17話 四天王パワー
私と紫頭は、ブレインと同じ四天王のパワーの部屋へと向かっています。紫頭の幼馴染というくらいですから、立派な髪の毛を持っているのですかね?
「紫頭。パワーとはどんな魔族なんですか? 強いのですか? どんな髪型なんですか?」
紫頭と幼馴染という事を考えても、どれほどの強さなのかは気になります。今の紫頭はブレインより強いですが、私と出会ったばかりの紫頭を考えれば、そのパワーという幼馴染も紫頭と同等、それ以上に強かったとしてもブレインよりは劣るでしょう。
それと、やはり紫頭の幼馴染ですから……立派な髪の毛を……。楽しみです。
「あぁ。リディアに聞いた事があるんだが、アイツは名前を変えているんだよな」
「はて? そうでしたっけ?」
もう随分前の事ですから忘れていましたが、確かにリディアさんは名前が違いましたねぇ……。でも、それが何なのでしょう?
「リディアが名前を変えたのに、お前は空気を読まなかったらしいからな。だから、事前に言っておく。実はな、パワーと言うのは偽名なんだ」
「偽名? エスペランサの四天王の地位がどれほどかは知りませんが、そんな役柄の人が、偽名でいいのですか?」
「あぁ、それはクランヌ様とブレイン様、もう一人の四天王には事情を話してある。もう一人の四天王の事は今は知らないが、クランヌ様が知っているから問題ないんだ。お前にも理由を話しておくが、アイツが……、シーラが偽名を使っているのは特別な力のせいなんだ」
「特別な力ですか? どんな力なのですか?」
「あぁ。アイツは女なんだが、魔力を高めると筋肉が肥大するんだ。魔力を少しでも使うと筋肉が肥大化してしまう為に、アイツは常に無力な状態か筋肉で肥大化した状態だったんだ」
筋肉の肥大ですか。
筋肉に誇りを持っている女性ならともかく、普通の女性であるなら、少し可哀想じゃないんですか?
もし、筋肉に誇りを持っている女性だとしたら、わざわざ偽名を名乗らないと思いますし……。
「俺とシーラは幼馴染でな。アイツが幼い頃からあの力を嫌っているのを知っていた」
「では、なぜその力を生かせるエスペランサ軍に?」
「アイツはあの姿を嫌ってはいたが、同時に本当の姿のままの無力な自分も嫌いだったんだ。だから、この力は嫌いだけど、エスペランサの為に生かしたいと言っていた。それで、俺もアイツの心の負担が少しでも減る様に、エスペランサ軍に入ったんだ。そして、五年前にアイツが四天王になり、一人で大丈夫だと思ったから、俺はエスペランサ軍を辞めて冒険者になったんだ。俺にとってもエスペランサ軍にいた経験は良かったがな」
なるほど。
ぱ……シーラさんの話をする紫頭から、ヘクセさんと同じ匂いがします。
「なるほど。貴方もそのシーラさんに恋をしているのですね」
「ぶはっ!? な、なんでだよ。お前、その愛だの恋だのの小説を読んだの最近だろう?」
「そうですよ。一昨日読みました」
「はぁ……。お前は、人の意見や本の知識に染まりやすいんだな。一度エレンとカチュアに話しておくか……。まぁ、その事はいいとして、シーラは見た目も器量も良いからな。問題はあの特殊能力だけだ。それさえなければ、アイツには相手がいくらでもいるさ。わざわざ、アイツの隣にいるのが俺みたいな適当な奴である必要はねぇよ」
「そうですか?」
「おい。着いたぞ」
紫頭と話し込んでいるうちにパワーの部屋に着いたみたいです。
ふむ。他の部屋とは違い、扉が大きいですね。
「かなり大きな扉ですね。シーラさんという人はコレを開けられるんですか?」
「筋肉肥大したアイツは、このくらいの扉ではないと、出れないんだよ」
「はて?」
紫頭は、大きな扉を叩きます。すると、大きな扉が少し開きます。
「なんだ?」
「おう、パワー。久しぶりだな」
「な!? け、ケンか!?」
