12話 グランドマスターの干渉
「タロウを召喚した時の話か……」
「えぇ……。ファビエの宮廷魔術師だった貴女も、タロウを召喚したあの場所にいたはずよ」
ファビエの宮廷魔術師?
グランドマスターによってギルドに所属させられていた私が宮廷魔術師だと?
確かに、タロウが召喚されたあの場所に私はいた。しかし、自分がファビエの宮廷魔導士だったという記憶は……、いや、ある。
「そうか……。私が宮廷魔術師だったのならば、グランドマスターが裏で関わっているというのは間違いないだろうな。ネリー姫、奇妙な事を聞くが、私はいつから宮廷魔術師だった?」
「まさかと思うけど、覚えていないの?」
「いや、記憶にはある。他者が聞けば、違和感を覚えるだろうが、確かに記憶はあるんだ。ただ、それが自分の記憶じゃなく、他者の記憶を見て、それを覚えているという変な感覚になるんだ。その他者の記憶には、グランドマスターから、ファビエの宮廷魔術師になるように命令され、教会からの紹介で宮廷魔術師になっている」
「ジゼル。私のお母さんの話の時に聞いていますから、貴女に何が起こったのかを理解はしているので聞きますけど、今回の貴女の記憶はいつから途切れていて、いつ戻っているんですか?」
いつ途切れてか……。
フィーノの村で忌み子ちゃんに私の話をした事は正解だったようだ。
「そうだな。忌み子ちゃんには話したが、研究所が滅びた後、意識が戻ったのは、レイチェルが殺されたと聞いた日だった。その時の私は、ギルドの研究室にいた。おそらくだが、レイチェルの事でショックを受けて意識が戻ったんだろうな。そこで、忌み子ちゃんの存在を知った。殺されているかもしれないが、せめて忌み子ちゃんだけは……と思い、捜そうとしたが、そこで意識が途切れた。そして、次に意識が戻ったのはタロウ召喚のその瞬間だ」
この時にはすでに遅かったのかもしれんがな……。
「そうですか。つまりは、私と敵対した時は意識が戻っていたと?」
「あぁ。間違いなく私の意志だ。その頃の私は、忌み子ちゃんと敵対はしたくなかったが、そんな事よりもグランドマスターを殺す為に大罪の力を扱う事しか考えてなかった……」
「ちょっと待って。今の話だと、敵はグランドマスターであって、貴女はレティと敵対する必要がなかったんじゃないの?」
「そうとも言えるが、実際に、忌み子ちゃんの存在を把握した時には、すでに敵対していたからな。なにせ、テリトリオの馬鹿な神官が忌み子ちゃんが大事にしているエレンをタロウに献上しようとしていた。教会がそう動いていたのなら、私にはどうする事もできなかったさ……」
まぁ、大罪の力を手に入れた時から、自分が自分ではないと感じていたがな。まぁ、言う必要はないと思うが……。
しかし、それすらもグランドマスターの掌の上だったのかもしれないな。私をタロウのそばに置いたのは、私に大罪の力の研究をさせる為だったのだろう……。
「ジゼル。お父様はどうだったの? 操られていたの!?」
「ネリー姫……。貴女から見てもファビエ王は変わっていなかっただろう? ファビエ王は操られていない。私の記憶通りならば、グランドマスターが接触していたのはファビエの教会だ。神官長を完全に操り、勇者を召喚させるように言葉を使ってファビエ王を誘導した」
「誘導? グランドマスターはなぜそんなに面倒くさい事を? 操ってしまえば良かったんでは?」
普通に考えれば、そう思うのだろう。
「ネリー姫。そこは私じゃなく貴女の方がよくわかっているんじゃないのかい?」
「え?」
「ファビエ王は良くも悪くも、タロウを召喚した後に変わったかい?」
「え!?」
ネリー姫は私の言いたい事を理解してくれたようだ。
つまりは、操った場合、身近にいる者は必ず気付く……。
「……そういう事だ」
「お父様の事は、理解したわ……。しかし、武闘家として強かったアルジーは分かるとして、なぜソレーヌは選ばれたのかしら……」
「なに?」
「いやね。ソレーヌは、確かに剣士としては優秀で強かったけど、アルジーと比べてしまうと劣るわ。それに、美貌で仲間にしたというのもおかしい。ジゼルだって知っているわよね。世界の美と呼ばれた舞台女優があの国にいた事を……」
