18話 教会からの呼び出し
ドゥラークさんとリディアさんが私達のパーティに加入してから一ヵ月が経ちました。
Bランクとなったドゥラークさんの実力は本物でしたが、私が驚いたのはリディアさんの実力です。
大型のフォレストウルフに挑むだけあって、ドゥラークさんには及びませんが、この町の冒険者達と比べれば頭一つ抜けて強かったです。
この一カ月間、私とドゥラークさんは魔物退治を、エレンとリディアさんは治療院での依頼をこなしています。
これはギルガさんの采配で、私は抗議しましたが覆る事はありませんでした。
エレンと一緒に仕事ができないのは残念ですが、リディアさんが護衛をしてくれているので、とりあえずは安心できます。まぁ、もし何かあれば命で償ってもらいますけどね。
私としては、二人がこれ以上仲良くならないように、リディアさんには釘を刺していますが……。
「こーら、レティ。またリディアさんを睨んでいる」
「え? あ、無意識に睨んでしまいましたか。申し訳ないです」
「私に謝ってもしょうがないでしょ」
「そうですか?」
リディアさんは私の視線が怖いらしくすぐに目をそらします。
そうです。
エレンに近付き過ぎたら、虐めちゃいますよ……って冗談ですよ。
ギルガさんはフォレストウルフの報酬を使い、一軒の屋敷を購入しました。
このお屋敷には、ギルガさん親子と私達二人、そしてドゥラークさんにリディアさんの六人が住んでいます。ここが私達の拠点です。
私達は一日の終わりに、受けた依頼等の報告会をしています。
ギルガさんがいる時はギルガさんが進行役を務めくれていますが、今日はギルガさんは出かけています。
こういう場合は、年長者のドゥラークさんが務めてくれます。
「ギルガの旦那は?」
「ギルガさんなら、カンダタさんに呼び出されていたよ」
「何か嫌な予感がするな」
ドゥラークさんはなんだかんだと面倒見が良いらしく、よく呼び出されるギルガさんの代わりに縁の下の力持ちとなってくれています。
「まぁ、いいや。今日も一日順調だったな。何か報告はあるか?」
「そうですね。エレンは何かありましたか?」
治療院の方も、盗賊団の壊滅と共に余裕ができているみたいです。
治療院のお手伝いは終わったのでは? と思ったのですが、治療ギルドのギルドマスターのセラピアさんが治療魔法をよく知らないエレンに魔法の知識を教えてくれているそうです。
教えて貰ってお金が入るのですからお得だと思ったのですが、もしもの時に協力する事を約束させられたそうです。
エレンが嫌々約束させられたなら、どんな手を使っても助けに行くつもりでしたが、エレンは嬉しそうに話をしていたので悪い事ではないのでしょう。
「リディアさんはエレンにくっついているだけなので報告を聞く必要はありません」
「ねぇ、レティシアちゃんって私への対応が酷すぎない?」
「そうですか? 真っ当な対応です」
「ひ、酷い……」
私がリディアさんで遊んでいると、ギルガさんが帰ってきます。
ギルガさんはそのまま私達の前に座り、一枚の依頼書を見せてきます。
【緊急依頼・教会で神官長の依頼を受ける】
教会ですか……。
この依頼書を燃やしましょう。
「おい。話を聞く前に燃やそうとするな。それにレティシアだけじゃない。ドゥラークもリディアも露骨に嫌そうな顔をするな」
エレンに心酔しているリディアさんはともかく、ドゥラークさんも教会にはあまり良い印象は持っていないみたいです。
ドゥラークさんにもエレンの事は話してあります。
「しかしだな。エレンの事を黙っておくのなら、教会に近付くのは得策ではないだろうよ。あんただって同じ気持ちのはずだ。どうして、こんな依頼を持ってきたんだ?」
「カンダタさんからの指名依頼だ」
「指名依頼? ギルマスはなにを企んでいやがる」
ドゥラークさんが悪態を吐く気持ちは分かります。私も同じ気持ちですから。
「オレも当然抗議したさ。しかし、カンダタさんにも考えがあるらしく、神官長にはぜひ会って欲しいとの事だ。今回は、俺とレティシア、エレンの三人で行く」
「エレンを教会に近付けるのは危険ではないですか?」
「そこは大丈夫だ。明日会いに行く教会の神官長はカンダタさんの古い知り合いだ。もしもの時は武力行使をしていいとの許可も得ている」
もしもの時に暴れていいのなら、行くだけ行ってみましょう。
次の日。
私とエレンとギルガさんの三人は、この町の教会へと出向きます。
教会の入り口に法衣と呼ばれる聖職者が着る服を着ているお爺さんが立っています。
この方が神官長ですか?
「あんたがカンダタさんの古い知り合いで神官長のレウスさんだな」
「そうです。いきなり呼びつけて申し訳ありません。こちらへどうぞ」
レウスさんという人は、私達を教会の一室へと案内してくれました。
部屋に入ると私は、この部屋の周りの気配を探ります。
怪しいモノがいた場合は問答無用で殺します。
「レティシア……」
「大丈夫です。誰もいませんよ」
「ははは。警戒するのは分かりますが、そちらのお嬢さんに何もするつもりはありませんよ」
「何? という事はカンダタさんからある程度は聞いているのか?」
「えぇ。エレンさんが聖女という事は聞かされていますよ」
私は懐に隠してあったナイフをレウスの首筋に突きつけます。
「ほほほ。カンダタに聞いた通りですね。一つ間違った行動をとれば、この町は滅亡すると言っていた意味が分かりました。話をしたいのでこの物騒なモノを仕舞ってくれませんか」
「それは貴方の態度次第です」
「ふふふ、安心してください。この町の教会は勇者タロウにエレンさんを引き渡すつもりはありませんよ」
「その言葉を無条件に信用しろと?」
「信用するかしないかは貴女に任せます。もし、信用できないのであれば、このナイフをこのまま刺し込んでください」
その言葉で私はナイフを仕舞い、座りなおします。
「信用してくれたことに感謝します」
「で、貴方はどうして私達を呼んだのですか?」
「そうですね。まず貴方がたには勇者タロウの話をしておく必要があります」
勇者タロウですか……。
なんとなくですけど、ムカつく気がします。