これがシーラさんですか。身長が紫頭の二倍以上あります。巨人族? いえ、これが筋肉の肥大ですか。大きいですねぇ……。
しかし、このシーラという人は良く分かりません。筋肉肥大しているとはいえ、顔は整っています。赤い髪の毛を後ろで縛っているみたいですね。でも、筋肉のせいか、凄くアンバランスに見えます。これは見る人が見れば怖がるかもしれませんねぇ……。
「ん? そちらの子は?」
「あぁ。俺の冒険者仲間だ。中に入れてくれるか?」
「あ、あぁ」
シーラさんは、私を見て少し残念そうな目をします。もしかして……。
「紫頭。私が邪魔なら適当に遊んできましょうか?」
「あ? 何言ってるんだ? 大丈夫だ。パワー、こいつにはちゃんと話してある」
「な!? わ、分かった。入ってくれ」
シーラさんは私達を部屋に入れた後、筋肉肥大の魔法を解きます。いえ、魔力を極力抑えているみたいです。
……なるほど。
紫頭が、見た目がどうとか言っていた理由が分かります。
赤い髪の毛がとても綺麗な、少しきつめの印象を持つ美人さんです。
魔力を放出させれば筋肉肥大になる。しかし、魔力を押さえると無力になってしまう。これでは普通に生活できないんじゃないんですかね。
「け、ケン。この子に私の事を話したってどういう事だ? ま、まさか、こ、恋人なのか!?」
「気持ち悪いのでやめてください」
「そんなわけねぇだろう。シーラ。こいつがレティシアだ。ブレイン様に聞いているだろう?」
「な!? こ、この子が!? 魔神サタナスを倒した……」
魔神サタナス?
あぁ、タロウの中にいたあの魔族ですか。
正直な話、大罪の上澄みの集合体なんて強くもなんともなかったですよ。あんなのに何の価値が?
「シーラさん。一応言っておきますけど、魔神サタナスは弱かったですよ。アレはタロウの別人格として復活しましたが、今のタロウの方が強いかもしれませんね。勿論、今の紫頭にも倒せるでしょう」
「え!?」
「うーん。俺もレティシアが戦ったサタナスを見たわけじゃないが、大罪の上澄みしか使えなかったんだろ? それなら、俺にも何とかできそうだな」
「そうですね。大罪を使いこなしている貴方の方がよほど強いと思いますよ」
「な!?」
今の私の言葉に、シーラさんは驚いているみたいです。
もしかして、大罪は魔族の中では、タブーか何かでしたか?
「初めましてシーラさん。私がレティシアです」
「よ、よろしく。だが、エスペランサにいる間は、私の事はパワーと呼んで欲しいんだが……」
「む? わかりました」
「そ、それと……」
シーラさんは少しモジモジしています。私でも空気を読めますよ。
私はシーラさんの能力を視ます。どこまで視れますかね……。
【身体超強化:筋肉】【筋肉の呪い】【筋肉美:勘違い】【桃色筋肉】【魔力筋肉】
な、なんですか?
この筋肉に捕らわれたような特殊能力は……。
この中で使えそうなのは……。
これは少し考える時間が必要ですね。
「紫頭。暫くお二人で話してください。私は少しお城でブラブラしてきます」
「ちょっと待て。お前を一人にする方が危険だ」
「大丈夫です。絡んで来た奴には魔族かどうか聞きます。それで安心です」
「どこが安心なんだ?」
紫頭は私を止めようとしますが、私は紫頭を一度殴り、その隙に外に出ます。
シーラさんは紫頭と二人きりになりたいみたいですから、お邪魔虫は一人でお城を徘徊しながら、シーラさんの能力を考えましょう。
私は一人でお城を見学します。白いお城は中も綺麗です。
そう思っていたら、後ろから声をかけられました。
「おいおい、なんでこんな所にガキがいるんだ?」
「はて?」
声がしたので振り返ると、青い髪の毛の線の細い人が立っていました。
どうしてでしょう……。何かムカつきますねぇ……。
という訳で、パワーの性別と設定を大幅に変えました。




