4話 生きかえった理由
この反応……。忌み子ちゃんは、私が生き返った事を知らなかったのか……?
それならば、こんな辺鄙な村に何をしに来たんだ?
……忌み子ちゃんは冒険者だったな。という事は依頼か?
この村に依頼……。この間の宴会の席で村長が鉄鉱石をギルドに注文したと言っていたな。
村長は、冒険者が持ってきてくれるのを待つ、と言っていたが、この村が出せる報酬では、場所によって一か月ほど時間を拘束されるこんな仕事を受ける冒険者はいないと思っていたが、忌み子ちゃんが受けるとはな……。
何か裏がありそうだな……。
「お久しぶりですね……。まさか、生きているとは思いませんでしたよ」
「そうだね。忌み子ちゃんはかつての敵が生きていた事を知って、どうするんだい? 私を殺すのかい?」
自分でも馬鹿な事を言っていると思うが、忌み子ちゃんの性格ならば、敵を見逃すとは思えない……。
仮にも襲ってきたとしても、今の忌み子ちゃんは手負いだから、逃げる事は可能かもしれない……。
……。
いや……。
もう生に縋る必要もないか……。
ここで殺されたとしても、私のやってきた事を考えれば、この世界に生きているのも本来はおかしい。
私は覚悟を決めた……。だが、忌み子ちゃんは動こうとしない。
なぜだ?
「何を警戒しているんですか? 安心してください。殺しませんよ。今の貴女と戦っても面白くなさそうですし、むしろ、おもちゃとして遊びたいとは思っていますが……」
おもちゃ?
何を言っているんだ?
「まぁ、いい。私を殺しに来たのじゃないのなら、忌み子ちゃんに聞きたい事がある……。この村に……、フィーノの村に来た理由はなんだ?」
「理由ですか? 表向きは依頼ですよ。鉄を持ってきたんです」
「そうか……。鉄鉱石については、後で案内するから村長のところに持って行ってくれ。そこで報酬と依頼達成の印を貰えるだろう。それで、表向きという事は、本当の目的があるのか?」
本当の目的……。
呪われた村であるこの村をエラールセは滅ぼそうとしているのか?
グローリア陛下は、亜人に対して偏見は持っていないと思っていたが……。
それとも、この先にある広大な森を手中に収めるためにこの村が邪魔になった?
もともと、私がこの村の住民を改造したのは、村を滅ぼそうとした国の脅威から村や村人を守るためだ。
エラールセがこの場所を欲しているのなら、村人を逃がして私一人でも戦う……。
村の人達に害を与えるというのなら、私が命を懸けて忌み子ちゃんを倒してみせる……。
無駄かもしれんが、魔力を圧縮させておく……。当然、忌み子ちゃんはそれに気付く。
「はて? 私と戦いたいのですか?」
「もう一度聞くが、何を目的にここに来た? 忌み子ちゃんの答えによっては、勝てないと分かっていても、忌み子ちゃんと再び敵対する事になる……」
私はいつでも魔法を撃てるように準備する。しかし忌み子ちゃんは、首を傾げて苦笑している。
「大丈夫ですよ。目的といっても、エラールセは関係ありませんし、村人に何かをするつもりもありませんよ。ここに来たのは、私個人の用事です」
「個人の用事?」
「はい。赤い私に、フィーノの村に行くように言われたんです。何か行く方法はないかとトキエさんに相談したら、都合のいい依頼があったので受けてここに来ました。貴女がこの村にいたのは本当に予想外でした」
赤い私?
何を言っている……、いや、赤い私……か……。
赤い私というのが、私の想像通りの者だったら、忌み子ちゃんにはちゃんと話しておいた方がいいな……。
「私からも一つ聞いていいですか?」
「ん? あぁ……」
「貴女はなぜ生きているのですか?」
なぜ生きているか……。
そういえば、忌み子ちゃんは私がタロウに殺された事も知らなかったんだな……。
私はあの戦いの後の事を忌み子ちゃんに説明する。そして、私も聞きたい事があったので聞いてみた。
「あれからタロウには会ったのかい? タロウに今度こそとどめを刺したのかい?」
タロウに関しては、私が人生を歪めてしまったと思っているから、長く生きてほしいと思ったのだがな……。
「いえ、殺していませんよ。確か……、今はラロという変態と一緒にいるはずです。あ、少しだけまともになったみたいですよ」
「ラロ? 冒険者ギルドのSランクか……」
まさか、タロウが冒険者ギルドの英雄と一緒にいるとはね……。どこをどうやったらそうなったのか……。
もしかしたら、私を生き返らせたのは……。
「貴女は、グランドマスターを知っているのですか?」
「あぁ、ギルドの頂点に立つ女だろ? 勿論知っているさ。それに、一度だけ会った事もあるからね」
私が不老になった直後に、グランドマスターが私の目の前に現れた。
あの時は、身の危険を感じて、魔術ギルドのSランクになれと言われたのを拒否したあの日以来、私が私じゃないような感覚になる事があった……。
「会った事があるですか……。グランドマスターの仲間なのですか?」
仲間?
忌み子ちゃんは何を言っているんだ?
それとも、グランドマスターと仲間だと何かあるのか?
「意味が分からないな……。グランドマスターとは一度会ったきりだし、私はそもそもギルドに加入していない。だから、君よりもグランドマスターとは無関係と言っていいだろうな……」
「そうですか……」
まさかと思うが、忌み子ちゃんはグランドマスターと敵対しているのか?
それならば……。
「私自身としては、生き返った事も、君に再び会ってしまった事も不本意だったのだが、君が目の前に現れたんだ。前に話せなかった事を話そうと思う……」
「前に話せなかった?」
「あぁ、君の母親……、いや、君の祖母の事……。そして、君が『赤い私』と呼ぶ者にも心当たりがある」
最初はわからなかったが、赤いというのが髪の毛の事だったら、間違いなくアレだ……。
「もしかして、赤い私は、私のおばあさんなのですか?」
「いや、違うよ。君が言う赤い私は角が生えてなかったかい?」
「はい。生えていましたよ。額に一本角がありました」
額の一本角……。
間違いないな……。
「君が赤い私と呼ぶ赤毛の鬼は……。私がかつて君の祖母に埋め込んだ神の一柱……。鬼神アマツだ……」




