23話 レティシアの師匠
しかし、あれですね……。
先ほどから、人を無能や異常など、酷い事ばかり言われています。
ここは一つ釘を刺しておきましょう。
「さっきから、人の悪口ばかり言って酷い人達です。謝ってください」
「本当です。レティシア様に謝ってください」
私が謝罪を要求すると、カチュアさんも一緒に謝罪を要求してくれます。
しかし、エレンは私達……、というよりもカチュアさんに呆れた顔をしています。
「か、カチュアさん……」
ジゼルは私達二人を見て溜息を吐きます。あ、これは失敗しましたか?
「済まないが、今は茶化すのを止めないかい?」
「むぅ……。はい」
「くっ……。新参者のくせに……」
まったく冗談の通じない人です。カチュアさんもきっと同じ気持ち……、アレ? もしかして、カチュアさんは本気で怒ってくれていたのですか?
嬉しいです。
逆にエレンは酷いです。私達を見て、呆れて笑っているようです。
さて、アマツとジゼルの話にでも耳を傾けますか。
「レイチェルがあのような殺され方をしたんだ……。アマツが言うように、忌み子ちゃんに特別な力があるのならば、母親の死と、町の人間に対する恨みによって、タガが外れる事もあるだろう。私もあくまで人から聞いた話だから実際に見ていないのだが、忌み子ちゃんが異常なまでの強さを見せたのは、カススの件があった後だろう?」
「まぁな……。だが、カススの町ではレティシアはまだそこまで狂暴になっていない。現にあの町でのレティシアは炎系の魔法しか使っていない。これは本人に聞いた方がいいな。レティシア、なぜだと思う?」
あの時の事ですか……。
確か、お母さんが殺されて、町の人間も死ねばいいと思ったんです。
近くの建物が燃えていたから、町の人間も燃やそうと思ったと思います。
「町が燃えていたから燃やそうと思いました」
「なるほどな。普通の人間であれば、炎を見ても炎魔法は使えない。だが、お前はそこで学習したんだ。炎で建物が燃えている……。こんなに大きな物でも燃えるのだから、人間も燃やせると……」
あぁ……。そう考えればそうかもしれません。
「そもそも、あの時のお前と今のお前では物の燃やし方が違うだろう?」
「そうですね。今は何も残さないように燃やし尽くします」
そもそも、焼き尽くすようにしたのは、盗賊の死体が邪魔だと思ったからです。
「確かに、出会った頃のレティは、私が教えた事はすぐに覚えて、私以上にできるようになっていたね」
「ぐぬぬ……。私の知らないレティシア様の話をするとは……」
エレンはなぜか胸を張り、カチュアさんはなぜか悔しそうです。
「そういえば、忌み子ちゃんは戦い方を誰かに教えてもらったのかい? 盗賊を殺して生計を立てていたのは知っているが、ソレーヌやタロウとの戦いを見る限り、忌み子ちゃんは最低限の剣技を覚えていたように見えた。もし、学習したというのであれば、剣技を扱う者に師事していない限りは、ああは戦えないと思うのだが?」
「私に戦い方を教えてくれた人はいますよ」
「「え!?」」
私がそう言うと、カチュアさんとジゼルが驚いていました。
アマツは私の中にいたのですから知っていて当然ですし、エレンにも彼女の事は話してあります。
「あぁ、昔言っていたね。確か、十日間だけ魔物の殺し方を効率よく教えてくれたと聞いたよ」
そうです。
あの人は、人間の殺し方や剣技を教えてくれたのではなく、魔物を効率よく殺す方法を教えてくれました。
「わ、私の知らないレティシア様を……」
はは。
それは仕方ありません。
カチュアさんとはファビエで初めて出会ったのですから。でも、私にとってカチュアさんは最も大事な人の一人です。
「忌み子ちゃんに師匠のような人がいたなんて、驚きだね」
「ど、どんな人だったんですか!?」
どんな人……ですか。
うーん。
「名前は聞いていないので知りません。容姿は、私と同じ黒く長い髪の毛で、十六歳くらいの女の人でした。あ、胸は小さかったです。あの人は、エレンが言っていたように、効率のいい魔物の殺し方を教えてくれました。ですが、最初は魔物だけを狩っていたのですが、盗賊の方がお金を持っていると知ってからは、盗賊も狩り始めました。盗賊も魔物も同じように殺せたので良かったです。私が感謝して尊敬している人の一人です」
「はは……。きっと教えてくれた人は、盗賊を狩りだすとは思っていなかっただろうね……」
「はて?」
盗賊も魔物も同じような生物だと思うのですが、何がいけないのでしょうか?
「アマツ……。忌み子ちゃんの言っている女を知っているかい? おそらくだが、神族だと思うんだ……。いや、根拠があるわけではないんだがね……。何か心当たりはないかい?」
「ある……。レティシアがその女に師事していたころは、そこまで表に出てこれなかったが、確かに神気は感じた。今の特徴を聞いて、アマツの記憶をさかのぼる限り、ここ千年で生まれた月の女神と一致している。私も直接戦ったわけではないが、神族の中では上位の強さと聞いたのを覚えている……」
あの人も神族だったのですか。
そういえば、ヨルムンのお母さんも神族である可能性が高いです。もしかしたら、関係があるのかもしれませんね。
「そ、そうか……。忌み子ちゃんの戦い方を作り上げたのはその女神か……。余計な事をしたものだよ……」
「はて?」
何が余計なのでしょうか?




