね。
「管理? あんたがこの世界を作ったんじゃないの?」
「ワシら神族に世界を作る力などない。むしろ、この世界を作ったのは、そこにおるバハムート殿や、アマテラス殿じゃ」
毛玉の話通り、毛玉の事の過去などをちゃんと知っているみたいですね。
「じゃあ、あんた偉くないじゃん」
ベックさんはそういって、アブゾルさんのお茶を取り上げます。
「こ、こりゃ、なにをしおる!? 茶を返せ!!」
「だって、あんたって世界を作ったわけじゃないんでしょ? 偉くないじゃん。なんであんたが神様なの?」
「べ、ベック様!? 言葉が過ぎますよ!!」
「何言ってんのよ。この爺が神だというなら神罰でも与えてみなさいよ!!」
ベックさんがアブゾルさんを馬鹿にしたように笑っていると、急にびくっとなって、机に顔を打ち付けます。
「ぐぇ……。何かびりびりして動けない」
「それが神罰じゃ」
ふむ。
今のは麻痺魔法ですかね?
しかし、どう発動したかは分かりませんでした。さすがは神というべきでしょうか……。




