2話 フィーノの村
エスペランサでのクランヌさんの婚約パーティーが終わり、三日後に私達はセルカの町に転移して帰ってきました。
セルカの拠点に戻ると、ギルガさんとトキエさんが出迎えてくれました。
「そちらがヘクセ嬢だな。レティシア、彼女をリーン・レイに入れるつもりか?」
「はい」
「しかし、その子はエラールセの貴族の娘なんだろう? いいのか?」
「そこは、事後報告でいいんじゃないですかね?」
「いや、ダメだ。最低でも、グローリア陛下には報告しておくべきだろう」
グローリアさんには話した記憶もあるようなないような気がしますが、後で言えば良いと思うのですが……。
「まぁ、いい。グローリア陛下には、オレから話しておく。ヘクセちゃん、リーン・レイ加入の説明をするから、座っていてくれ。レティシア、お前はトキエに話があるんだろ?」
そうです。
赤い私に教えてもらった村の事を聞かなければいけません。
「トキエさん。フィーノの村は知っていますか?」
赤い私は村の名前を知りませんでしたが、ブレインが知っていたらしく、教えてもらいました。
亜人さんの村だそうですが、呪いでそうなったらしく、呪われた村と呼ばれているそうです。
「知っているよ。呪われた村とか言われてるけど、普通の農村だよ? そんな所に何か用なの?」
「はい。赤い私にその村に来いと言われました」
「赤い私? よくわからないけど、あの村に行くのなら……。確か、常時依頼があったはず……」
トキエさんは道具袋から何枚かの依頼書を取り出します。都合のいいお仕事がありましたかね?
しかし、どうして依頼書を持っているのでしょうか?
「トキエさん。もしかして、事前に仕事を持ってきてくれていたんですか?」
「これは違うよ。私が常時依頼書を持っているのは、仕事を受けられなかった新人冒険者に仕事を斡旋する為なんだよ」
「新人にですか? トキエさんはギルドの受付を辞めたのではないのですか?」
「うーん。どういっていいのかわからないけど、辞めてはいないよ。強いて言うなら、私はリーン・レイ専属になったんだよ」
リーン・レイ専属ですか。いっその事、リーン・レイのリーダーになってくれればいいと思うのですがね……。
「あったあった。これだよ」
ふむ。
『フィーノ村への鉄鉱石の配達』ですか。
村に鉄鉱石を持っていくだけなら簡単ですね。
「こんな簡単な依頼なのに、誰もやりたがらないのですか?」
「うん。かなりの遠出になるから、日数もかかるし、さっきも言ったけど、呪われた村と呼ばれているから人気がないのよね。レティシアちゃんが行ってくれるのなら、転移魔方陣を設置も依頼しようかな。それなら、今後は鉄鉱石の運搬も楽になるからね」
なるほど。そんな考えもあるのですか。
「では、その依頼は私が受けます」
「私も受けます」
はて?
私の後ろでカチュアさんが目を輝かせていました。一緒に行くのであれば、楽しいので嬉しいのですが、トキエさんの目が笑っていませんよ?
「カチュアちゃんはダメ」
「ど、どうしてですか!?」
ダメ?
どうしてでしょうか?
「カチュアちゃん。今回エスペランサに急遽行く事になって、一つ仕事を中断しているでしょ? ちゃんと、そのお仕事を終わらせないと信用問題にかかわるでしょ?」
「し、しかし……」
カチュアさんはとても必死な顔です。しかし、トキエさんの笑顔は変わりません。
これは仕方ないですね。
「それに常時依頼はそこまでの依頼料は出ないのよ。だからAクラス以上の冒険者を二人も使うわけにはいかないのよ……」
トキエさんが申し訳なさそうにしているので、私は一人で依頼を受ける事にします。
「わかりました。私一人でフィーノの村に行くとします」
「し、しかし、レティシア様……」
カチュアさんが泣きそうな顔をしていますね。
ふーむ。
「あ! 全力で走って行きますから、一週間以内に帰る事を約束します」
「わ、分かりました。寂しいですが、我慢します。だから、早く帰ってきてくださいね」
カチュアさんのために早く帰らないといけませんね……。
≪ジゼル視点≫
私は生き返った。いえ、生かされた。
私を助けてくれた(?)神の王と名乗った少女は、私がどう償うかはわからないと言っていたけど……。
私は私の実験により呪われたこの村で少しでも償いができるように医師として暮らしていた。
村の人達はこんな私にも感謝してくれる……。どうにか、この村の人達を普通の人間に戻せないだろうか……。そう考えていたが、解決方法を思いつかなかった。
いや、解決方法はいくつか思いついているが、確実性はない。そもそも、村の人達で実験するわけにはいかない……。
何も手を出せないまま、数ヵ月が経った。
「次の患者さん。入ってください」
「ごほっ。ごほっ。せ、先生。魔法でちゃちゃっと治してくれないか?」
「ふぅ……。それはできません」
「え?」
治療魔法と医療行為は同じではない。
治療魔法で治せるのは、怪我などの外傷だ。逆に、病気などは特別な医療魔法が必要で、医療魔法には必ず副作用が起こってしまう。だからこそ、重い病気以外には医療魔法は使えないのだ……。
私は患者にその事を説明する。患者は少しガッカリしていたが、見たところ、この男性はただの風邪だ。薬を飲んで少し休めば完治するだろう。
「風邪薬を調合しますから、薬を飲んで安静にしておいてください。二日ほど安静にしていれば良くなりますから」
「さっき説明されたけど、副作用とはどういったものなんだ? もし、仕事に戻れるのなら……」
「ダメです」
医療魔法の副作用は何が起こるかわかない。
昔、罪人に対して実験をしてみたが、その時は、風邪を治そうとしたのだが、副作用でその罪人は全身の骨が砕けてしまって、結局死んでしまった。
もしかしたら、聖女ならば完璧な医療魔法を使えるかもしれんが、どちらにしても、病人で実験は行わなければいけないだろう……。
「これで大丈夫よ。症状を抑える薬が安定するまで時間がかかるから、今日は大人しくしておいてね」
「ありがとうございます」
「ありがとう、お姉ちゃん」
今日の患者はこれで終わりね……。
しかし、子供の笑顔は癒されるな……。
……。
はぁ……。
どうして私はあんな事をしたのだろう?
私があの時使おうとした魔法は、隷属の魔法であってネクロマンシーじゃなかった。そもそも、あんなに大規模な魔法を使う魔力はなかったし、あれほどの広範囲の即死魔法を私は使えない。
そもそもどう使ったんだ?
いや、使い方が分からなかろうが、私がファビエの人間を皆殺しにしたのは間違いない。
当時の私は、人間の命などその辺に落ちている石ころと同じだと思っていた。でも、この村で医者として過ごして自分がどれだけ愚かな事をしたのかを考えるようになった。
いっそ死んでしまった方が世界の為になるか? とも思ったけど、死ねなかった。
「ふふっ。あれだけの人間を不幸にしておいて、自分は死ぬのが怖いなんてね……。いっその事、忌み子ちゃんの前に出て殺してもらおうかな……」
そんな馬鹿な事を考えていると私の診療所の扉が勢いよく開いた音が聞こえた。
急患!?
診療所の入り口には、血まみれになった黒髪の女の子が倒れていた。
私は急いでその子を抱き上げる。
そして、私はその子の顔を見て驚愕する。
「い、忌み子ちゃん……」
ど、どうして……。
どうしてこんな辺境の村に、忌み子ちゃん……。レティシアが血塗れで倒れているの!?




