34話 事後報告 エスペランサ側
≪マジック視点≫
レティシア嬢がゴブリン魔王グラーズを倒し、俺達はエスペランサ城に戻って来た。
ケンは眠るレティシア嬢をネリー殿の所に連れて行き、俺達はクランヌ様へと報告に向かう。
「マジック。報告してくれ……」
「……はい」
俺はゴブリン魔王グラーズの城を破壊した事、グランドゴブリンの群れの事、ゴブリン魔王とレティシア嬢の戦いを、俺視点で話をした。
クランヌ様は俺の話、崖の上から見ていたパワーの話を聞いて驚いていた。
「ま、まさか……、ヘクセ嬢もそこまでの魔法を使えたのか……。もし、彼女ほどの魔導士がエスペランサ軍に居れば、コバルテの死霊兵達にも、苦戦はしなかったかもしれんな……」
クランヌ様がそう言うのも納得できる。
エスペランサはコバルテの死霊兵どもを倒しきれていなかった。それどころか、下手に殲滅戦を行えば、エスペランサ兵が殺されて、逆にコバルテの兵力を増強させてしまっていた。
そんな死霊兵どもとコバルテを、たった数日で壊滅させたゴブリン兵達。
戦ったグランドゴブリン達……。
もし、エスペランサに奴等が攻めて来ていたら、エスペランサの被害も大きかった……、いや、もしかしたら、滅ぼされていたかもしれんな……。
ん?
アイツはどこだ?
「クランヌ様。ブレインはどこに行きましたか?」
「ブレインには、スルア伯爵家に御子息が行方不明になった事を伝えに行ってもらっている」
スルア伯爵とは、ハヤイの生家だ。
そうか……。
まだ、スルア伯爵はハヤイの裏切りを知らないんだな……。
俺もできれば、ハヤイの御両親には真実を伝えたくはない……。しかし、クランヌ様には言っておかなければいけないだろう……。
「クランヌ様……。ハヤイについて、話があります……」
俺は、ハヤイがゴブリン魔王に寝返った事、ケンと戦って敗れた事、別格のゴブリンに連れていかれた事を説明した……。
「そうか……。ハヤイは四天王になってからも、様々な問題を起こしてきたが、ついに、取り返しのつかない選択をしたんだな……」
ハヤイを四天王に推薦……、いや、四天王に置いたのは、クランヌ様だ……。
当時のハヤイは、伯爵家の名を使い傍若無人な態度をしていた。
エスペランサの町で、様々な問題を起こしていたハヤイの尻拭いをハヤイの家族が行っていた……。
そんな家族達を哀れに思ったクランヌ様は、ハヤイを四天王に置く事で、奴の行動を制限していた。
しかし、完全に抑えられるわけでは無い。
町に出れば住民と問題を起こし、城にいても、兵達と揉め事を起こす。
それでも、小さな問題であれば、庇う事も、諫める事もできた。
しかし、今回はそうはいかない。
「スルア家に取り潰しですか?」
ハヤイがエスペランサを裏切ったんだ。通常であれば、それは親の責任であり、貴族である家の責任になる。
ただ、ハヤイの御両親もそうだが、ハヤイの兄弟が勿体ない。あの二人は将来エスペランサにとって必要だ。
「迷ってしまうな……。魔王である私がハヤイの裏切りを知ってしまえば、スルア伯爵家を取り潰さなくては、他の貴族達に示しがつかんだろう。だから……」
クランヌ様の言いたい事は理解した……。つまりは、ハヤイの裏切りを無かった事に……聞かなかった事にするつもりだな……。
だが、問題もあるし、ハヤイと戦ったのは俺ではない……。
「ケンに決めさせるのですか?」
「そうだな……。卑怯かもしれないが、ハヤイの裏切りに対して直接迷惑を受けたのは……戦った張本人のケンだ。だから……」
「ちょっと待ってください!!」
俺とクランヌ様が、ハヤイの事を話し合っていると、シーラが俺達の話を遮る。
しかし……。
「シーラ。お前はケンの事だけを考えているかもしれんが、お前自身の今後の事も考えなければいけないんだぞ?」
「え?」
「レティシア嬢が言っていただろ? お前の能力を作ると言っていただろう? どういう方法を使うかは知らんが……」
「【創造】だ……」
「ブレイン。帰って来たのか……。しかし、【創造】とは?」
「【神殺し】の能力のうちの一つだ。この鉱石を見てみろ」
ブレインは懐から、黒く光る鉱石を取り出す。
「これは、レティシアから貰った鉱石だ」
貰った?
