29話 教皇と枢機卿
タイトルが次話のタイトルになっていたので変更しました。
アブゾル大聖堂。
神官長以上の信徒しか礼拝する事が許されていない、神聖国アブゾールのシンボルのような大きな教会だそうです。
どうやら、私達を呼び出した人がここにいるそうで、私達は大聖堂の客間へと通されます。
「はて? 神聖国アブゾールは信徒しか入国する事が出来ないのに、しかも大聖堂とやらは高位の神官達でないと入れないと今聞きましたが、どうして客間があるのですか?」
「あぁ、それは各国の王族の為なのです。さすがに王族にまで、アブゾル教の信徒になれとは言えないので、彼等だけは、身分をきっちりと提示して貰えば入国が可能となっているのです」
ふむ。
という事は、グローリアさんならば入国できるのですね。逆に、姫様達は表向きは死んでいる事になっているので、入国はできないという事ですね。
ラウレンさんから、私達を呼び出した人を呼びに行くので待ってほしいと言われたので、大人しく待つ事になりました。
そして一時間後、少しだけ青褪めたラウレンさんが部屋に入ってきました。
何かあったのでしょうか?
「れ、レティシアさん。できれば何を言われても大人しくしていただきたいのですが……」
「はて? なぜ私にだけ言うのですか?」
「そ、それは……」
「ふふふ。忌み子ちゃんがそれだけ問題児という事だよ」
「ジゼル!! 貴女はレティシア様になんて言う事を……」
カチュアさんがジゼルを睨みつけています。ジゼルはただ笑っているだけですけど。
まぁ、今回はアブゾルと話がしたいので、大人しくはしているつもりですけどね。
「ラウレン殿がそこまで言うくらいだ。余程の人物……。もしかして、枢機卿は無理として、教皇が会いに来てくれるのかい?」
「い……いえ……」
ラウレンさんはとても言いにくそうにしていたのですが、何かを言おうとしたときに、ラウレンさんの後ろから二人の男性が現れます。
「ラウレンさん。自分の自己紹介くらい、自分でするよ」
「あぁ……。そうだな」
一人はまだ若く、二十歳後半くらいの男性で、もう一人が四十歳くらいの男性です。
ふむ。
大司教であるラウレンさんよりも立派な服を着ています。
「ふふっ……。教皇くらいは来ると思っていたが、まさか、彼まで来るとはな……」
彼?
ジゼルはこの人達を知っているのでしょうか?
「しかも、もう一人は教皇か……」
「はて? では、タロウ召喚を許可した教皇ですか?」
私がそう言うと、男性二人の目付きが鋭くなります。
その視線にジゼルが気付き、溜息を吐きます。
「忌み子ちゃん。だから言っただろう。アレはグランドマスターが偽の情報を流したのであって、ラウレン殿を黙らせるためだったと。本物の教皇は勇者の召喚に反対の立場だったと……」
そういえば、そんな事を言っていましたね。
しかし、男性の一人が苦笑いを浮かべて、それを否定します。
「いや、それは違うな。魔導王ジゼル殿。あ、自己紹介が遅れたね。私が枢機卿のアードフルだ。グローリア陛下から、君の話は聞いているよ。レティシア君」
「はて? グローリアさんとお知り合いなんですか?」
グローリアさんは枢機卿とお友達なんて言っていませんでしたよ。あ、アブゾールに行く事を報告していませんでした。
しかし、ギルガさんが報告しないわけがないので、別に問題はないでしょう。
「ははは。グローリア陛下には、若い頃に世話になっていてね。今でも、私が尊敬する御方だよ」
「そうなのですね。ところで、先ほどジゼルの話を違うと言っていましたが、何が違うのですか?」
「そうだな。立ち話もなんだから、ちゃんと座って話をしよう。ラウレン、皆に紅茶を入れてくれないかい?」
「は、はい」
ラウレンさんは、慌てて部屋を出ていってしまいました。
このアードフルと言う人はとても偉いのでしょう。
五分後。
ラウレンさんが人数分の紅茶を用意してくれたので、それを飲みながら、話をする事にしました。
枢機卿であるアードフルさんの隣に立っていた若い男性は、ギナという名の教皇だそうです。
まだ、若いのに教会で二番目に偉いとはとても凄いです。
「さて、まずはジゼル殿。君が勘違いしている事を教えてあげよう。前教皇であるスーシオは勇者タロウの召喚を歓迎していたんだよ」
「歓迎していた!? 馬鹿な。グランドマスターは、教会の協力を得られない理由に、枢機卿であるアードフル殿と教皇スーシオ殿から反対されたから、ファビエの大司教を操ったと聞いたぞ」
「グランドマスターをあまり信用しない方がいい……。確かに、あれもアブゾールに偶に来て、慈善事業と言い何かをやっているが、まるで信用ができない」
グランドマスターは何を考えているかは分かりませんが、ベアトリーチェはアブゾルを殺すと言っていました。
私としては、グランドマスターとベアトリーチェは同一人物、もしくは協力者と思っているので、アードフルさんのいう事も理解できます。
「前教皇スーシオについては僕から説明しましょう。彼を裁いたのは僕です。彼は数々の不正を働いていたんです。だから、アードフル様の協力を得て彼を裁いたのです」
「そうだったのか……。それで君が次の教皇になったと?」
「はい。まだまだ若輩なので、毎日が勉強の日々ですけどね……」
ふむ。
この人はとても真面目そうな匂いがします。
ここでアードフルさんが笑顔で、ジゼルに釘を刺します。
「とはいえ、ジゼルの罪が消えたわけではないよ。君も勇者タロウを召喚した一人なんだ」
「分かっているさ……」
ふむ。
教会がジゼルに何かしようというのであれば、その時は、アブゾルを痛めつけなければいけません。
私が少し俯いてそんな事を考えていると、アードフルさんが笑いながら「ふふふ……。そんな顔をしなくても大丈夫だよ。別にジゼルに何かしようなどと思っちゃいないさ。むしろ、今後は仲良くやっていきたいとすら思っている」と言いました。
「な、なんだって?」
アードフルさんは、悪そうな顔をしています。さすが悪名高い教会です。
「私に何をさせるつもりだい?」
「なに。君にとっても悪い話じゃないさ。今後は教会の為の研究を依頼したいだけさ……。その為なら、聖水の作り方や、神聖魔法の研究記録も君に渡そう……」
「……っ!? た、確かに、良い話だね」
ジゼルは少し疑うような顔をしていますが、少し楽しそうな顔にもなっています。
「ところで、アブゾールに忌み子ちゃんを呼んだのはどういう理由だい?」
「そうだな……。レティシア嬢にも用があったのだが、本当に用があったのは……エレン嬢の方なんだよ」
エレンにですか……。




