25話 盗賊退治と機械兵
目が覚めると、そこは静かな馬車の中でした。
私以外の三人はもう起きていました。
「目を覚ましましたよ」
「レティ、おはよう。あ、まだ夜だけど……」
この馬車には御者さんが二人いるので、夜も馬車は走っています。
教会の高速馬車が昼夜問わず走っているのです。要人が乗っていると思われてもおかしくありません。盗賊達からすれば、格好の獲物に見えるでしょう。
「レティシア様。追走してくる腐った殺気を感じます」
カチュアさんの言う通り、この馬車を追いかけるように殺気が迫ってきます。これがアマツの言っていた盗賊なのでしょう。
おそらくですが、盗賊が乗る馬にもこの馬車を引く馬と同じ強化をしているのでしょう。
いくら強化された馬が二頭いても、重い馬車を引いている分、こちらの方が遅いでしょう。
例え馬が傷つけられても、エレンがいれば死なない限りは治す事はできます。でも、追いつかれて馬を傷つけられるのは可哀想なので、ごめんです。
ここで殺しておきましょう。
……それに。
「ここで止めておいた方がいいのでしょう? アマツ」
私はアマツを呼びます。
成功していれば、かわいらしい姿をしたアマツがいるはずです。
「あぁ……。盗賊の中に、嫌な機械の油の臭いがする」
私のすぐ横に、手のひらに乗るほどの大きさのぬいぐるみのような私が座っています。
髪の毛は真っ赤で、ちゃんと角も生えています。
「れ、レティシア様……。その可愛すぎるぬいぐるみは……」
「も、もしかして……」
「アマツです」「私だ」
どうやらアマツが消える前にこっちの世界に体を移す事に成功したみたいです。
エレンの力の源だった毛玉ができるのですから、アマツにもできるだろうと思っていましたが、成功のようです。
「私の事は後でいい。まずは目障りな盗賊共を蹴散らす方が先だろう」
アマツは小さな体ですが、腕を組んで目を閉じています。きっと、普通の姿だと威厳があるのでしょうが、今の姿では必死に無理に格好よく見せようとしているようにしか見えません。
あ、そんな事より……。
「ジゼル」
「あぁ……。御者さん。馬車を止めてくれないかい?」
「へ? は、ハイ」
ジゼルがそう言うと、馬車がゆっくりと停まります。
御者さんと神官さんは何が起きたのかを聞いてきましたけど、正直に話しておいた方がいいでしょう。
「盗賊に追いかけられています」
「それならば、私が」
神官さんは僧兵という戦える役職だそうで、Bランクの冒険者に相当するらしいのですが……。
「大人しくさせておいた方がいいだろう。普通の盗賊ならば倒せるだろうが、二匹ほど厄介そうなのがいる」
「何がいるのですか?」
「グラーズと同じ、機械兵だ」
機械兵。
あのやたらと硬い作り物の兵士ですか。
確かにあれが相手となると、私が出た方がいいですね。
「私が行って、サクッと倒してきます」
「私も行きます!!」
カチュアさんはそう言ってくれますが、カチュアさんではグラーズと同じような強さを持つ機械兵ならば危険なので、待っていて欲しいのですが……。
「カチュア。お前ではまだ機械兵の相手はキツイと思うが?」
「嫌です。私はレティシア様の役に立ちたいのです」
ふむ。
そこまで言ってくれるのであれば、もしもの時は私が助けに入れば……。
「二人で大丈夫かい? 私も魔法で戦えるが……」
ジゼルがそう言ってきますが、カチュアさんが止めます。
「大丈夫です!! 私とレティシア様の二人で大丈夫です!!」
なぜ、ジゼルの方を見て言わずに、エレンの方を見て言っているのでしょう?
しかも、エレンも悔しそうにしています。
エレンは後方支援なので、戦えないのは仕方ないのですが……。
「ぐぬぬ……」
「まぁ、普通の盗賊ならここまで心配しないだがな……。機械兵と言えば、忌み子ちゃんでも苦戦したんだろう?」
「はて? ジゼルはグラーズの事を知っているのですか?」
「あぁ。出発前にギルガ殿が私を訪ねて来てな。ゴブリン魔王グラーズとの戦いの事を教えてくれた。そこで忌み子ちゃんは結構苦戦したそうじゃないか」
苦戦したのは確かです。
魔力もない状態で戦い始めたのが間違いだったのでしょうか?
