12話 久しぶりの姫様
エスペランサの事をグローリアさんに報告してから家に帰り、のんびりとしていました。
スミスさんが盾を作り終えるまでは、大人しくしていると言ってしまったので暇になりました。
さて、何をして過ごしましょうか……。
冒険者として依頼をこなすのもいいですが、学校に行って、色々と学ぶのもいいかもしれませんね。どうしましょうか、悩みますね。
「レティシア様。私の連絡用の魔宝玉にギルガさんから通信があったのですが……」
「ギルガさんからとは珍しいですね」
「はい。どうやらギルガさんはレティシア様に怒っているみたいで、今すぐにレティシア様を出せと言っているのですが、何か心当たりがありますか?」
「はて? ここ最近は、ギルガさんに会うどころか、セルカの町にも帰っていませんから、怒られるいわれはないのですがね。どうしたのでしょう?」
「分かりません。理由を聞いたのですが、レティシア様が知っているとしか言いませんでした」
「そうですか。思い当たる事はありませんが、魔宝玉を貸してください」
随分と怒っているみたいですが、説教でしょうかねぇ? まぁ、何を言われても気にしないので、ちゃっちゃと話をしますか。
「ギルガさん。レティシアです。私に対して怒っている様ですが、なぜですか?」
『やっと、連絡が取れたな。レティシア。お前、今日の昼にリディアから何か言われてなかったか?』
「はて? えーっと……」
そう言えば、お昼にセルカの町に戻っていましたね。忘れていました。それにしても、リディアさんに言われた事ですか……。なんでしたっけねぇ?
……。
あぁ、確か、リーン・レイの皆さんは最近忙しいと言っていましたね。特にギルガさんはみんなのスケジュールを管理しているので、とても忙しいとも言っていましたね。
分かりましたよ。忙しいのに連絡するなと言う事ですね。でも、おかしいですねぇ。今回は私から連絡したのではなく、ギルガさんから連絡してきたと言うのに。
きっと、忙しいのをアピールしたいのでしょう。ここは大人しく謝っておきますか。
「忙しい中、申し訳ありません。もう、いいですか?」
『もう、いいですか? って、お前……。リディアの言っていた事を忘れているな?』
「はて? ちゃんと覚えていますよ。リーン・レイの皆さんは最近忙しいと聞きました。私達、エラールセ組は比較的穏やかに暮らしているので、申し訳ないなぁとは思っているつもりです」
『違う!? 確かに忙しいが、そうじゃない!? リディアから、オレから連絡があるから連絡用の魔宝玉を空間魔法から出しておけと言われただろう!?』
……。
あぁ、確かにそんな事を言われていましたねぇ……。
「思い出しました。ごめんなさい」
『はぁ……。ところで、グローリア陛下から指名依頼が入る予定と聞いたが、本当か?』
「はい。私と姫様とレッグさん、それから紫頭の四人に指名依頼が入ります。内容は、エラールセ貴族の娘さんであるヘクセさんの護衛で、行き先はエスペランサです」
『エスペランサか……。そのヘクセという貴族の護衛は表向きだな。本当の依頼は、クランヌ陛下の婚約パーティにネリーとレッグを連れて行くってところか?』
「良く分かりましたね。そうです。ヘクセさんは私のおもちゃです。紫頭に関しては、エスペランサが魔族の国なのでじゃないですか?」
『いや。ケンはレッグやネリーとファビエ時代からよく一緒に行動していたと聞いているからな。それでだろう。ともかく、リディアから聞いていると思うが、アイツ等は三日後の夜に帰ってくる予定だ。だから三日後の夜に、お前等三人ともセルカに顔を出せ。たまにはこちらに顔を見せに来い』
「ふむ。面倒ですが、姫様に久しぶりに会いたいので分かりました」
『これで話は終わりか? 終わりなら通信を切るぞ。まだ、やらなきゃいけない事があるんだ』
「そんなに忙しいのですか?」
『あぁ。オレ達は全員が高ランクだからな。冒険者の指導や高ランクの魔物討伐など、依頼は尽きない。トキエにも、ギルドの受付を辞めてもらって、リーン・レイの事務的な仕事や会計をしてもらっている』
「ふむ。トキエさんも正式加入したんですね。それは素晴らしいです」
『ははっ。最近は毎日が忙しいって愚痴ってばかりだけどな』
「これ以上、邪魔をしてはいけませんね。三日後の夜にそちらに転移しますね。では、お体に気をつけてください」
『ははっ。お前に気遣いされると変な気分だな。まぁ、ボチボチやるさ。ドゥラークから聞いたが、お前もベアトリーチェとの戦いで無理をしたんだろう? お前が死んだらリーン・レイの全員が哀しむ。だから、無理はするなよ』
