23話 ゴブリン魔王
「あの肖像画の女がベアトリーチェだと? じゃあ、肖像画の前にいる黒い奴はベアトリーチェを崇拝しているのか? しかし、ベアトリーチェはお前が倒したんだろう?」
「……はい」
紫頭が言うように、確かにベアトリーチェを倒しました。だた、疑問も残ります。
コレは私の見解でしかないのですが、仮にも神を名乗る者が、あの程度の強さというのもおかしいです。完全なドラゴンの状態だったグラヴィの方が強かったかもしれません。
それに、あの黒いのがベアトリーチェの駒だとしても、例え知らされていなかったとしても、主人であるベアトリーチェが死んでから動き出すのはおかしいです。
コレはまちがいないですね。ベアトリーチェは生きています。
「二人共……。ベアトリーチェとは何者なんだ?」
「あぁ。シーラは知らないんだな」
紫頭がシーラさんにベアトリーチェの事を説明してくれました。どうやら、ブレインはジゼルと戦ったあたりまでしか、私の事を調べていなかったのでしょう。
「か、神だと……? マジック様も言っていたが、この世界の神はアブゾルだけじゃないのか? いや、さっき別の世界の神族がどうとか言っていたな。つまり、あの肖像画の女は神族という事か?」
「本人が神と名乗っていたのですから、間違い無いでしょう」
「しかし、あの黒い奴は、ベアトリーチェが死んだ事に気付いていないのか? いや、聞かされていないのか?」
ベアトリーチェが死んでいないというのは、私がそう思っているだけなので、ここでわざわざ話して、混乱させるのは止めておきましょう。
私が口を開こうとしたと同時に、黒いのが振り返りました。
「そこに隠れている奴等、出て来い」
ふむ。
気付かれてしまいましたか。後ろ姿からは、知性は低いと勝手に判断していましたが、気配くらいは感じる事が出来るようですね。
慎重にどうするかを話し合っている二人を余所に、私は隠れていた場所から出ていきます。
「こんにちわ。初めまして、その肖像画の女を殺したレティシアといいます」
「っ!? ベアトリーチェ様を殺しただと!?」
随分とわざとらしい驚き方ですねぇ……。
「我が城を作るのに手間取っている間に……。いや、あり得ない!? あの御方は神だ!! 死ぬはずがない!!」
「私は【神殺し】ですよ。神を殺す事は可能です」
私はファフニールを取り出します。
「レティシア、お前……。気付かれる事を前提に、この部屋に入ったな」
「そうですね。気付かれるのは当たり前として、元々は、おちょくるだけの予定でしたよ。まぁ、ベアトリーチェの残党であるならば、コイツを殺すのは私の役目です」
「よくよく考えれば、お前のような子供に、あの美しいベアトリーチェ様が殺されるわけがないな」
「誰が子供ですか。しかし、事実です」
「黙れぇ!! 我はゴブリン魔王グラーズ。キサマを殺す!!」
ゴブリン魔王ですか。
ゴブリンというのは、弱い魔物だと思っていましたが、このグラーズは強そうに見えます。
赤い一つの大きな目で、両手に大きな斧を持っています。体形は痩せ型ですが、黒い鎧を着ていて、強そうに見えますね。
本当にゴブリンなのでしょうか?
しかし……、殺すと言いながら、グラーズからは殺気を感じられません。まさかと思いますが、時間稼ぎでしょうか?
私はグラーズの力を試す為に、あえて受け止められる程度の速さで斬りかかります。グラーズは私の攻撃を二本の斧で受け止められます。
速さはともかく、力はいれていたので砕けると思ったのですが、斧には傷一つ付いていません。ヒヒイロカネと同等の硬さとは、かなり硬い斧ですね。
「ぐぅ……。な、なんて力だ。我と違い、体小さいに、なかなかの力だ!?」
ふむ。
かなりの力で振り下ろしましたが、なかなかというあたり、余程自分に自信があるのでしょう。
「ベアトリーチェ様を殺したと詐称するお前は許されない!!」
「あははは。別に貴方に許されなくてもいいですよ」
そもそも、まだ生きているというのに……。いえ、もしかしたら、グラーズは本当に知らないのですかね?
それからも、何度か斬りかかりますが、全て斧で止められてしまいます。
少しずつ速さを上げているのですが、対処されているのが鬱陶しいですねぇ……。
「レティシア!?」
はて?
紫頭に呼ばれて周りを見ると、鎧を着たゴブリンに囲まれています。
いえ、それどころか、グラーズの部屋にいたはずなのに、いつの間にか広い場所に移動しています。
「空間魔法で作られたお城ですから、こうやって部屋を移動させる事も可能なのですね」
「空間魔法!? チッ! シーラ、パワーに変身しておけ。こいつ等は見た目はゴブリンだが、強さはゴブリンロードに匹敵すると思った方がいい」
「な!? ゴブリンロードがこの数か!?」
確かに私達を囲むゴブリンは、パッと見ただけで五十匹以上います。
「レティシア。お前はそのグラーズってやつ集中しろ。ゴブリン共は俺達に任せろ!!」
「分かりました。さぁ、続きを始めましょう」
私はグラーズに再び斬りかかります。
また、斧で止められるかと思いましたが、私の剣はグラーズの頭に振り下ろされました。
「ぎゃああああああああ!!」
グラーズの頭は私の剣により潰れ、その場に倒れてしまいました。
「はて? 随分とあっけないですねぇ……」
そもそも、わざと斧で止めなかったように見えました。
まさか……。
私はグラーズの死体を調べます。
「チッ。そういう事ですか……」
私が周りを見ると、何もない草原に飛ばされていました。
「な、なんだ? いつの間に移動したんだ? それに、ゴブリン共もいないみたいだな。それに……、この屋敷……」
紫頭の視線の先には、ボロボロのお屋敷が建っていました。その周りには、無数の魔族の死体が転がっています。
「これがコバルテの本当のお屋敷ですか……。周りの死体はコバルテの私兵でしょうね。無惨に殺されています。死体を利用しようにも、ネクロマンサーの能力も消されたのでしょう。だから、魔族達は一方的に殺され、お屋敷も簡単に落とされたのでしょう」
「そうだろうな……。シーラ、一度クランヌ様に報告に戻るぞ。もしかしたら、エスペランサにとっては今まで以上の相手になるやもしれん」
「あぁ……。コバルテを連れて行こう……。アイツはアイツで罪を償ってもらわねばならん……」
「そうだな……」




