10話 フィーノの村の呪い
ジゼルの話を聞いた後、私は冒険者ギルドの依頼を終わらせる為に、フィーノの村の村長に鉄鉱石を渡しに行きました。ジゼルにもついてきてもらった方がよいと思ったので、一緒に村長の家に向かいます。
村長さんに会って、鉄鉱石を渡した後、転移魔方陣の事も言おうとしたのですが、ジゼルに止められました。
あとで理由を聞くと、「この村は外の国に何度も襲われている。もし、村人が転移魔方陣の事を知ってしまったら、転移魔方陣を破壊するだろう。そのくらい、外の人間との交流に不安な気持ちを持っているんだ」と教えてくれました。
鉄鉱石を商人に発注しないのも、それが理由だそうです。
ジゼルと話し合った結果、転移魔方陣を使うのは、私達リーン・レイだけが使う事にして、鉄鉱石の注文はジゼルを通して行う事になりました。
ジゼルはこのままフィーノの村に医者として留まり、転移魔方陣を管理する事になりました。
このまま、フィーノの村に居させてグランドマスターの手が回って来ないという保証はありませんが、ジゼルは私のおもちゃなので、グランドマスターに好きにはさせません。
「それで、姫様に会う覚悟はできましたか?」
「最初から覚悟はできていると言ったはずだが?」
ジゼルは少し笑いながらそう言います。
姫様に謝ろうと決めた事で、だいぶ気持ちが楽になったそうです。
こうやってジゼルと話して思ったのですが、悪い人間とは思えませんね。私が生まれたのは、ジゼルのおかげもあるみたいですし……。
まぁ、もしもの時は私が間に入りましょう。
セルカの町に転移してきた私達は、ギルガさんに報告する為にギルガさんの自室の扉をノックします。
出てきたギルガさんは、ジゼルを見て臨戦態勢に入りました。
「レティシア。これはどういう事だ? なぜ、お前がジゼルと一緒にいる? というか、なぜジゼルが生きている?」
「まぁ、それは後で話すとして、今拠点にいるのはギルガさんだけですか?」
「いや、トキエもいる」
ギルガさんの話を聞くと、エレンも、教会にお仕事に出ているらしく、カチュアさんも嫌々お仕事に出かけたそうです。
だからこその警戒でしょうか?
私はフィーノの村でジゼルに助けられた事をギルガさんに説明します。
カチュアさんに早く帰ってくると約束したので、あの力……、アマツの力を使って急いでフィーノの村に全力で走っていたのですが、村に到着した直後に、頭から血が噴き出して倒れてしまったんですよね。
それで、懐かしい匂い……ジゼルの匂いでしたが、そこに向って行ったんですが、扉の前で意識を失ったんです。
その事を説明すると、ギルガさんはジゼルを睨みつけます。
「レティシアを助けた? どういうつもりだ?」
まぁ、敵同士だったので、ギルガさんの態度もわかります。そもそも、ファビエが滅びた原因にもなった人物ですから、警戒するのは当然でしょう。
「レティシア、こいつはファビエの国民を一瞬で皆殺しにした魔導士だぞ。そんな奴にかかわってセルカの住民が殺されたらどうする!?」
「それについては問題ない」
私が先に話そうとしたのですが、ジゼルが先に答えます。
「信じてもらえないだろうが、本来の私ではあんな魔法は使えなかった。魔力が全く減っていない状態でも使えないのに、アルジーとソレーヌを生き返らせた直後の私には到底使えない」
「なんだと? つまり、お前がやったわけじゃないとでも言いたいのか?」
ギルガさんは殺気を込めて、ジゼルを睨みつけます。手には剣の柄を握って、いつでも抜ける状態になっています。
……しかし。
「ギルガ殿。剣を収めてくれないか?」
「なんだ? 命が惜しいのか?」
ギルガさんがそう言うと、ジゼルは困ったように笑います。
「別に死ぬのが怖いわけじゃない。一度ならず二度も死んでいるからな。だが、自分が悪くないなんて言うつもりはない。ただ、私を殺す資格があるのは、ギルガ殿ではない」
「なんだと?」
「私を殺していいのは、ネリー姫とレッグ殿の二人だけだ。彼女達には、私を殺す理由がある」
ジゼルが真剣な目でそう言うと、ギルガさんは剣から手を放しました。
「はぁ……。そこまで覚悟ができているなら、オレが勝手に斬るわけにはいかないな。お前の生死はネリーに決断させるとしよう。レティシア、依頼は完了したのか?」
「はい。フィーノの村に鉄鉱石を送り届けましたし、今後は転移魔方陣を使って楽に転移できるように設置してきました」
「場所は?」
「ジゼルの自室です。ジゼルは今後、私のおもちゃとして頑張ってもらう予定なので、設置場所には問題はありません」
「なに? ジゼルの自室だと? 誰がその場所に設置すると考えた?」
「私だ……。忌み子ちゃんは村の真ん中に設置しようとしたから止めた。おそらくだが、村の真ん中に設置したとしても、村の者に破壊されるだろう」
「なぜ、そう思う?」
「冒険者として名を馳せたギルガ殿ならば、フィーノの村が各国からどう見られているかを知っているだろう?」
はて?
フィーノの村は亜人さん達の村という以外は、変なところは無い村でしたが……。
そういえば、ジゼルから村の人達の事を聞いていましたね。
「フィーノの村は呪われた村だったな。確か、変異種の亜人ばかりが住む村と聞いたが、それよりも有名なのが、あの森だろうな」
「ギルガ殿。一つだけ訂正しておく。フィーノの村の村人達は変異種の亜人じゃない。アレは私が改造した村人の子孫だ」
ジゼルは少し悲しそうな顔をして、フィーノの村が亜人の村になった経緯を話し始めました。
村を守るために、村人達は自ら亜人になる選択をして、ジゼルはそれに答えた。
亜人になった村人達は村を守り抜いた……そうです。
「さっきも言ったが、フィーノの村の先にある森に価値がある。しかし、村を守るために亜人に改造するとは……。逃げるという選択肢もあったんじゃないのか?」
「それはできなかった。あの頃の私は不老になったばかりで、それほど強くもなかった。もし、村人達と逃げていたら、皆殺しにされていただろう」
「なぜ、そう思う? 兵士達に捕まって、捕虜となった方が生き残る可能性は高かったんじゃないのか? 亜人になったとしても、村を守り切れる保証はなかっただろう?」
「それは甘いね。甘すぎるよ、ギルガ殿。村人は抗わなければ皆殺しにされるのを知っていた。それは、あの森がそういう場所だったからだ」
「なんだと?」
「今は色々な所から資源が取れるから、森の重要性はそこまで高くなくなった。しかし、百年前はそうじゃなかった。村を襲ってきた国は、森は欲しいが村人はいらないという考えだった。だからこそ、宣戦布告もなしに襲ってきたんだろう」
「なるほどな……。村人には、戦う道以外はなかったという事か……」
「あぁ……」
ギルガさんもそれ以上は何も言いませんでした。
ギルガさんから事情を聞かされた姫様とレッグさんは、依頼を中断して帰ってくる事になりました。
その日の夜。
姫様とジゼルが顔を合わす事になりました。




