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親友が酷い目に遭いそうなので二人で逃げ出して冒険者をします  作者: ふるか162号
6章 教会編

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19話 神聖国アブゾールへ


 ベックさんとの話をした次の日の朝、トキエさんが依頼書を私に渡してきました。

 聞けば、アブゾールに行く内容の依頼だそうですが、入国制限のあるアブゾールに対する依頼などあるのでしょうか?

 そこを聞いてみると、依頼を受けたという理由であれば、限定的に入国する事は可能だそうです。

 ですが、それは目的の場所までしか行けず、しかもアブゾールの神官の監視付きという事になるそうです。

 こういった、厳しい条件だからか、普通の冒険者がアブゾールの依頼を受ける事はほぼなく、アブゾル教の信徒の冒険者が依頼を受ける事が多いそうです。


「レティシアちゃん、指名依頼が来ているよ。アブゾールに行くと聞いたから、ちょうどいいんじゃないかな?」

「アブゾールに行く依頼なのですか?」

「うん。アブゾールに小麦を五十袋を持って行って、代わりに聖水を千本持って帰ってきてほしいの。レティシアちゃんの収納魔法なら持って帰れるでしょう? 帰りは転移魔法を使うと思うし……」

「そうですね。容量は無制限なので五百袋だろうと入りますよ。しかし、どうして聖水を千本も? 聖水なら、教会が安値で売り出しているのでは?」


 聖水は死霊系の魔物に効く唯一の攻撃手段なので、割と使用頻度が高いらしく、教会が独占販売しているそうです。

 ただ、値段はかなり安く、良心的です。

 数少ない教会のいいところだと思うのですが、なぜ冒険者ギルドが聖水を持ってくる必要があるのでしょう?

 聖水は神官ならば簡単に作れると聞いた事があります。


「最近セルカの町の近くに洞窟が発見されたのは知っているでしょう? その洞窟には死霊系の魔物が多くてね、聖水の消費が激しいのよ。教会も急いで生産しているらしいんだけど、どれだけ頑張っても、一日五本が限界らしくてね。とてもじゃないけど間に合わないの」


 そういえば、何日か前に、洞窟の話を聞きましたね。

 たいした被害の出ていないうちに洞窟を破壊してしまうのもいいと思うのですが、冒険者の狩場として使えると、様子見が決定したとも聞きました。


「それでね……、このままだと値上げを検討しなきゃいけなくなってね、通常の三倍の金額にまで値上げされそうなのよ。そうなれば冒険者は困るでしょ? そこで、レウス神官長からこの依頼が入ったってわけ」

「指名依頼の依頼者とは、レウスさんですか?」

「よくわかったね。元々は、普通の依頼だったんだけど、昨日の夜にレウス神官長が指名依頼として依頼してきたのよ」


 なるほど。

 私達がアブゾールに行く事になったのを知って、ついでに依頼してきましたね。

 レウスさんもなかなかしたたかな人ですね。


「分かりました。どちらにせよ、アブゾールには行きますから、ついでに依頼をこなしますよ」

「ありがとうね。あ、そうだ、お父さんが呼んでいたよ」

「はて?」


 ギルガさんが?

 何か御用でしょうか。


「今回の指名依頼の事ですかね?」

「うーん。どうだろう?」


 前にギルガさんから聞きましたが、私に対する指名依頼は受けないと決めたそうです。

 今回のように、ギルガさんに知れる前に、タイミングよく指名依頼を入れたとしても、リーン・レイが受ける依頼はすべてギルガさんの目に入るので、却下されるはずです。

 もしかしたら、その説明ですかね?


