5話 接触
いくつか指摘があったので修正しました。
百年前。
私はフィーノの村外れで魔法の研究を続けていた。歳は三十を超えたていた。しかし、私の見た目は十数年間、全く変わっていなかった。
最近は、鏡を見る度にまったく変わらない姿に、嫌悪感すら覚えていた。
「これは一体どう言う事なのだろうか? 普通であれば永遠の若さを手に入れたと喜ぶべきだろうが、何か気持ちが悪いな……。まさかと思うが……」
そういえば、何かの書物で不老について書かれているものがあったな……。まさかとは思うが、一度調べてみるか。
私は家にある書物を読み漁り不老の事を調べた。
まず、不老というのは不死ではないそうだ。どうやら、この二つは相反するようで、両方を持ってしまうと、肉体が崩壊してしまうそうだ。
私はおそらく不老。
不老になれば、時間の経過で死ぬ事はなくなり、自己再生能力は通常の五倍になるそうだ。ただし、死に至るほどの怪我や、文字通り殺されれば死んでしまう。
「なるほど……。私は不老になったという事か……。魔道や様々な技術を突き詰めれば不老になる資格を得て、ある条件を満たした者が不老になる……か」
資格については理解した。しかし、条件とは?
条件については何も書かれていなかった。
どちらにしても、私が不老になったという事は……。この村を救う事ができるかもしれない。この村は、私が原因で呪われた村になってしまった……。
「ほぅ……。急に不老になって混乱していると思っていたが、随分と落ち着いているみたいだね」
「だ、誰だ!?」
私が振り返ると、そこには仮面をつけた銀髪の女が立っていた。
「やぁ、魔導王ジゼル。初めましてかな? 早速だが、君に話があるんだが聞いてくれるかい?」
「魔導王……? 何を言っている? 私はそんな大層な肩書は持っていない……」
そう、私にそんな価値はない。私はこの小さな村で魔法の研究をしていただけだ。
「あぁ、君は魔道を極めてSランクとなった。それが、不老になるという事だ。だから、敬意をこめて魔導王と呼ばせてもらおうと思ってね」
「何を馬鹿な事を……。そもそも、お前は何者だ?」
「私はすべてのギルドの頂点に立つグランドマスターと呼ばれる者だ。君の魔道に対する功績を称え、魔術ギルドのSランクを名乗ってほしい。そして、私のために研究を行ってほしい」
グランドマスターだと?
確かにギルドの頂点に立つ女は仮面をつけていると聞いてはいたが、こいつがそうなのか?
しかし、魔術ギルドで研究か……。
「いや、私にはその資格はない。私はこの村で研究を続けたいんだ……」
私の最終目標はこの村の呪いを解く事……。ほかの研究はこの際どうでもいいんだ……。
グランドマスターはゆっくりと私に近づき、私の頬に手を当てる。
「この村の呪いを解きたいのかい? あははは」
「何を笑う?」
私はグランドマスターに笑われて少し不機嫌になる。
「普通の人間など……しかも、たかが村人がいくら死のうとどうでもいいじゃないか。君は不老となり、超越者になったんだ。そこらに落ちている石ころを気にする必要はないだろう?」
「お、お前……。人間を何だと思っているんだ!?」
いや、この村の住民を亜人に変えた私が言う事じゃないかもしれないが、こいつの考えは許せない。
「私の方こそ、君の考えが分からないな。君や私はこの世界に必要な有能な超越者だ。それに比べて人間……魔族、亜人を見てみろ。ただ生きているだけの無能だ。この世界を私が管理して、有能な者だけが生き残る素晴らしい世界に生まれ変わらせるんだ」
「く、狂っている……」
「狂っている? そうかもしれないな。この世界の数多い無能からすれば、私や君のような考えの者は狂人に見えているだろうな。だがな、君もこちら側だ!!」
「っ!?」
私が狂人?
いや、否定はできないな。
私はこの村を守る為といえ、村人達を亜人に改造した。その結果、この村は滅びずに済んだ……。だが、その代償にこの村は呪われた村と呼ばれるようになってしまった。
「さぁ、君はこのままこの村にいていい人間じゃない。私と共に来るんだ」
グランドマスターは私の手を取る……が、私はその手を振り払った。
「黙れ。私は自分の願った研究をする。貴様もギルドの頂点だろう。ギルドはお前の言う無能によって支えられているはずだ。それにもかかわらず、そんな人達を何だと思っている!?」
「何を甘い事を……。私がギルドを作った事で、無能どもに役目を与えてやっているのだよ。なぜ、その崇高な私の考えを理解できない? 君は超越者なんだよ」
「黙れ!! お前が目の前にいるだけで虫唾が走る。消えろ!!」
私はグランドマスターに炎魔法の上級〈クリムゾン〉を撃ち込む。
もちろん、グランドマスターをこんなモノで倒せると思えないが、傷くらいは……。
「なっ!?」
「くははははは。反抗的な態度は嫌いじゃないよ? まぁ、いいよ。今日は諦めるとしよう……まだ来るよ」
グランドマスターはふっと消えてしまう。転移魔法か?
しかし、クリムゾンを受けて、無傷とはな……。
「くそっ……。あんな奴に使われてたまるか……。うっ……」
狂人と話をしたからか、ものすごく疲れた……。少し休むとするか……。
私は自室のベッドに倒れこむように眠った……。
次に目が覚めたのは……二十年後だった……。