やはり、こいつ……。
「ブレイン。お前……、ケンの言っていた通り、レティシア嬢と裏取引していたのか?」
「裏取引ね……。クランヌ様……、失礼を承知で言わせていただきますが、俺達では、あと数年はコバルテとの戦いを終わらせられなかったでしょう……。そしてゴブリンの軍勢を相手にしていれば、エスペランサは滅んでいたでしょう。だからこそ、私はレティシア嬢に話を持ち掛けた。レティシア嬢自身もゴブリン魔王は自分の獲物だと言っていたから、利用させてもらった……」
こいつ……。
そこまで考えていたのか……。
俺はブレインにハヤイの裏切りを話す。するとブレインは顔色一つ変えずに「ケンに口裏合わせを頼めばいいだろう。ハヤイの弟は、俺も部下に欲しい。ハヤイの妹は、シーラの下に付ければそれで済む。お前はこれからシーラとして四天王をするのだろう? ハヤイの両親に関しては、クランヌ様の側近にしてしまえばいい。それですべて解決だろう?」と言い切る。
「しかし、ブレイン様……」
「パワー。いや、シーラ。前から言おうと思っていたが、お前はもう俺と同じ四天王なんだぞ? 「様」などと敬称を付けずに、呼び捨てでいい」
「し、しかし……。私にとってはブレイン様もマジック様も、尊敬できる御方です。いまさら呼び方を変えられません」
「ははは……。ケンと同じで頭の硬い奴だな……。クランヌ様。ハヤイの家族には、ハヤイの裏切りを話してあります」
「な!?」
こ、こいつは何を言っているんだ!?
「実は先程レティシアが起きてな……。二人から話を聞いてきた。スルア伯爵は、爵位を返上するそうです。ただし、先ほども言いました通り、ハヤイの弟であるヴィテスは、俺のところで世話をします。妹であるシュリはシーラ、お前のところで面倒を見てやれ。そして、スルア夫妻には、内政を任せたい。だからこそ、クランヌ様の側近にしていただきたい。今まで、馬鹿息子であるハヤイの為に能力を発揮できなかったんだ。これからはちゃんと能力を発揮してもらえるでしょう」
「ぶ、ブレイン……。そ、それは……」
クランヌ様はブレインの行動の早さに驚いているみたいだが、ハヤイの家族にはこれが一番いいかもしれない。
エスペランサにも貴族制度がある以上、今回のハヤイの裏切りをどこかで聞いた他の貴族が、スルア家に対して下らん動きをしてくるかもしれない。
普段からそんな連中を相手にしているブレインだからこそ、こうするのがいいと判断したのだろう。
「クランヌ様。ケンとレティシアには後でこの部屋に来るように言ってあります。ケンはきっと四天王になってくれるはずです。アイツとはなんだかんだで長く一緒にいたからな……」
「し、しかし……」
「シーラ。私以上にケンの事を理解しているのはお前だろう? 私はアイツに後悔して欲しくないんだよ」
「こ、後悔?」
ブレインは、俺とクランヌ様を一瞥して、ため息を吐く。
「今の俺達では、ゴブリン魔王を倒せなかった。いや、コバルテ相手にも苦戦していたくらいだ。もし、同じような敵が現れた時、ケンがエスペランサにいない状態で、シーラにもしもの事があれば……ケンは一生心に傷がつくだろう?」
確かにその通りだ……。
しかし、ブレインの事だ。こんな綺麗事だけを言う奴じゃない。何か考えて……いや、すでに手を打っている可能性がある……。
「さぁ、クランヌ様。二人が来るまでに、俺達の方針を話し合っておきましょう」
ブレインの顔が良い顔になっている……。なにを企んでいるんだ?
今日から暫く0時投稿にします。
よろしくお願いします。




