20話 話し合い
「では単刀直入に聞きます。シーラさんが筋肉の力を無くせば、四天王の立場はどうなりますか?」
これだけは聞いておかなくてはいけません。
エスペランサの四天王は同一人物とはいえ、パワーでありシーラさんではありません。しかし、理由は良く分かりませんが、シーラさんは力を嫌いつつ、それでも四天王を辞めたくないと思っている様です。
「そうだな。パワーと同等の力があれば、シーラが四天王でも何も問題はない。真実を表に出せばいいだけだからな。ただ、一つだけ確認しておく事がある。ケン、良いのか? シーラが四天王になれば、別の問題が起こるぞ? その時、お前が傍に居なくていいのか?」
「は? どうして俺なんですか?」
紫頭はクランヌさんに突然話を振られて、困惑していました。
別の問題ですか……。私はシーラさんの姿を見ます。
紫頭の言っていた通りに、シーラさんの容姿で、しかも四天王となれば、人気は凄い事になると思います。
そうなると、シーラさんに簡単に恋人が出来てしまいそうです。そうなれば、紫頭はショックで禿げるはずです。
……。
それはそれで見たいですねぇ……。でも、紫頭と呼べなくなってしまいます。【創造】の力で頭を紫に変色させましょうか……。
「お、おい、レティシア。何をそんな邪悪な顔で俺の頭を見ていやがる」
「……失敬な」
人がシーラさんを失ったショックでツルツルになった後の紫頭を、どうやって紫頭にするか悩んでいる顔を邪悪な顔とは……。失礼にもほどがあります。
「まぁ、ケンがエスペランサに戻ってきてくれたら、全ての問題が解決しそうだがな」
「マジックもそう思うか?」
「はい。という訳で、ケン。お前もエスペランサに戻って来い。今のお前の実力ならば、俺に代わって四天王筆頭になれるはずだ」
「はぁ!? そ、そんなもんいりませんよ……。マジック様は強さが云々じゃなくて、クランヌ様が魔王に就任した時からの戦友だからでしょうが!?」
クランヌさんが魔王になった時からですか。
確かにマジックの顔はブレインやシーラさん、それにあの雑魚のゴミに比べれば歳を重ね、貫禄と威圧感すらあります。歴戦の戦士と言った顔ですね。
クランヌさんも、マジックに信頼を寄せているみたいですし……。
「しかしだ。どうやってシーラを元のまま強くするんだ? 確かにブレインからも報告がある通り、お前は神の加護を……いや、特殊能力を消す事ができるんだろう? そうする事で、魔神サタナスを倒したと……」
「ふむ、少し違いますね。確かにサタナスを倒した時に使ったのは【破壊】です。しかし、所詮は上澄みを七つ揃えただけの魔神程度なら、大罪を破壊せずとも、普通に殺す事は可能でした。ただ、絶望した顔を見たかっただけです」
「なに? 上澄み?」
「レティシア、俺が説明するよ。クランヌ様。実は俺も大罪の一つを持っています」
「な、なんだと!?」
紫頭は【憤怒】の力を発動させます。その力を見てクランヌさん達は物凄く驚いていました。
「ふむ、紫頭。随分と大罪の力を使いこなせるようになりましたね。以前に比べて研ぎ澄まされています」
「ありがとうよ。大罪の力は強力で魔族にとっては禁忌だ。ジゼルみたいに大罪を悪用する奴を止める必要があるからな」
「魔族にとって禁忌?」
「あぁ」
紫頭の話では、古代から大罪の力は悪魔の加護と言われ、魔族の禁忌である魔神サタナスの力の権化だと言われていたそうです。
しかし、能力は所詮は能力でしかありません。
「クランヌ様。大罪の力は別にサタナスだけの能力じゃありません。俺だって、こうやって大罪を使いこなしています」
「あぁ……。流石に驚いたが、ケン……。本当に強くなったな……」
「ありがとうございます……」
紫頭もクランヌさんに褒められて嬉しいみたいです。
さて……。
「シーラさんの能力についてですが……」
「いや、それは止めてくれ」
はい?
クランヌさんはシーラさんの幸せはどうでもいいというのですかね? ちょっとムカつきます。
しかし、シーラさんを助けてくれと言った紫頭が口を挟んできます。
「レティシア。エスペランサの今の状況を考えた方がいい」
「はい? 別にパワーがシーラさんに代わる事が、どう今のエスペランサと関係があるんですか?」
「そうだな……」
「ケン。ここからは俺が話そう」
ここからは、紫頭ではなくマジックが説明してくれました。
どうやら婚約パーティーの為に各国の要人がいる中でパワーとシーラさんが入れ替わってしまえば、その情報が各国に洩れてしまう。そうなれば、エスペランサが不安定になっていると解釈する国も現れかねないそうです。
ただ、今回のパーティーは、クランヌさんと仲のいい人達を集めていると聞きました。それなのに、そんな事があるのか? と思ったのですが、私達がヘクセさんと一緒に来たように、護衛や側近がどういう人物かまでは分からないというのが理由でした。
しかし、パワーとシーラさんは同一人物です。そこを説明すればどうにかなると思うのですが……。
「シーラには悪いが、パワーの姿と今のシーラをどうやったら同一人物だと信じさせられると思う? 国内の連中ならともかく、外の国の連中にはとてもじゃないが説明しきれん。どう考えても時間が必要になる。だから、パーティーが終わって落ち着いてから、シーラの力を消してやって欲しい」
「では、婚約パーティーが終わった後にシーラさんの能力を作ればいいんですね。分かりました」
それよりも気になる事があります。
「紫頭。貴方の本心はどうなのですか?」
「なに?」
「私は色恋というモノは良く分かりませんが、紫頭はシーラさんがパワーだったから安心していたのではありませんか? それに、エスペランサに戻ってもいいとも思っていませんか?」
「……」
「紫頭。リーン・レイを辞めますか?」
紫頭が何かを言う前にシーラさんが「それは駄目だ!!」と叫んでいました。
「ケンは冒険者になりたいって小さい頃から言っていたのに、私の為にエスペランサ軍に入ってくれたんだ。私が四天王になった時、ようやくケンも自分の好きな事をできるようになったんだ。それなのに……」
はて?
「一つだけ疑問に思うのですが……」
「なんだ?」
「紫頭が四天王をやりながら冒険者をやればいいのでは?」
「は? いや、それは無茶だろう」
「はて? あんな屑に四天王をさせているくらいです。四天王の座が一つくらい空席……。いえ、謎の男でも問題ないでしょう?」
かなりいい案です。
しかし、クランヌさんは良い顔をしません。
「ケン。この話は無かった事にしてくれ。やはり、お前を巻き込むわけにはいかない。それに、シーラ、お前もだ」
「はて? 紫頭は分かりますが、なぜシーラさんもなのですか? いえ、それよりも巻き込むとは何ですか? あぁ、そう言えば、エスペランサは別の魔王と争っているのですね」
ふむ。それが不安の種になっているのですね……。
「分かりました。私は婚約パーティーにはあまり興味がありませんから、魔王を殺しに行きましょうか?」
「何を言っているんだ?」
「クランヌ様。レティシアは本気で言っていますよ。おい。お前、暇つぶしに魔王で遊ぼうなんて考えていないだろうな……」
「へ? 思っていますよ」
当然じゃないですか。
グランドマスターが思っていたよりも動かなかったので、面白くないんですよね。だから、魔王で遊ぶんです。




