38話 神の人数
私と四天王が遊び始めて二時間が経ちました。
さすがにクランヌさんのお部屋で遊ぶのは悪いと思い、どこか遊べる場所があるのか聞いてみました。すると、ブレインが「私が実験用に作った空間魔法内にある特訓場があるから、そこでどうだ?」と言われたので、そこで遊ぶ事になりました。
今この特訓場では、私とクランヌさんの二人だけが立っています。
クランヌさんも遊びに参加したいと言っていたのですが、クランヌさんは明日の婚約パーティーの主役ですし、怪我をさせないようにすることは可能ですが、万が一、怪我をしてしまっては困るので、今回は遠慮してもらいました。
「しかし、これほどの実力差があるとはな……」
クランヌさんは倒れる四天王を見て苦笑します。
クランヌさんはそう言いますが、私も意外でした。マジックさんは、自分で紫頭よりも弱いと言っていましたが、確かに、力やスピードは紫頭の方が勝っています。しかし、戦闘の立ち振る舞いや、経験則による攻撃予測や、他者との連携に合わせる事などは四人の中で一番……いえ、どう考えても他の三人では追いつけないと思わせる程に凄かったです。
そういえば、明日はマジックさんの余興があると言っていましたね。大体は予想はついていますが、今から楽しみです。
「レティシア嬢、ケンを含めた四天王と戦った感想を聞かせてくれないか?」
「そうですね。思っていたよりも強くて楽しめましたよ。特にマジックさんの戦い方はとても楽しかったです」
「そ、そうなのか?」
「はい。マジックさんであれば何度か私と遊べば、今の紫頭よりも強くなりそうです」
私がマジックさんを褒めると、クランヌさんはとても嬉しそうです。
なんでもマジックさんは、クランヌさんが子供の頃からエスペランサ軍に所属していたそうで、剣技の師匠であり、早くに親を亡くしてクランヌさんからすれば、親みたいなものだそうです。だからこそ、マジックさんが褒められたり、強くなるのは嬉しいそうです。
クランヌさんと私は、倒れている四天王を別室に運び、休ませておきます。シーラさんと紫頭を同じベッドで寝かせようとしたら、紫頭に文句を言われました。照れているのですかね?
本当は、あと数時間は遊びたかったのですが、エレン達は町に出ているそうですし、エスペランサの治療師では治療が追い付かないと、ここで止めておく事にしました。
それに、私達はお客という立場になるそうなのですが、新四天王である紫頭も含めて、四天王は主催者側になるので、明日は忙しくなるそうです。
クランヌさんの最初の考えでは、紫頭は私達と同じ立場なので、今回は客人として扱い、パーティー後に新四天王に任命しようとしていましたが、それではマジックさんの余興の意味がなくなりますし、私の強い要望で四天王として、こき使ってもらう事になりました。
紫頭達を休ませた後、私とクランヌさんはクランヌさんの自室へと向かいます。どうやら、私に話があるそうです。
部屋に入るとクランヌさんがお茶を淹れてくれました。
「さて、お話とは何でしょう? あ、明日の事なら大丈夫ですよ。ギルガさんとお約束しましたから、明日は美味しいご飯を食べて大人しくしておきますよ」
「いや、明日の事は関係ないんだ。……、レティシア嬢。ベアトリーチェという奴は、本当に神だったのか?」
「私は知りません。ただ、本人は自分を神と言っていました」
「そうか……。これはマジックにも話していない事だが、私は神に会った事がある。レティシア嬢、神は何人いると思う?」
クランヌさんが神に?
私が知る限り、神と呼ばれるのが一人、神と自称する者が一人、そして私が神と疑う者が一人の計三人です。
「三人です。クランヌさんが会った事があるのは、アブゾルですか?」
「あぁ。若い頃にアブゾールに潜入した事があってな、その時に大聖堂の神の間で会った。アブゾル様は、私が魔王である事を見破ったが、排除しようとはしなかった」
「どんな姿でしたか?」
「そうだな。人間の男性で老人の姿だった。話もしたが、とても優しそうな好好爺だった」
ふむ。
毛玉が出会ったと言っていたアブゾルの姿と一致していますね……。
しかし、クランヌさんも好好爺と言っていましたね。という事は、私が出会ったアブゾルは何者だったのでしょう?
「そうですか。私も出会った事がありますよ。ただし、私が出会ったのは仮面を被った青年でしたが……」
「そうか……。仮面か……」
そうです。
学校での騒動の時に、グランドマスターは仮面を外してくれましたが、アブゾルも仮面をつけていたので、性別が違うだけで同一人物ではないか? と疑っていますけどね。
「お前の会った偽者は何を目的で偽物を名乗ったのだろうな」
「はて? 私が会ったアブゾルが本当に偽物だったんですか? なぜ、クランヌさんが会ったアブゾルが本物だと思ったのですか?」
「そうだな。私がアブゾル様と出会った時、こんな風におっしゃっておられた。「わしがこの世界に住む者達の前に現れる時は、姿を変えるなどはせん。相手はわしの為に祈り、会いたいと思っていてくれておるんじゃろ? そんなに思ってくれておるのに、姿を変えては、そやつに対して失礼ではないか」とおっしゃっていたくらいだ。そんな方が、姿を変えて、しかも仮面までするとは考えにくい」
ふむ。
確かにクランヌさんが会ったアブゾルの方が本物っぽいですね。
まぁ、私の前に現れたアブゾルは、本物とは思っていませんでしたが……。
「レティシア嬢。お前はどう思っているんだ?」
「そうですね。クランヌさんが会ったアブゾルは本物だと思います。私の会ったアブゾルは……。恐らくですがベアトリーチェか、もう一人の神……ですかね?」
「もう一人の神か……。レティシア嬢、一つだけ聞いておいて欲しい事がある」
「はい?」
「この世界にいる神族は、アブゾル様と……もう一人だけだ」
はて?
もう一人だけ?
「何を根拠にそんな事を言っているんですか?」
「そうだな。普通は信じてもらえんだろうな。だから、レティシア嬢には話しておこう……」
「はい」
「レティシア嬢がエスペランサに来た時に、神族の事を話していた時、私が何も知らないと言ったのを、レティシア嬢も不思議に思っていただろう?」
「そうですね。何か事情があるとは思いましたが、隠したがっているので無理に聞く必要はないと思ったんです」
「そうか……。今はちゃんと話した方がいいと思っている。なぜ私に神族を察知する能力があるのかを……」
あけましておめでとうございます。
今年も「親友が」をよろしくお願いします。