「レティシアが苦戦したのは、魔力がなく、鬼神の力の使い方も理解していなかったからだ。今のレティシアなら、グラーズと同程度だろうと簡単に倒せるさ。まぁ、追って来る二体もグラーズほどの強さはないだろうからな」
グラーズほどの強さがないのであれば、問題はなさそうです。
「一つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「機械兵には剣は効くのですか? 私はギルガさんのような剣技は使えませんし、レティシア様のような剣が鈍器というわけではありません」
カチュアさんがアマツに戦い方を聞くようです。少し不安なのでしょうか?
「それならば、剣に美徳の力を込めて戦えばいい。カチュアは美徳の力を体に留めようとするから、体に負担がかかるんだ。力を使ったら、剣に能力を乗せるように意識を集中しろ。レティイロカネでできているその剣ならば、不死鳥の炎にも耐えられる」
「本当にレティシア様の中から色々な事を見ていたのですね。分かりました」
カチュアさんはアテナを収納魔法から取り出します。スミスさんがレティイロカネという名がつけたからか、アテナの刃が黒く光っています。
あ、そうです。
「私には何かアドバイスはないんですか?」
「必要か? そもそも、【鬼神化】の実験をしようとしているんだろう? 盗賊には使うんじゃないぞ。たかが普通の人間が鬼神の神気を帯びた殺気を受けてしまえば、それだけで死んでしまう」
「はぁ……。それは面白くありませんね」
「あ、もし戦いに行くのなら……」
神官さんが何か言いたいようなので、話を聞く事にします。
「レティシアさん。貴女がたの実力ならば、盗賊程度なら殺さずとも拘束できるでしょう。今回は教会の顔を立てて、殺さずにいていただけるとありがたいのですが……」
「なぜですか?」
「それが教会の教えだからです」
教会の教えでは、極力人殺しはしてはいけないとの事なので、今回はそれに従ってあげます。
神聖国アブゾールに行くのですから、教会の馬車に乗っている以上はアブゾル教のいう事を聞いてあげますよ。
私は神官さんの方を見て頷いた後、カチュアさんと馬車を下ります。
しばらくすると、何匹かの盗賊と……明らかに人と思えない二人がやってきました。
「へへへ……。金持ってそうな教会の馬車がいると思ったら、中からはいい女とガキか!? それに中にはまだ女もいるようだし、楽しめそうだなぁ!!」
「……」
馬鹿な盗賊はどうでもいいとして、後ろの二人です。
見た目は人間に見えます。
しかし、その表情は無表情でいかにも作り物のようです。
「なるほど……。人間の皮を被った機械兵ですか。確かにかいだ事の無い臭いがしますね。いえ、グラーズと同じ臭いでしたね」
これがアマツの言っていた機械の油の臭いでしょうか?
油はこの世界にもありますが、機械兵から臭って来る臭いは、料理に使う油と違って臭いです。
「レティシア様、私にはどれか分かりません。どれが機械兵なのですか?」
「えっと、あの後ろにいる二匹です。無表情でしょう? あの二匹は斬っても血が出ないはずです」
「なるほど……。少し斬ってみればいいのですね」
確かに……。
人間と機械兵の区別がつかない場合は、少し斬ってやればいいんです。
「そうです。まずはゴミのような盗賊を無力化しましょう」
戦闘が始まって五分後、両手足の骨を折った盗賊を神官さんのそばに置いておきます。
神官さんも心配して出て来てくれたみたいなので、盗賊の面倒を見てもらっておきましょう。
もうすでに冒険者ギルドに連絡してくれたみたいで、近くの町から盗賊を引き取りに来るそうです。
「残りは機械兵だけですか」
機械兵は、ゆっくりと動き出しますが、徐々に皮膚が溶けていきました。
「うわぁ……、気持ち悪い。皮膚が溶けましたよ」
溶けた皮膚が全て剥がれると、中から銀色の鎧のようなモノが現れました。
「アレが機械兵の本当の姿なのですね」
「はい。一匹はカチュアさんにお任せしますね。アマツの言っていた事を試してみてください」
「分かりました。レティシア様は……」
「もちろん、【鬼神化】の力を使います」
機械兵達も、私達を個別に倒そうと考えたのか、二手に分かれて襲ってきます。
「行きますよ」
「はい!!」
私とカチュアさんも、機械兵に向かい走り出しました。
明日から、投稿時間を変更しようと思っています。
詳しい話は活動報告に書いてあるのでそちらをご覧ください。
おまけに簡単レティシアの絵が描いてあります。




