31話 グラーズの本気
ゴブリン達のお城があった場所の空間を固定した事で、前の様にグラーズを逃がすという事は無くなったはずです。しかし、グラーズの顔には焦りが見えません。
「我が城を破壊したのは、貴様か?」
「私ではありませんよ。私の大事な仲間がやりましたよ。そんな過ぎた事よりも、この前の続きをしましょう」
私はファフニールをグラーズに突きつけます。グラーズも背中の二本の斧を取り出し構えます。
「ベアトリーチェ様がアブゾルを倒し、この世界を手に入れた後、不浄な魔族を皆殺しにする為に、この城を構築したというのに……」
「はて? ベアトリーチェは魔族を嫌っているのですか?」
「当然だ。ベアトリーチェ様は完璧なる神だ。不完全な魔族など滅ぼされて然りだ」
「成る程……。でも、貴方はゴブリン魔王なんですよね? 貴方も滅ぼされるんですか?」
「だまれ!! ベアトリーチェ様の世界の礎になれるのであれば、この命など必要ない!! そんな事も分からぬとは……やはり、貴様は許されない!!」
許されないですか。
ベアトリーチェは魔族を忌々しいと思っていたのですね。もし、毛玉の話を信じるのであれば、アブゾルというのは好好爺との事です。ラウレンさんもアブゾル教には魔族を乏しめるような記述は無いと言っていました。
それに、私が見たアブゾルは青年でした。何もかも正反対です。
仮にです。
ベアトリーチェが性別まで変えられるのなら?
いえ……。性別しか変えられないのであれば?
年齢も変えられるとして、何らかの心情の問題で老人に変身したくなかった? というのも、あるかもしれませんね。
「ベアトリーチェはやはり生きていましたか。そんな気がしていましたし、私の前にもう一度立ちはだかるのであれば、もう一度殺すだけです」
「貴様は悪魔の子だな……。ここで殺してベアトリーチェ様に献上してやろう」
「そうですか? ならば、私もベアトリーチェに宣戦布告するために貴方を殺します。」
私はグラーズの頭を潰すべく、ファフニールを振り下ろしますが、いとも簡単に止められています。
「あれ?」
「なんだ? その力の入っていない攻撃は?」
はて?
頭を潰すつもりで斬りかかったのですが、力が入っていないとは……。これが本当のグラーズの力……ですか?
「前よりも弱くなっているな。その髪の毛の色が変わっているのにも、関係があるのか?」
髪の毛の色?
あぁ、そうでした。
魔力の使い過ぎで、弱っているのを忘れていましたね。
「くくく……。弱っているのなら、都合がいい。我の全力を持って貴様を殺す事にしよう」
グラーズがブツブツと何かを言うと、グラーズの体を覆う鎧の様な外殻が、少し変形します。そして目が赤く光り、黒い走行も少し赤くなりました。
「くくく……。我の出力を三十パーセント上げた。これで、貴様を殺せるはずだ」
出力?
三十パーセント?
要するに魔力を放出したという事ですか?
しかし、グラーズから発せられる魔力は、別に変動していません。
まぁ、考えていても仕方ありません。私はグラーズに攻撃を仕掛けます。
「えい!!」
「くはははは。遅いわ!!」
攻撃をしたのですが、逆に斧で薙ぎ払われました。
それを機に、グラーズの攻撃が激しくなります。
……くっ!?
グラーズの攻撃でダメージを負うような事はありませんが、かなり追い詰められているのが分かります。こちらも何度か攻撃を当ててはいますが、効いているようには見えません。
「どうした、悪魔の子よ。先程までの威勢はどこに行った!?」
「うるさいですねぇ……」
「まぁ、いい。そろそろ終わらせよう」
グラーズは斧を勢い良く振り下ろします。すると、斧から炎を纏った鳥が現れ、私に襲い掛かります。
避ける事は可能ですが、自動追尾してきそうですね。
さて、どうしましょうか。
私の予想通り、炎の鳥は私を追いかけてきました。追いかけられながら考えます。
グラーズの近くまで行って、避ければ当たるでしょうか? いえ、グラーズの鎧の色は赤ですから、炎は効かないかもしれません。
そう考えれば……。魔力も戻っていませんが、【破壊】を使うしかありません。
私は炎の鳥を破壊しました。しかし、【破壊】の代償は大きく、私は足がふらついてしまいます。
「あ!?」
気付いた時にはグラーズが目の前で斧を振り上げていました。
これはダメージを喰らってしまいます。
仕方ありません。
今は紫頭も近くにいるので、後処理はどうにかしてくれるでしょう。
私はあの力を発動させようとしましたが、あの力は発動しません。
は……はて?
私が一瞬止まったのを、グラーズは見逃しませんでした。私にグラーズの斧が叩きつけられます。
い、痛いです。
私はグラーズから、一歩下がりますが、グラーズが逃がしてくれるわけはありませんでした。
「さぁ、悪魔の子よ。死ぬがいい!!」
グラーズの斧が再び赤く光ります。
炎の鳥でしょうか?
いえ、アレはトカゲです。
「サラマンダーアックス!!」
む!?
さっきの炎の鳥よりも大きいです。これは喰らってしまうと、更に怪我をしてしまいます。
しかし、今の魔力では【破壊】を使えません。
目の前には口を大きく開いた炎のトカゲが迫っています。後ろには、グラーズが斧を振り上げています。
こ、これは……逃げ切れません。
どうしましょうか?
いえ、考えている暇はありません。早く避けないといけません。
あ!?
腕を掴まれました。
「くはははは!! 逃がさんぞ!!」
「離してください」
「サラマンダーよ、餌だ!!」
グラーズは私をサラマンダーに放り込みます。
しまったです……。
私はサラマンダーに喰いつかれました。
痛いです。熱いです。
仕方ありません。
私は無い魔力を絞り出し【破壊】でサラマンダーを破壊します。
しかし……。
私自身が真っ赤になっています。
あの力は発動しなかったのに、頭からも血が出ています。全身もサラマンダーの攻撃とグラーズからの攻撃で傷だらけです。
さて、困りましたねぇ……。




