33話 赤い私
強いですねぇ~。
赤い私には、私の攻撃が通用しません。
流石は私と言ったところですか……。
私は赤い私の攻撃を避け続けています。
「やるじゃねぇか。鬼神である私に対して、ここまで戦えるとはな……」
「そうですか? 褒めて頂き光栄ですね」
【鬼神】ですか。
そう言えば、私のクラスに追加されていましたねぇ……。
とはいえ、本当に強いですねぇ……。
赤い私のせいで、【神殺し】の能力も使えませんし、他の特殊能力も使えません。相手は全ての能力を使ってくるのがムカつきます。
「しかし……。鬼神の力がないお前など、ただの子供だと思っていたが……。これはどういう事だ?」
「何を言っているのでしょう?」
私は私に斬りかかります。
ファフニールは普通に使えますし、赤い私は普通の剣を持っています。
「貴女はレティイロカネを使っていないんですね」
「あぁ……。あの変な名前の鉱石だろう? 私の剣には反映されなかったようだな……」
「そうですか」
何度か、剣を交えた感想ですが、私の剣の方が硬度は高いようです。現に赤い私の剣は刃こぼれしています。ただ、【再生】の能力で直しているのでしょう。
「いちいち、剣が直されるのは気に入りませんねぇ……。【再生】ですか?」
「そうだ。だが、今までのお前の敵はお前と同じ気持ちだったんじゃないのか?」
「さぁ? まぁ、興味はありませんけど」
赤い私は、私の持つ能力を全て行使して、私に襲い掛かります。ですが、今は使えないとはいえ、私の能力です。対処法はちゃんと考えています。
「きはははは。思っていたよりも粘るじゃないか。能力の無いお前など、すぐに倒せると思っていたんだがな」
ふむ。
むしろ、赤い私の方の表情に焦りが出ているような気がします。
さっきまでは防戦一方でしたが、今は攻めに転じられそうです。
さっきの赤い私の動きを真似します。
「えいっ!」
「がっ!?」
赤い私に初めて攻撃が当たりましたよ。これは、もしかしたら勝てるんじゃないですか?
私は、赤い私を攻め込みます。赤い私に少しずつですが、ダメージを与える事ができてきました。もう少しです。
しかし、赤い私が後ろに下がり、掌を前に出します。
「待て!?」
「はて? 負けそうになったから、今度は命乞いですか?」
「違う……。私とお前の決着は……今じゃない」
「はて? 負けた時の言い訳ですか?」
「違う!! 聞け!!」
「はい」
聞けと言われたので、私は剣を納めます。赤い私も剣をどこかに消しました。
「私がお前に勝てば、【鬼神】の力を完璧に使える。しかし、今のお前は精神的に幼すぎる。たとえ私に勝ったとしても、お前は【鬼神】の力に飲み込まれるだろう」
「誰が幼いですか」
「お前だ。グラーズとの戦いが終わったら、ジゼルを捜せ」
ジゼル?
ジゼルは死んだのじゃないですか? 私が殺しましたし……。
「ジゼルは死にましたよ? 魔神の力を得て、私と戦いましたけど?」
ジゼルが死んだというと、赤い私は何かを考えている様でしたが……、私にエスペランサから、とても離れた村を訪ねる様に言われました。
「そんな所に一体何が?」
「行けば分かる。そこに行けば、お前の力について理解できるはずだ」
「そうなのですか? なぜ、貴女がそんな事を知っているのですか?」
「……。今は言えん。そこで私とお前の本当の戦いが待っている……」
「そうですか……」
「さて、今はお前に力を貸してやる……。いや、お前の力だけで、グラーズにトドメを刺す事は可能だろう」
「貴女と遊んでいた結果、随分と時間が経ってしまいましたが、あっちは全滅していないでしょうね」
「大丈夫だ。今の私達の戦いに使った時間は……。向こうの時間の一瞬だ」
「都合のいい話ですね」
「きははは。それを異世界の言葉で〈ご都合主義〉って言うんだよ。覚えておけ」
ご都合主義ですか。
意味は分かりませんが、とてもいい言葉だと思います。
「分かりました。では、起きるとしましょう……」
私は目を覚まします。手には砕かれた箱の欠片がありました。
赤かった髪は元の黒に戻っています。
「がぁあああああ!! エネルギー増殖炉が無くとも、貴様を殺す事は可能だぁあああああ!!」
グラーズの外装が真っ赤に染まっています。
……でも。
私はグラーズの顎を剣で殴り上げた後、背後に回り後頭部に剣を振り下ろします。
おや?
随分と速く動けましたよ。
「がぁああああ!!」
グラーズは私を捕まえようとしますが、捕まるわけがありません。グラーズの隙を見つけて剣で殴ります。
「べ、ベアトリーチェ様ぁああああ!! この子供は……!? この悪魔の子はぁああああ!?」
「うるさいです!!」
私はグラーズの胸を剣で貫きます。
「ぎゃぁああああ!! が……が……」
そして、グラーズの頭を掴みます。
「ぎ、ギザマは……。ギザマぁあああああ!!」
「もう黙ってください。不快です」
「あぐ……ま……のご……」
「【破壊】!!」
赤い私はグラーズを機械と言っていました。よく分かりませんが、生物ではなさそうです。
【破壊】が生物には効かない事は証明済みですが、機械という作られたモノにならば効くでしょう。
私が【破壊】の力を使うと、グラーズは一度だけビクッとした後、霧散してしまいました。
終わりました……。
私は足に力が入らず、その場に倒れますが、紫頭に支えられました。
「疲れました。エレン達の所へ運んでください」
「あぁ……。分かったよ。ただ、あの力について、後でちゃんと説明してくれよ」
説明と言われても、よく分かりません。
そういえば、赤い人がある村に行けと言っていましたね……。都合よく、その村に行く依頼を見つけて、行ってみるとしましょう……。
……とりあえず、今は眠いです……。
≪赤いレティシア視点≫
グラーズを倒したか……。
まぁ、当然と言えば当然か……。
アイツは、鬼神の力を使えなければ、何もできない子供だと思っていた……。
しかし、無能力状態でアイツは私と互角に戦った。
私は本気じゃなかった……。
「きはははは。私の記憶に残るベアトリーチェは苦戦するだろうな……。アイツの本当の強さは【神殺し】の能力じゃない……。アイツの本当の強さは……その【成長力】と【応用力】だ……。【神殺し】にだけに警戒していたら、痛い目を見るだろうな……。きははははは!!」
全てを知ったアイツが、私と対峙する時が今から楽しみだ……。




