6話 壊れ始める心
ここはどこだ?
私はどこにいるんだ?
私の周りには何人もの人間がいる。それに私の目の前に獣人の死体が置いてあった。
私は近くにいた男に話を聞く。
「き、君。ここはどこだ? それに今は……」
「え? 所長。何を言っているんですか? 今は……」
しょ、所長?
か、彼こそ何を言っているんだ?
しかも、グランドマスターに会ってから二十年経っているだと!?
……うっ!?
な、なんだ?
頭の中に様々な記憶が……。こ、これは私の記憶なのか!?
私の頭の中に流れたのは、私がSランクとして魔術ギルドに加入して、二十年の間、グランドマスターの為に様々な研究をしている記憶だった。
「な、なんだ……? 私はなぜギルドに属しているんだ?」
「ジゼル所長。何を言っているのですか? ジゼル所長は魔術ギルドのSランクじゃないですか。もう二十年もギルドの為に研究をしているでしょう?」
「あ、あぁ……」
彼の言っている事は何も間違っていない。
私は、魔術ギルドで様々な人体実験を繰り返してきた。
記憶の中の私は、残酷だ……。何人殺してきたんだ?
目の前にいる獣人もそうだ……。
「すまない。この獣人を手厚く葬ってやってくれ」
私は近くにいた研究員にそう言うが、研究員は動かない。
私が怪訝な顔をしていると、研究員は顔を青ざめさせる。
「どうしたんだい?」
「い、いえ……。ジゼル所長が獣人を殺して連れて帰ってきたのに、手厚く葬れとはどういう事ですか? ギルドに獣人の死体を届けるという依頼はどうするのですか?」
「……」
獣人の死体?
そんなモノをどうするんだ?
私は死体をどう使うかを思い出す……。
そうか……。
人間に獣人の筋肉組織などを埋め込む為か……。
「私は以前に亜人を作り出した事がある。その時に獣人の死体を人間にも埋め込んだが、無意味だった。ギルドにもそう伝えておいてくれないかい?」
「え? で、でも……」
私自身が獣人の村を襲い、村一番の強さを持った獣人を殺して持ってきた、そんな私が手厚く葬れと言っているんだ。研究員が不思議に思うのも当然か……。
しかし、こんな意味のない実験をしても時間の無駄だ……。研究員が動かないのであれば、私自身が獣人を葬るとしよう……。
私は浮遊魔法で獣人の遺体を浮かび上がらせる。すると、研究員が焦りだした。
「しょ、所長? いったい何を?」
「私がこの獣人を葬るだけだよ。すべては私の責任にすればいい」
「し、しかし、それではギルドの依頼を放棄する事になりますよ!?」
私は研究員の言葉を無視して、転移魔法で獣人の村に戻る。
私が殺したのだが、自分の村に埋められた方がいいだろう……。
私は土魔法で穴を掘り、そこに獣人の遺体を入れて埋める。
しかし、あれから二十年も経った?
精神操作か? アイツか……ん? いや、アイツとは誰だ?
思い出せない……。
そもそも、私はなぜギルドにいるんだ?
私が魔導を研究していたのは……。思い出せない……。
「とりあえず、一度研究所に戻ろう……」
私は転移魔法で研究所に戻る。
そもそも、転移魔法を使えなかった私が、いつの間に転移魔法を覚えたんだ?
研究所に戻ると、冒険者達が研究所に集まっていた。
そのうちの一人が、私に近づいてくる。
「ねぇ……。貴女が魔導王ジゼルね」
「君は?」
「私は冒険者ギルドのSランク、ラロというの。魔導王ジゼル。貴女を評議会に連行させてもらうわ」
「評議会とは?」
私の記憶にもそんな場所はない。初めて聞く単語だな……。
「ギルドの頂点であるグランドマスターの直接の部下よ。各ギルドのシンマスターと評議会のメンバーですべてのギルド運営をしているのよ」
「そんな大層な連中が、私に何か用かな?」
「貴女はギルドの依頼であった獣人の死体を勝手に持ち去った。それが理由でね、貴女を査問にかける事になった」
査問ね……。
「断ると言ったらどうなるんだい?」
「そうね……。力づくでも連れて行く事になるわね」
ラロという男……? は剣を構えている。冒険者ギルドのSランクと言ったな……。
まったく隙がない……。逃げ切るのは不可能と考えた方がいいだろうな……。
「分かった……。抵抗するのは止めておくよ……」
「それが一番賢いわね」
私はラロに連れられ、ギルドの総本山へと連れて行かれた……。そして評議会に連れて行かれて、奴と会った。
そして、私の意識は飛んだ……。
今度は何年経った?
「……っ!?」
私の目の前にいる女の死体……。これは……人間か?
いや、違う。これは人間じゃない。
「こ、この女は一体?」
ズキンっ!!
頭が痛む。
また何年か分の記憶が一気に流れてきた。
「さ、三十年……。そして、コレは鬼神アマツ……。連れてきたのは、ベアトリーチェか……」
ベアトリーチェ?
いったい誰の事だ?
ベアトリーチェがアマツの死体を持ってきたのは確かだ……。だが、ベアトリーチェが誰かが分からない……。
私は周りを見回す。誰もいない……。
そうだ。
この部屋は、私にしか入れない部屋……。
グランドマスターに不信を持って、この部屋を作り、魔人について研究を始めた。
そして……。ベアトリーチェは自身の部下を作るために、アマツの死体を持ってきた。
アマツは……、神でありながら……【神殺し】というクラスで【創造】【破壊】【再生】という能力を持っていた……。
きっとベアトリーチェはその三つの能力を持った配下が欲しかったのだろう……。
それだけは……、思い出す事ができた……。