「分かりました。では、おやすみなさい」
『あぁ、三日後な』
ギルガさんとの通信を切った後、私達は三人でお風呂に入り、眠りにつきます。
次の日。私達は久しぶりに学校に来ました。久しぶりの学校と言っても一週間前に来たばかりですが、やはり知らない知識の授業は面白いです。特に、イラージュ先生の授業は楽しいですし、他の職業の授業も、とても楽しいです。
そして、三日後。ギルガさんとの約束の日の夜になりました。
私達は、セルカの町に転移します。
セルカの町の拠点には、ギルガさんに姫様。それにレッグさんと紫頭がいました。
「はて? ドゥラークさんはどうしました? 確か、三人と一緒の仕事だと聞いたのですが」
「あぁ、ドゥラークは、そのまま現場に残っている。魔物の脅威が完全に取り払われたわけじゃないからな。元々、ドゥラークとケンは残る予定だったんだ。まぁ、ケンの代わりにはリディアに行かせたけどな」
なるほど。
ドゥラークさんもこんな胡散臭い紫頭よりも、嫁であるリディアさんの方が一緒にいて楽しいでしょう。
そんな事よりも、姫様です。
「お久しぶりです。姫様」
「レティ、久しぶり。こっちに来て」
「はい?」
姫様に呼ばれたので近付くと、ギュッと抱きしめてくれます。いい匂いです。
「うーん。久しぶりのレティの感触は良いわねぇ……。エレンもカチュアも常に一緒にいれていいわねぇ……」
「ふふっ。ネリー様も私達と一緒にエラールセで活動しますか?」
それはいい考えです。
姫様がエラールセに来れば、私は凄く嬉しいです。
「あはは。確かに魅力的だけどね。それは出来ないわ」
「そうですね。愛するレッグさんと離れたくありませんよね。私もレティシア様と離れたくないので分かります」
カチュアさんが冗談っぽくそう言うと、姫様は顔が真っ赤になって「もぅ」と言って顔をそむけます。
カチュアさんと姫様のやりとりを見て、照れながら頭を掻くレッグさんは真剣な顔になり、私に依頼内容を聞いてきました。
「表向きは、エラールセの貴族であるヘクセさんという女性の護衛です。実際の依頼は姫様とレッグさんのお二人をエスペランサに連れて行く事です。ちなみにヘクセさんは私のおもちゃなので、姫様の事を誰にも話さないと思います」
私はグローリアさんから預かった招待状を、姫様とレッグさんに渡します。
「これは?」
「グローリアさんから預かった、クランヌさんの婚約パーティーの招待状です」
姫様とレッグさんのお二人は招待状を読みながら、少し困っている様です。
しかし、招待状があるのは二人だけで紫頭にはありません。
「なぁ、レティシア。ネリーとレッグは分かるが、俺まで一緒なのは何でだ?」
「貴方が魔族だからじゃないですか? もしかして、紫頭はエスペランサ出身ですか?」
「あぁ。よく気付いたな。確かに俺はエスペランサ出身だ。元々は、エスペランサ軍で四天王ブレイン様の部下だった。何年か軍にいたんだが、冒険者をしたくて辞めたんだ」
「ブレインと言うのは灰色の髪の毛の細身の男ですか?」
「ブレイン様を知っているのか?」
「エスペランサに偵察に行った時に戦いました」
「な!?」
私は紫頭にエスペランサでブレインに戦いを挑まれた話します。紫頭はブレインの事に詳しいみたいで「ブレイン様の事だ……。レティシアの力を試したな」と言っていました。やはり私の思った通りです。
「それで、いつ出発予定なんだ?」
「うーん。正確な日程は決まっていない……いえ、決められていないんです。今、クランヌさんへのお祝いの品として、スミスという鍛冶師に盾を作ってもらっているのですが、盾が出来上がらないと日程が決められないのです。私としては婚約パーティの三日前には、エスペランサに転移しておきたいのですが……」
「そのスミスという鍛冶師次第か……。それは困ったな……」
「はい?」
「正確な日程が分からないと、俺達の仕事の調整をしてくれているギルガの旦那やトキエちゃんに負担をかけてしまうからな」
ギルガさんはともかく、トキエさんの負担になるのは嫌ですね……。
しかし、正確な出発日ですか。
確かにそうですよね。リーン・レイの皆さんは、最近は忙しいみたいですから……、あんな髭爺の都合に合わせていられません。
「分かりました。スミスさんを急かしておきます。婚約パーティの三日前に出発にします。させます。ギルガさんにもそう言っておいてくれますか?」
「分かった」
さて、スミスさんを急かす理由が出来ましたね……。




