26話 不死鳥の剣
私の目の前にいるのは、銀色の鎧のような体を持つ人形……。アマツは機械兵と呼んでいました。
ケンに聞きましたが、レティシア様を追い詰めたゴブリン魔王と同じ作り物だと……。
ゴブリン魔王よりは劣るとはいえ、勝てるでしょうか……。
いえ……。弱気ではいけませんね。
絶対に勝つんです!!
私は一度普通に斬りかかってみます。
例えば、あの銀色の体が普通の鉄だとすれば、関節は柔軟性のある別の素材かもしれません。
柔軟性のある部分ならば、もしかしたら斬れるかもしれません……。そう思っていましたが、思っている以上に硬度があるらしく、弾かれてしまいました。
「くっ……。やはり、硬いですか……。関節なら斬り落とせると思ったのですが……」
レティイロカネであれば、ただの鉄くらいなら、技術がなくても斬れそうな気がしたんですが、やはりちゃんと作られたものは斬れないのでしょうか……。それに関節部分。柔らかいように見えて硬いです。
これが機械兵……。
仮に、こんなモノが敵国の兵士として配備され、エラールセに攻め込んでくれば、普通の兵士では太刀打ちできないでしょう。
そう考えれば……、これを作った人は恐ろしいモノを作ったものですね……。
しかし、こちらが攻撃したのに、反撃をするそぶりも見せないとは……、いえ、反応が鈍いのでしょうか?
全身が鉄のような重い素材で作られているのであれば、速く動けないのも理解はできます。
「ぎぎぎ……!!」
な!?
一瞬で間合いを詰めてきた!?
動きが遅いと決めつけていたから、反応が遅れた!?
私は機械兵の攻撃を剣を受け止めます。
お……重い……。
鉄で出来ているのなら、攻撃が重いのは予測できたのに……、これは悪手でした……。
私は、機械兵の剣を無理やり逸らせ、一度離れます。
動きも速く、攻撃も重い……。
もしかしたら、大罪よりも……。いえ、私が戦った大罪は、弱すぎました。
私が戦った一番強かった相手……。
ソレーヌ姫ですね。
彼女も強かったですが、機械兵はそれ以上の強さです。
できれば美徳は使いたくないのですが、このままではアテナの刃がかけてしまうかもしれませんから……。
「【堅固・勇気・不死鳥】」
不死鳥の炎が私に纏わりつこうとしています。これをアテナに纏わせる……。
アテナに意識を集中して、炎を……。
私は刃に炎が纏うように意識を集中させます。
「……!?」
剣に青い炎が纏わりついている……。
これなら……。
斬れるはずです!!
「たぁ!!」
機械兵は私の攻撃を腕で受けようとしている。でも、今度はさっきとは違う。
一気に振り下ろした剣は、機械兵の腕を斬り落とせました。
「き、斬れた!!」
「ぎ……が……!?」
機械兵は腕が落とされた事に驚いたのか、一気に距離を取るようです。
これは意外です。
作り物なので、痛みはないでしょうし、腕が斬れたとしても逆の腕があるので反撃ができたはずです。
「作り物の分際で退くという選択肢もできるのですか!?」
「ぎ……」
機械兵は残った手をこちらに向けて広げています。
掌に穴が開いていますね……。
一瞬赤くなった気が……。
そう思った瞬間、掌から炎の球が飛び出してきました。
「ま、まさか、魔法!?」
私は炎の球を避けますが、機械兵は次々と炎の球を撃ってきます。
「迂闊に近づけない……」
この炎の球は、魔法じゃないのか、魔力を感じません。
しばらく炎の球を避けていたのですが、一瞬だけ地面に落ちている石に足を取られてしまいました。
「ぎ……」
し、しまった!?
気付いた時には、私に無数の炎の球が襲い掛かっていました。
「ぎがぁあああああ!!」
機械兵は今も炎の球を撃ち続けています。
ど、どうすれば……。
いや……。考えるまでもないです。
襲ってくるのは炎。
私の剣の属性も炎。
お互い炎です。
こちらの方が熱量が上ならば……。
「あぁあああ!!」
私はアテナを思いっきり薙ぎ払います。
すると、私の斬撃が不死鳥の姿となり、炎の球を飲み込みながら、機械兵に襲い掛かりました。
「こ、これは!?」
何が起きているか分かりませんが、これだけでは、倒せないかもしれません。
私自身も、斬りにいかなければ!!
機械兵が青い炎の不死鳥に構っている間に、私は機械兵を斬る事の出来る範囲に入ります。
「たぁ!!」
私は機械兵の残った腕を斬り落とします。
「ぎ……」
これで炎攻撃は封じました。
しかし、これでは決定打になりません。
何とか倒す方法がないでしょうか……。
その時……。
「カチュアさん! どこかに魔力のような物を溜める箱があります。アマツは動力炉と言っていました!」
「箱……」
機械兵を外から見る限り、箱のようなモノはありません。
という事は……、生物で言えば、内臓ですか……。
心臓の位置……。
私は機械兵の胸を突きます。
しかし、そこには箱らしきものは……ない!?
「ここじゃないの!?」
機械兵は、起き上がろうとしています……。
もし起き上がられたら、箱を探せません。
ど、どうする!?
そ、そうだ!!
いっその事、内部から焼き尽くせば!!
私は突き刺した剣を一気に払い、不死鳥を発生させます。
すると機械兵の右肩の銀色の鎧がはがれ、内部がむき出しになりました。
……!?
右胸のところに黄色く光った箱があります。
アレか!!
私は箱に剣を突きます。すると、機械兵は一瞬ビクっとなった後、力をなくしたようにその場に崩れ落ちました。
「か……勝てた……」
アマツはグラーズよりも弱いと言っていました……。
でも、この機械兵は、今まで戦った誰よりも強かった……。
これを、ベアトリーチェが作り出しているとしたら……。
「本当に恐ろしい相手かもしれませんね……。もっと強くならないと……」
私は動かなくなった機械兵を見下ろして、そう呟きました……。




