36話 ハヤイの両親
一部間違えていたので修正しました。指摘してくださってありがとうございます。
エスペランサ城の一番最奥にある、クランヌさんの自室にやってきました。報告などをする時は、執務室とか謁見室で話をするのが普通だと思っていましたが、ブレインの話では、今回の様に、あまり人に聞かれたくない話などは、クランヌさんの自室で話をする事になっているそうです。
紫頭に連れられてクランヌさんの自室の前に行くと、マジックさんが扉の前で待っていてくれました。
「ブレインから聞いていますか?」
「あぁ。聞いている。入ってくれ」
部屋の中に入ると、クランヌさんとブレイン、それにシーラさんの他に、ハヤイと同じ髪の毛の色をした壮年の男性と、優しそうな女性がいました。
「クランヌさん。そちらの方々は?」
「あぁ、ハヤイの両親だ」
これがハヤイの両親ですか……。思っていたのとは違いますね。
こうやって目の前にすると、シーラさんが、「ハヤイの両親を無能というのをやめてくれ」といった理由が良く分かります。この二人からは、とても知性的な雰囲気を感じます。
ハヤイの両親は、私と紫頭を見るなり、深く頭を下げました。
「レティシア殿、ケン殿、我が愚息が多大な迷惑をかけた……。何と詫びたらいいのか……」
はて?
なぜ、謝られているのでしょうか?
「まず、お詫びと言われても、私は貴方がたには何もされていませんよ? 紫頭は何かされましたか?」
紫頭は、一瞬だけ私を見て理解してくれたのか「そうだな。ハヤイの奴はもう大人だ……。ハヤイの両親が謝る必要はない」
「し、しかし……」
「ただ、これだけは言っておかなければいけない……。もし、ハヤイが再び俺達の前に現れたら、その時は……。それは許して欲しい……」
紫頭は、少し言い辛そうにしていましたが、今後エスペランサに所属するのなら、エスペランサを裏切ったハヤイを許すわけにはいかないでしょう。
「そうですな……。愚息はエスペランサで散々好き勝手していた……。クランヌ様の温情で四天王にして貰ったというのに……。そして、今回の裏切りは、例え親であっても、もう擁護はできない……。もし、再びハヤイがエスペランサの敵として現れたのであれば……その時は……」
「あぁ……」
ハヤイの両親は、最後まで謝っていました。
ハヤイの両親が出て行った後、私はブレインに近付き、腹を殴ります。
「ぐっ!? な、何しやがる!?」
「なぜハヤイの両親に、裏切りの事を話したのですか?」
「いや、こちらにも事情があってな……。今後のハヤイの両親達の立ち位置を考えたら、話しておいた方がいいと判断したんだよ」
そう言われても納得できないので、もう一度ブレインを殴ろうとしましたが、ちゃんとした理由も教えてくれました。
どうやら、貴族というのはどこの国でも同じみたいで、こういった家族の不始末をつついて攻撃してくるそうです。ブレイン達は、ハヤイの両親に爵位を返上させる事で、周りの貴族を納得させ、ハヤイの家族を守る事になると言っていました。
「まぁ、良いです。それよりもクランヌさんに言っておきたい事があります」
「なんだ?」
「紫頭の処遇です」
私がそう言うと、ブレインが口を挟んできます。
「処遇? こいつは何かやったのか? ならば、ケン。四天王になってくれるか? 俺達としては、お前が戻ってくれるのなら、心強い」
ブレインがそう言うと、私以外の皆さんの目が胡散臭いモノを見る目になっていました。
しかし、紫頭は決意しているみたいなので、クランヌさんに跪きます。
「はい。今回の事で、俺もエスペランサに残らなければいけないと感じました。……正直に言えば、シーラを守りたいという気持ちがかなり強いです。もし、俺がいない時に、今回みたいな事で、シーラだけでなく、クランヌ様やマジック様、……ブレイン様が死んでしまったら、悔やんでも悔やみきれないですから……」
「し、しかし、ケン!?」
シーラさんは顔を真っ赤にして、紫頭に掴みかかります。
「お前は冒険者になるのが夢と言っていたではないか!? 今では、夢も叶って立派な冒険者になったんじゃないか!?」
「そうだな。だが、もう冒険者になっちまったからな、次は大好きなエスペランサを守る為に頑張るさ」
「で、でも……」
シーラさんは目に涙を浮かべています。どう考えてもハッピーエンドだと思うのですが、シーラさんはどうして喜ばないのでしょう?
「ケン。本当に良いんだな……」
「はい。ただし、四天王になるというのは考えさせてくれませんか?」
「なぜだ?」
「一度はエスペランサを出た身です。それなのに四天王という立場になってしまえば、今までエスペランサを守って来た兵士達に示しがつきません。だから、シーラの下に付こうかと思っています」
「そ、それは……」
シーラさん。嬉しそうですね。
そうですか……。これが愛という奴ですね。
しかし、紫頭の言う事も分かります。
紫頭がいきなり現れて、四天王という兵士さん達に命令する立場になってしまえば、兵士達からも文句が出てくるかもしれません。
「そうか。その事については、俺に任せてもらおう」
口を開いたのは、マジックさんでした。
マジックさんはブレインを近くに呼び、何かを話しています。そして、マジックさんの言葉にブレインは一度だけ驚き、悪い顔で笑っていました。
「よし。それは面白そうだ……」
「あぁ。面白い余興になるだろう?」
余興ですか……。
まぁ、この人達が何をしようとどうでもいいですが……。
「さて、ケンの事はマジック達に任せるとして、レティシア嬢、そろそろシーラに能力を作ってやってくれないか?」
「分かりました」
シーラさんは赤い顔でボーっと紫頭を見ていますが、こっちを見てもらわないといけません。
「シーラさん」
「へ? あ、なに?」
「今から貴女の能力を、いくつか改造して、作り直します」
私は、驚くシーラさんの胸に手を当てました。
うーん。大きい……です。




