14話 再びエスペランサへ
「ヘクセちゃんだっけ? そこまで緊張しなくてもいいのよ。貴女は私達に巻き込まれただけだし、場違いなんて考えずに、クランヌ陛下のパーティーも何も考えずに楽しめばいいんだよ」
ヘクセさんは姫様達に会って小刻みに震え、緊張しているみたいです。どうやら、姫様の事を以前から知っているみたいでした。
「で、でも、ネリー様」
「あら? 私に敬称なんて必要ないわよ。もう王女じゃないし、今はただの平民の冒険者。貴女の方は貴族なんだから、私よりも身分は上なんだからね」
「しかし、レティシアさんも姫様と呼んでいますし……」
それは当然です。
私にとっては姫様が冒険者であろうと、王族であろうと姫様は姫様です。
「この子にもネリーでいいって言っているんだけどね」
ヘクセさん。なぜ私をジッと見ているんですか?
「ファビエの王女様の話は、お父様からよく聞いていました。あの国が成り立っていたのは、王ではなくネリー様の手腕だと何度も言っていましたし、私もそんなネリー様に憧れていました」
「面と向かって言われると照れるわね。でもね、当たり前だけど、国が成り立っていたのは私一人の力じゃないわよ。ここにいるレッグさんもそうだし、ケンや他の人達も私と一緒に頑張ってくれたのよ。私一人では何もできなかったわ」
そう言って姫様は悲しそうな顔をします。
やはり、
姫様にそんな顔をさせるなんて……。ジゼルの後ろにいた黒幕を私は許しません。まぁ、そんなのが本当にいたかは知りませんけど。
「まぁ、過ぎた事はどうやっても戻らない。それよりも、ヘクセちゃんはエスペランサでのパーティーを楽しめばいいさ」
「は、はぁ……。でも、私はクランヌ陛下と親しいどころか、会った事も無いのに、婚約パーティーに参加してもいいんでしょうか? ネリー様やレッグさんと違って招待状は持っていませんし……」
そうでした。
ヘクセさんは招待状を持っていないんですよね。ヘクセさんはエスペランサ城に入れるのでしょうか?
表向きの護衛とはいえ、エスペランサに着いて宿にずっといろ、というのは酷いですね。
そうです。
もし、エスペランサ城に入れなかったら、ヘクセさんと一緒にエスペランサと争っている魔王を殺して遊びましょう。
「おい。お前、良からぬ事を考えているだろう」
「なんですか? その立派な紫色の髪の毛を全部引き抜きますよ」
「お前、怖い事をいうんじゃねぇよ!? お前が悪意のある顔で笑っているから言ったんだよ」
悪意のある顔って何ですか。失敬な。
確かに、姫様がいるとはいえ、知らない人ばかりのパーティーよりも、魔王を虐める方が楽しそうとは思っていますけど。
「ケン。クランヌ陛下は細かい事を気にするタイプだったか? ヘクセちゃんが婚約パーティーに参加しても問題ないだろう?」
「時と場合によるだろうな。ヘクセちゃんがパーティーに参加するのは問題ないと思うが、今は状況が状況だからな。他国の要人がいる以上、細かくならんといかんだろう。レッグ、お前もネリーを見てきたから知っていると思うが、王族はそこまで簡単にできる事じゃないんだぞ」
「え? でも、グローリアさんは結構適当ですよ?」
たまに一人で冒険者ギルドにも行くみたいですし、私達の家に一人で来る事もありました。いつ執務室に行っても怒りませんし、適当だと思うのですが……。
「アホか。そりゃ、お前が相手だからだ」
「はい? どういう事ですか?」
「どういう事も何も、そのままだよ。お前に常識は通用しないだろうが……ごぶぅ!?」
「蹴りますよ?」
全く失礼な人です。お仕置きにお腹に一発蹴りを入れて置きました。
「け、蹴ってから言うんじゃねぇよ……」
紫頭はその場に崩れ落ちます。暫くは静かでしょう。
「ね、ねぇ……。レティシアさんはクランヌ陛下を見た事があるんですか?」
「ありますよ」
とはいっても、ブレインと揉めた時に間に入った時に話していただけですけどね。
「おい。レティシア、ブレイン様だけではなくクランヌ様にまで喧嘩を売ったんじゃないだろうな」
紫頭がすごい剣幕で私の肩を掴みます。
しかし、もう復活したんですか。タフですねぇ……。
「前にも言いましたけど、喧嘩を売って来たのはあちらですよ。私は偵察に来たと言っただけです」