世界の美。
この世のモノとは思えない程、美しいと言われた女性の事か……。
あグランドマスターも彼女の事は美しいと褒めていたな。
しかし……。
「それなら推測だが、理由は分かる。グランドマスターがソレーヌを使ったのは、グラティアートルの至宝を手に入れる為だったと思う」
「え?」
ファビエにあったヒヒイロカネの盾をどこかに持って行ったことを考えると、グラティアートルにあると言われている雷水晶の剣を手に入れる為に、グラティアートルの姫であるソレーヌを人質にとったのかもしれないな。
グラティアートルは剣士達によってできた国だったからな……。グランドマスターも下手に手を出せなかったのだろう……。
「ネリー姫は、ソレーヌがどういう性格だったか覚えているかい?」
「え、えぇ……。私が出会った彼女は、剣技をすべてと思い、自分を鍛え上げていたわ。でも、弟よりも強かったのに、王位継承できなかった事を悔やんでいたわ。でも、まっすぐな性格だったはずよ。彼女もグランドマスターに操られていたのかしら……」
「いや、性格を変えられていたかもしれないが、ソレーヌを完全には操り切れなかったとは思うよ」
「え?」
タロウの性格は最初はもっと無茶苦茶で糞みたいだった。
しかし、ソレーヌと一緒にいる事でタロウの性格は落ち着いたものになっていた。
「ネリー姫。私が知っているのは、これくらいだ。まとめると、グランドマスターが干渉していると思われるのが、ギルド。これは当然だな。次にもう滅びてしまったが、ファビエの教会。これはタロウの召喚に一番関わっていることから間違いないだろう。次にソレーヌの故郷であるグラティアートルだ。おそらくあの国はすでにグランドマスターの傀儡だろう。ファビエで娘が死んだのにも関わらず、何も言ってこないのがそもそもおかしい。そして最後にエラールセの教会だ」
「はて? エラールセの教会ですか?」
忌み子ちゃんが拠点としているのがエラールセだ。
エラールセと言えば狂皇であるグローリア陛下のお膝元であるエラールセの教会がグランドマスターの手の中にあると言われて驚くだろう。
「忌み子ちゃん。もし、聖女エレンが一人で教会の仕事をしているのなら、気を付けた方がいい」
「……姫様!?」
「大丈夫よ。エレンの今日の仕事はセルカの教会だからね。それに、エレンに何かあれば、レティにはわかるでしょ?」
「はい……」
なるほど。
忌み子ちゃんの魔法か……。
この子の作った魔法やスキルは本当に革新的なモノばかりだ。
「これで、私の知る話は終わりなのだが、忌み子ちゃんはこれからどうするんだい?」
「そうですね。トキエさんに事情を話して、教会に行く仕事を探してみます。そこで話を聞こうと思っています」
「そうか……。ネリー姫。私の話は終わりだ。貴女が私をどうするか決めてくれ」
「そうね……」
ネリー姫は私を許すわけではないが、生きろと言った。「貴女が死んだところで、ファビエの国民は蘇らないわ。だから、これからは世界の為に生きて。貴女は不老なのでしょう?」と言われ、ネリー姫には敵わないと思ってしまった。
実際の私の年齢は百三十を超えている。それなのに、二十年くらいしか生きていないネリー姫には頭が上がらない。
私は決めた。
例え、ネリー姫が望もうと望まなかろうと、この方に尽くすと……。
しかし、それは今じゃない。
「忌み子ちゃん。私はフィーノの村に帰る。何か用があったら連絡用の魔法玉を使うなり、転移魔方陣で直接来るなりしてくれ。私はあの村の呪いを解きたい……」
「はて? 何を言っているのですか?」
何をと言われても、今説明したんだが……。
その時、忌み子ちゃんが私の手を掴む。
「なんだい?」
「貴女も一緒に教会に行くんですよ」
「な、なぜだ?」
「血がつながっていないとはいえ、貴女は私のおばあさんだからです。このまま、リーン・レイに入ってもらいますよ」
はぁ?
この子は一体何を言っているんだ?




