25話 力試し
全く、これは計算違いだった。
ブレイン様がレティシアと仲良くなっているとは……。絶対、何か裏がある。
「ブレイン。コバルテの拷問に私も参加させてもらえませんか?」
「だ、ダメだ!! レティシア、自重しろ!?」「あぁ、良いぞ」
な!?
ブレイン様が許可を出した!?
いったい、ブレイン様は何を考えている!?
「ケン。なぜ、レティシアが自重する必要がある? コバルテはクランヌ様を裏切った貴族だ。拷問を受けるのは何もおかしくはないぞ?」
「い、いえ、そういう事を言っているんじゃないのですが……」
ブレイン様は何を言っている?
俺はレティシアを見る。に、ニヤケついてやがる……。
つまりは、何か取引をしているはずだ……。
ブレイン様が喰いつきそうなもの……。
【創造】の力か!?
少し前にレティイロカネという鉱石を作り出したとも言っていたな……。まさか、それもか!?
「ぶ、ブレイン様……」
「なんだ? お前は何を勘違いしているかは知らんが、私はレティシアの【神殺し】の力に興味を持っただけだ」
だ、ダメだ。
俺には止められる気がしない……。
「ケン……。止めなくていいのか?」
「あんなに目を輝かせたレティシアはもう止められない……」
俺は事態の絶望さに項垂れていた。
こりゃ、ギルガの旦那に説教を喰らうのは俺だろうな。
「ブレイン。レティシア嬢はネリー姫とレッグ殿の護衛だ。客人を利用しようとする意味を教えてくれ。それ相応の理由でないと、納得は出来ん」
情けない俺に代わり、マジック様が正論を言ってくれる。
「先程も言ったが、ゴブリン魔王の事はレティシアに聞いた。元々ゴブリン魔王の裏にいるのはレティシアと敵対していた神というではないか。その神の部下の後始末をレティシアがしたいと言ってな。私も、それに乗っかっただけだ」
嘘だ。
ブレイン様がそんな理由でレティシアの言葉に乗るわけがない。
じゃあ、ブレイン様はなぜこんな考えに?
「レティシア。お前は何を取引材料にした? 【創造】の力か? それともレティイロカネか?」
「全く、紫頭は失礼ですねぇ……。ブレインは私のお願いを聞いてくれただけですよぉ?」
クソっ。
変な知恵をつけやがって……。
そもそも、出会った頃からコイツは頭は悪くなかったが、良くも悪くも単純……いや、真っ直ぐだった。
猪突猛進というべきか、力で解決するだけだったから、ギルガの旦那も手を焼く事はそこまでなかった。
しかし、今では、変に知恵を付けているのか、裏でコソコソ動く事を覚えやがった。
いつからだ?
いや、考えるまでもない。間違いなくエラールセに行ってからだ。しかも、学校に通い出してから、さらに悪知恵が働くようになっている。
はぁ……。せめてエレンかカチュアがいれば……。
いや、レティシアを甘やかすカチュアではダメだな……。
「ブレイン。お話がまとまりましたから、早くこのゴミ虫を拷問して遊びましょう」
「そうだな。では、クランヌ様、失礼させてもらいます」
ブレイン様とレティシアはコバルテを連れて部屋を出て行ってしまった。
「おい。ケン、どうにか止められそうか?」
「こうなってしまっては無理です。いっその事、リーン・レイにゴブリン魔王の討伐を依頼してはどうですか?」
「なに?」
「幸い、ここには俺以外にもリーン・レイのメンバーがいます。リーダーであるギルガの旦那には俺から話しておきます。クランヌ様はレッグにこの事を話してくれませんか?」
「そうだな……。後でレッグには私から話をしよう。マジック、今日の夜に会談の席を設けてくれ」
「こんな役目はブレインの仕事なんだがな……。分かりました」
はぁ……。
まぁ、そっちの方がいいかもしれないな。
「それよりもだ。ケン」
「はい?」
「私と一度手合わせをしてくれないか?」
「え?」
クランヌ様は一体何を?
「いや、無理ですよ!! クランヌ様には勝てそうにない!?」
「そうは見えないが?」
確かに大罪の力を使えば勝てるかもしれないが……。
いや、純粋に剣技だけなら……。
「私の力を試したい。そして、レティシアを間近で見ているお前に、私の力を見てもらいたい」
そこまで言われたら……断れないじゃないか……。
「剣よ……」
クランヌ様が聖剣を召喚する。
魔王が聖剣とは変な話だが、あれがクランヌ様の愛剣デュランダルだ。
俺も自分の剣、魔剣キマリスを取り出す。
「な!? そ、それは魔剣か!?」
「そうです。魔剣キマリス。レティシアが作った剣です。俺に馴染むように成長した俺だけの魔剣」
「そうか……」
クランヌ様は剣を構える。
隙が無い。
どう攻めるか?
「お前が来ないのなら、こっちから行くぞ!!」
クランヌ様は、一気に間合いを詰めてくる。
五分後……。
俺は、膝をついていた。
クランヌ様は強すぎる……。
レティシアは、ドゥラークやアレスならクランヌ様に勝てると言っていたが、本当に勝てるのか?
そう思っていたが、クランヌ様は呆れた顔でため息を吐く。
「ケン。手を抜いているのか?」
「へ? いえ、そんな余裕はありませんよ」
「その割には大罪の力を使っていないな……」
さすがにバレていたか……。
しかし、大罪の力は反則技みたいなものだ。
それに……。
「クランヌ様も使っていないじゃないですか……」
「なに?」
「持っているでしょう? 美徳の力を……」
「気付いていたのか」
ブレイン様に聞いた事があるが、クランヌ様の力は七つの美徳の一つ【救恤】の力を持っている。
どんな力かは分からないが、きっと強力に違いない。
「しかし、お互い本気を出していないとはいえ、強くなったな……」
「ありがとうございます」
やべぇ……。
クランヌ様に……。憧れていたクランヌ様に褒められたら……嬉し過ぎて泣いちまうじゃねぇか……。
「ケン。お前は大罪の力を持っている者と戦ったと聞いた……」
「え? あぁ、弱かったですよ。所詮は大罪の上澄みしか使えない奴でしたから……」
俺がそう言うと、クランヌ様は呆れた顔をしている。
「お前もレティシア嬢に染まっていたんだな……」
「は?」
え?
どういう事だ?




