30話 ゴブリンキング
≪マジック視点≫
圧倒的だ。
ゴブリンの力を得たハヤイの動きはとんでもなく速く、俺では反応して受け流す事は可能でも、避ける事は不可能だと思う。
しかし、ケンはハヤイの攻撃を全て見てから反応して、避けている。しかも、わずかな隙を狙い反撃をしている。
「ぐ、ぐはぁ!? な、なぜだ!? なぜ四天王になれずに逃げただけの奴が、ここまで強くなっているんだ!?」
四天王になれずに逃げたね……。
ケンがエスペランサ軍を辞めて、冒険者になると聞いた時、シーラが止めていなかったら、俺がケンを説得していただろう。
ブレインは「実に勿体なかった。ケンの実力があれば、四天王筆頭になる事も可能だろう。冒険者になりたいとは聞いていたから引き止められなかったがな」と言っていた。俺も同じ気持ちだ。
ケンが冒険者になった後も、知り合いの冒険者に様子を聞いていた。ある意味、息子の様に思っていたのかもな。
もし、冒険者として苦労をしているようならば、連れ戻すつもりだったのは、クランヌ様にも内緒だ。
しかし、ケンは冒険者としても、順調に地位を高めていった。
「ハヤイ。下らない力を手に入れても、お前程度を倒すのに大罪を使う必要すら無かったよ」
「ふ、ふざけるな!? 俺はエスペランサ四天王にして、ゴブリンキング・ハヤイ様だ!! キサマの様なエスペランサから逃げ出した奴に負けるはずがない!!」
「何言ってんだ? 現に負けてんじゃねぇか」
ケンは、軽口を叩いているが、一切隙を見せていない。しかもだ……。ケンは本気を出していない。先程、アイツも言っていたが、大罪の力を使っていないのだ。
「そもそも、エスペランサから逃げたカスが、どうしてここにいるんだ!?」
「冒険者として依頼を受けたから来たに決まってんだろう。それで、今、お前と戦ってるのは、クランヌ様から依頼されたからだよ」
「ふざけ……、ぎゃあぁああ!?」
ケンの奴、容赦が無いな。
コレも、レティシア嬢の教育の結果か?
「お前はクランヌ様を裏切ったんだ。ここで死ね」
「や、やめろ……」
ケンの魔剣がハヤイの胸を貫く。あの場所は心臓だ……。
しかし、ハヤイは苦しがることはない。まさか、心臓を貫いても死なないのか?
「痛くはないが……死んでしまう。お、俺を助けろ!!」
ハヤイの言葉で生き残ったグランドゴブリンが、ケンを襲いかかる。
しかし、そんな事は俺達が許さない。
「はぁ!!」「うらぁ!」
俺とレッグ殿はグランドゴブリンを斬り伏せる。
「ケン!! 雑魚は俺達に任せて、その馬鹿を倒せ!!」
「あぁ……」
ケンはハヤイを蹴る。
「くそっ!! てめぇ、どこまでも俺の邪魔をしやがって!!」
「そうだな。そろそろ、終わらせてやるよ」
「ふざけるなぁああああ!!」
≪ハヤイ視点≫
クソっ。
俺は新たな力を手に入れた。
それなのに、コイツには全く通用しない。
グラーズが俺の部下にと置いておいてくれた、グランドゴブリンも全く役に立たない。
どうしてこうなった!?
「死ね! 死ね! 死ね! 死ね!」
俺は、グランドゴブリンの斧を拾い、ケンに斬りかかるが、全く当たらない。
クソっ。
俺の速さはエスペランサで一番だ!!
それなのに、なぜ当たらないんだ!!
「お前、気付いていないのか?」
「な、なんだと!?」
「ゴブリンキングに進化した結果、肥大した筋肉でスピードが殺されているんだ。元々、お前には戦闘技術はない。だから、同じ筋肉肥大したパワーとは圧倒的に違う。それすらも分からないんだな……」
「ふざけるな!!」
俺は力任せにケンを斬りつけるが、素手で斧を止められる。
「さて……。せめてもの慈悲だ。苦しまないように殺してやるよ」
ケンの体からどす黒い魔力があふれ出す。
な、なんだ? このおぞましい力は……。
「【大罪・憤怒・焼殺】」
「あ……が……は、離せ……」
ケンが俺の首を掴む。
く、首が熱い!?
「死ね」
「ぎゃあああああ!! 体が燃える!?」
ケンが何をしたのかは知らんが、俺の体が燃える。
しかし、不思議な事は熱くない。
掴まれている首は熱いのになんだ!?
「言っただろ? 苦しまないように殺してやると」
「は、離せ……。俺を助けろぉおおおお!!」
その時、城の瓦礫から何かが飛び出してきた。
「あ?」
ケンもそれに気づき、飛び出してきた何かを斬ろうとするが、避けられる。
そして、そいつはケンから俺を助け出してくれた。
このゴブリンはなんだ?
「な、なんだ……? このゴブリンは……」
俺を抱えるゴブリンは普通のゴブリンのような大きさだが、放つ魔力が禍々しい。
「マジック様!! レッグ!! グランドゴブリンを倒せていたら、今すぐ手助けしてくれ!!」
え?
な、何を言っている!?
「このゴブリン……。今までの奴とは、明らかに違う」
そ、そうなのか?
俺は助かるのか?
俺を抱えたゴブリンは、ケン達には目をくれずにその場から逃げ出す。
こ、これは空間魔法!?
「馬鹿め!! この空間はレティシアによって固定されている。逃げられ……、な、なんだと!?」
ケンが何かを言っていたが、俺達は空間の裂け目に逃げ切る事ができた。
俺達は、氷に覆われた大地に立っていた。そして、ゴブリンは俺を無造作に投げつけた。
くそっ。
もう少し、丁寧に扱え……。
「し、しかし……。助かった……」
ゴブリンは、俺に近付く。
な、なんだ?
「お、お前はもう要らない。ベアトリーチェ様の顔に泥を塗ったお前はもう必要ない」
「え?」
このゴブリン……喋るのか?
「ま、待て!? 俺はベアトリーチェ様の顔に泥なんて塗っていない!?」
「だまれ……。おで、グルメだからそのままではお前は喰えない。ちゃんと調理する必要がある……」
「ちょ、ちょっと待てよ……」
ゴブリンはどこかから出した赤い斧を振り上げる。
「粉微塵にしてから喰う事にした。じゃあな」
「や、やめて……。ぎゃ、ぎゃあああああああああああ!!」