 私はギルガさんの部屋を訪ねます。

 部屋の中ではギルガさんが忙しそうに書類仕事をしていました。


「ギルガさん、来ましたよ」

「おぅ、レティシアすまんな。お前、アブゾールへ出発はいつになるんだ?」

「えっと、ベックさんが馬車を用意してくれるのが、三日後と言っていました」

「一緒に行くのは誰だ?」

「エレンとカチュアさんとジゼルの三人と一緒に行く予定です」


 エレンとカチュアさんは当然ですが、今回はジゼルにも一緒に来てもらわないと困ります。

 しかし、ギルガさんもジゼルが一緒に行くというのには、少し不満がありそうです。


「ジゼルを連れて行って大丈夫なのか?」

「はい。前にも言いましたけど、赤い私……アマツとの決着をつけるのに、ジゼルは必要だと思うんです」


 アマツもジゼルに会いに行けという意味でフィーノの村に行けと言っていたみたいですから。


「そうか……。今のジゼルに危険はないと思うが、一応気をつけろよ」

「分かりました。ところで指名依頼なんですが……」

「あぁ、今回に限りお前に頼む事になった」


 聖水の件は、セルカの教会も結構ギリギリみたいで、私がアブゾールに行くのは、都合が良かったみたいです。だからこそ、ギルガさんも今回の指名依頼を受けたそうです。



 三日後。


 今日はアブゾールに出発する日です。


 ベックさんが手配してくれた馬車が私達の目の前に停まります。

 馬車は結構大きく、教会の紋章が付けられています。そして、御者さんと神官さんが同行するそうです。

 馬車を引く馬には、脚力増強の魔法札が貼ってあります。確か、これは高速馬車というモノでしたね。

 

 私達四人は早速馬車に乗り込みます。

 馬車に乗ると、私を挟んでエレンとカチュアさんが座ります。


「ふふっ……。わざわざ狭い方に三人乗らなくてもいいと思うのだがね……」


 私達が三人で座るのに対してジゼルは一人で座っています。ジゼルの横には、色々と荷物が置かれていました。


「ジゼルこそ、荷物は収納魔法でもっていけばいいと思うのですが?」

「そうだね。でも、これは収納魔法に入れられないんだ」

「はて?」


 収納魔法に入れられないとなると生物が入っているのでしょうか?


「この箱には今実験しているものが入っているんだ。同じものを、片方は収納魔法に入れて、片方は収納魔法に入れないとどう違いがでるかを実験しているんだ。だから、この箱を収納魔法に入れてしまうと意味がなくなるんだよ」

「あ、そうなんですか」


 確かに収納魔法には不思議な事が多いんですよね。

 収納魔法にお弁当を入れると腐らないんです。魔物の素材もそうなのですけど、生物は入れません。

 ジゼルの研究が進めば、収納魔法の事も何か分かるかもしれませんね。


 ジゼルは馬車生活でも暇にならないように、他にも色々と実験器具なども持ち込んでいるそうです。

 そんなジゼルを見て、カチュアさんが低い声で、ジゼルに話しかけました。


「ジゼル……。まさか、貴女と一緒に旅をするとは思いもよりませんでした」

「そうだね。私もファビエでは、長く宮廷魔導士をやっていた記憶があるが、こうやって君と面と向かって話をするのは初めてだね」

「そうですね」

「エレンちゃんも聖女としては知ってはいたが、ちゃんと会うのは初めてだったかい?」

「うん……」


 二人はジゼルに思う事があるのか、言葉にあまり力がないように聞こえます。


 これはいけません。

 私が間に入らないとだめですね。


「ところでジゼル。アブゾールまではどれくらいかかりますか?」

「そうだね……。この高速馬車でも約三週間はかかると言ったところかな」

「結構遠いですね。分かりました。私が馬車を引きましょう」


 それが一番速いです。


「絵面がキツイから止めてくれ」


 はて?

 どこかで聞いた事のある言葉ですね。


「レティ……。そのセリフ、昔ギルガさんにも言われてなかった?」

「そうでしたっけ?」


 あぁ、そうです。

 ファビエに向かった時にそう言われました。


 私達は馬車に揺られています。

 高速馬車なので、若干揺れが激しいです。


 ジゼルは揺れるエレンとカチュアさんを見て、「揺れは大丈夫かい? 気持ち悪くなったのなら、早めにいうんだよ。酔い止めの薬は持っているから」と優しい顔で言います。

 そういえば、ジゼルはお医者さんでしたね。

 

「まだ、大丈夫です」

「うん、大丈夫」


 はて?


「どうして、私には言わないんですか?」

「だって、忌み子ちゃんが酔って弱るなんてありえないだろう?」


 確かに酔うという感覚はよくわかりません。

 そういえば、昔ギルガさんがお酒に酔ったと言ってトキエさんに怒られていましたね。酔うという事は怒られる事なのでしょう……。

 私は絶対に酔いませんよ。


 私が決意を胸に秘めていると、ジゼルが呆れた顔で「きっと、何かを勘違いしているんだろうね……」と言ってきました。

 はて?

 私は何も勘違いしていませんよ。

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