「アホか。門番にしても、ブレイン様にしても、偵察と言われたら警戒するだろうし、可能であれば排除しようとして当たり前だろうが!!」
「しかしですねぇ……。私は転移魔法の為にですねぇ……」
「はぁ……。それで、クランヌ様とも戦ったのか?」
「いえ、戦っていませんよ。しかし、クランヌさんは私が会った人の中では二番目に強いと思いますよ」
これは確かです。
確かにブレインも強いと思いますが、グローリアさんの方が強いと思います。しかし、クランヌさんは私が知る限りでは、一番強いラロよりは弱く感じましたが、少なくとも強そうには見えました。
「嘘だな」
「はい?」
「お前、リーン・レイのメンバーをその出会った奴等に含んでいるか? それにベアトリーチェやグランドマスターはどうなんだ?」
「まず、リーン・レイを含むわけがないじゃないですか。私が強さを測るのは敵対する可能性がわずかでもある人だけです。グローリアさんは敵対しないと思っていますが、リーン・レイではありませんので強さを測る対象になっているだけです。ベアトリーチェは死にましたし、グランドマスターはしっかり見ていないのに何とも言えません」
ベアトリーチェが死んだかどうかは正直分かりませんけどね……。
「それに、仲間の人が裏切るなんてこれっぽっちも思っていません」
「確かに、リーン・レイのメンバーはお前を裏切らねぇな。別にそれが全てじゃないが、お前の強さは嫌というほど知っているからな。話を戻すが、クランヌ様よりもドゥラーク、アレスの二人の方が強いだろう?」
「そうですね。それにつけ足すなら、紫頭もクランヌさんに匹敵すると思いますよ。勝つのは難しいかもしれませんが」
「そりゃ、高く見積もってくれてありがとうよ。しかし、お前が俺まで褒めてくれるなんてよ、随分と丸くなったもんだな」
「今度は殺しますよ?」
私は殺気を紫頭にぶつけます。
「な、なんでだよ!?」
「照れ隠しですよ」
「自分で言うなよ……」
紫頭をからかうのにも飽きたので、そろそろ転移します。
「ヘクセさん。そろそろ覚悟を決めてください。エスペランサに行きますよ」
「え? 転移魔法陣は?」
「そんなもの必要ありません」
私は魔法を発動させます。すると足下に魔法陣が浮かび上がります。
そもそも、本来の転移魔法は魔法陣なんて必要ないんですよ。まぁ、本来の何て知らないんですけどね。
光が止むと、私達はエスペランサの大門前に立っていました。本当は町の中に直接転移したかったのですが、ブレインに邪魔をされたせいで、中に入れなかったんですよね。
「な!? て、転移魔法だと!?」
うるさいですねぇ……。誰ですか?
「あ、あの時の門番さんじゃないですか」
「な!? あの時の子供!? ほ、本当に来たのか!?」
「だから来ると言ったじゃないですか」
この門番さんもあの場にいたのですから、聞いていたと思うのですが……。
「ん? お前、マイクじゃねぇか」
紫頭が、門番に話しかけます。
門番さんの事をマイクと呼びましたね。
「え? どうしてこの子供が連れた奴が俺の名を……? な!? お前、ケンか!?」
「お知り合いですか?」
「あぁ、俺がエスペランサ軍にいる時に同期だったんだ。おい、マイク。お前はブレイン様の部下の中でも、出世株だったじゃねぇか。なぜ門番をしている?」
「あぁ、今はエスペランサも色々と大変でな。俺以外にも強い人が門番をやっているんだ。俺もその関係で門番に抜擢されたんだと思う」
強い人?
うーん。確かに、エラールセの兵士に比べれば強いと思いますが、そこまで飛び抜けてはいないと思います。
「いや、今はそれどころじゃない。お前達は何をしに来たんだ!? その子供は偵察と言っていた!! ブレイン様とも余裕で戦いあえるほどの強さ……。その子供は、何者だ!?」
困りましたねぇ……。
これではエスペランサには入れません。
「その事は後で説明してやる。レッグ、招待状をマイクに見せてやってくれ」
「ん? あぁ」
レッグさんは懐から招待状を取り出し、マイクさんに見せます。すると、「こ、これは、クランヌ様の招待状!? まさか本当に護衛でしたか!? 大変失礼しました!!」と謝ってくれて、町に入れてくれました。




