21話 精神体
美しい純白の龍鱗と、神様のような二対の翼……。中身が毛玉というだけで、なぜか羽を引き千切りたくなります。
エレンもカチュアさんも毛玉の本当の姿に驚いてジッと見ています。
「け、けだまん?」
『あぁ……、そうだ……。これが私の本当の姿……と言いたいが、今はケダマの姿が本当の姿だな。これは過去の私の姿だ……』
今の姿が本当の姿になってしまっているという事ですか? もう、このトカゲの姿には戻れないのですね。
「でも、ヨルムンガンドと違って、美しいトカゲというのは認めますよ」
『お前は相変わらず口が悪いな。だが、美しい純白の龍鱗だろう?』
確かに美しいです。
だから……。
「毟っていいですか?」
『なんでだよ』
なんだ。ダメなのですか。
お土産に持って帰ろうと思ったのですが……。
「あのケダマの姿の彼が、荘厳な姿をしたドラゴンとはね。ところで、精神体というのは一体何なのだい?」
はて?
ジゼルも結局は知らないのですか?
「ベアトリーチェが用意してくれた文献に、精神体の事が書いてあったのは覚えているのだが、要約すると死霊系の魔物と同じという結論になってしまうんだ」
ジゼルが読んだ本では、精神体になった者は、魂だけの存在になり、神聖魔法に弱くなるそうです。
確かに、この話を聞くと、死霊系の魔物と変わりなく思えても仕方ありません。
『死霊系と言うのもあながち間違いじゃない。そうだな。結論から言うと、私の肉体はすでに滅びてしまっている』
滅びてしまっている?
しかし、毛玉はここにいます。
「もしかして、今も生きているのは精神体だからですか?」
『あぁ。私はアブゾルと相談して、禁術を使ったんだ』
「禁術ってなんですか? アブゾルもこの事を知っているのですか?」
『知っているというよりは、アブゾルは元々精神体だ。精神体とは、肉体が滅びても精神が滅びない種族……、もしくは、禁術を使う事で、精神体になる方法もあるんだ。アブゾルは前者で、私は後者だ』
なるほど……。
確かに、毛玉の今の姿は本当の姿でもないですし、握り潰そうとすれば、握り潰せる事から肉体がありますよね。
「貴方の事は謎ですが、全ての精神体には肉体はないのですか?」
『いや、お前は私をいつも握り潰そうとしたりするだろう? 精神体になった者は、仮初の肉体に入る事が可能だ』
「だから謎だと言ったのですが……。ところで、貴方の肉体は何なのですか?」
『私の肉体は、エレンの力と、お前の【創造】によって作られた姿なのだろうな……』
「元々、その姿ではなかったのですか?」
『違う!? だから、今のドラゴンの姿が本当の姿と言っているだろう!?』
「まぁ、どうでもいいです。ところで、ヨルムンガンドは、よく毛玉を見て、バハムートだと気付きましたよね」
『あぁ、その事についても説明しておこう。ジゼルも先ほど言っていたが、精神体になった者は死霊系のようになる……が、実際は魔力の化身になるようなものなのだ。だから、過去の私をよく知る者ならば、魔力により私に気付くのは当然の事なのだ』
「なるほど……。それで、アブゾルの今の肉体は老人なのですか?」
『それは違う。アブゾルのような天然の精神体は、どんな、仮初の肉体に入ったとしても、姿が元の精神体の姿に引っ張られるのだ。特別な魔法を使えば、性別くらいは変えられるが、姿を大きく変える事はできないのだ』
はて?
今の言葉はかなり重要な言葉ではないのですか?
性別を変える事ができるけど、姿を大きく変える事はできない……。
「毛玉。禁術という事は、今はその魔法は使われていないのですか? そんな魔法を貴方はどうして使ったのですか?」
『私の場合は、本体の寿命が近かった事が原因だ。私が死ねば、ヨルムンガンドを一人にしてしまう。だから、アブゾルと相談してこの肉体を得た。当然、神々の王にも許可を得た』
神々の王ですか。
そんなものがいる事にびっくりしたのですが、一番驚いていたのがジゼルでした。
「バハムート殿。その神々の王というのは、忌み子ちゃんの見た目の年齢よりも、少しだけ年上の黒髪短髪の少女の姿をしているのか!?」
黒髪短髪?
少女?
ジゼルは神々の王と会った事があるという事ですか?
『あぁ。神々の王、サクラ様は見た目こそ少女だが、千年以上の長き時を神々の王として務めていらっしゃる御方だ』
「そうか……。私を生き返らせたのは……」
ジゼルはブツブツと何かを言っていますね……。
「貴方がヨルムンガンドの為に精神体になったというのは分かりました。では、そんな貴方が、どうしてエレンの力の源になっていたのですか?」
『エレンが生まれた時に、強力な神気を感じたんだ。それを抑えなければ、エレン自身が長生きできなかった。サクラ様からその事を聞かされて、助けるように頼まれた。だから、エレンの中に入った。まぁ、エレンの中に入った結果、私の姿はケダマになってしまったのだがな……』
「そうなんだ……。ありがとう、けだまん」
『いや、私もエレンの中で成長したし、ヨルムンガンドとも再会できた。だから、こちらの方が感謝している』
ふむ。
毛玉のおかげでエレンが成長したのですか。
分かりました。今後、少しだけ毛玉に優しくしてあげましょう。
「ところで、なぜ今の姿は白竜の姿なのですか?」
『この空間内では、私は真の姿でいられる。いや、現実世界でも力を取り戻せばこの姿に戻る事は可能だろうな』
「力が戻る?」
『それほど、エレンの神の力は強力なモノだったんだ。それこそ、私の力を注がなければ、いつ暴走してもおかしくない程にな……』
「なるほど……」
確かに魔力の暴走というのは学校でも習った事があります。
エレンの無限の魔力が暴走していたら、甚大な被害が出たかもしれませんね。
「ごめんね。けだまん」
「謝る必要はありません。エレン様」
『カチュア……、どうしてお前がそんな事を言うんだよ……。まぁ、謝らなくてもいいのは確かだ。私がそうしたいと思ったのだからそうしただけだからな……』
ふむ。
毛玉に精神体の事を聞いて、ある程度は理解しました。
グランドマスターとベアトリーチェの関係も大体わかりました。
ただ一つだけ気になるのは、ジゼルが「二人が対峙しているのを見た事がある」と言っていた事です。
ベアトリーチェが精神体だったとしても、その場に二人同時に発現する事ができるのでしょうか?
その事も同じ精神体のアブゾルに聞けばわかるでしょうか……。
それよりも……。
「さて、精神体の事を毛玉に教えられて知ったのですが、それがアマツの力とどう関係があるのですか?」
「分からないか?」
「まさか……、アマツも精神体だったのですか?」




