10話 鉱石とスミス
「はい、どーん!!」
私はお城の鍛冶場の大きな鉄の扉を蹴り飛ばします。扉は大きな音をたて勢いよく開きます。
「な、なんじゃぁああああ!?」
お城中に響くほどの音だったので、流石にスミスさんも無視できなかったみたいで、目を見開いて私を見ています。
驚くのは勝手ですけど、サボっていたお仕置きはこれからですよ。私はスミスさんの立派なお髭を引っ張ります。
「痛い痛い痛い痛い!?」
「スミスさ~ん。どうしてお仕事をサボっているんですか~?」
「さ、サボる? な、何を言っておるのじゃ!? と、とりあえず話をするのなら、髭から手を離さんか!?」
うるさいですねぇ……。
私はスミスさんの髭から手を離します。そして、スミスさんを正座させます。
「なぜ、盾作りを開始しないんですか?」
「その前にいきなりの狼藉を謝らんか!」
あはは。
この人は自分の立場を分かっていない様ですねぇ。
「今度は髭を全部毟りますよ?」
「な、なんて恐ろしい事を言うお嬢ちゃんじゃ!?」
「そんな事よりも私の質問に答えてくださいよ。なぜサボっていたのかと聞いているんですよ」
「なに? 誰がサボっているんじゃ? わしはただ、鉱石の機嫌を取っていただけじゃ」
「はい?」
この人は何を言っているのでしょう? 頭がおかしいのですか?
「機嫌の悪い鉱石を無理矢理加工しても、良いモノはできん。やはり、鍛冶師と鉱石の間に信頼関係が無いとダメという事じゃな。それでお嬢ちゃんは誰にわしが仕事をサボっていると聞いたんじゃ?」
「カチュアさんですが、元々は鍛冶ギルドの職員が、五日もジッとしている貴方をどうにかして欲しいと言ってきたんです」
「なに? 鍛冶ギルドの職員じゃと? 最近の鍛冶師は鉱石と語り合う事を理解すらできぬというのか?」
「何を言っているのですか?」
「わしが若い頃は、鉱石と会話で来て初めて一人前じゃった。師匠も全く同じ事を言っておったし、全く……今の鍛冶師はそんな事も知らんのか……」
「はて? 師弟揃って頭がイカれていましたか?」
「お、お主……、失礼にもほどがあるぞぃ……」
鉱石と話をするなんて、聞いているだけでは、頭のおかしい人達だと思うのですが、どうもスミスさんが嘘を吐いていると思えませんね。
「そもそも、お主の様な奴が武器を大事にしないんじゃ」
「武器は大事にしていますよ。失礼な事を言わないでください。それに大事にはしていますが、武器を大事にし過ぎて、死んでしまったら、それこそ意味がないではないですか」
「それもそうなのじゃが、武器を粗末に扱いその結果、肝心な時に武器を失ってしまい、死んでしまったらそれこそ意味がないじゃろ?」
「ふむ。確かに一理あります」
そう言われてしまうと鉱石にも意志があるのではないかと思ってしまいます。
「それで、この鉱石は何と言っているのですか?」
「わしのような変態には加工されたくないと言っておる。だからこそ、その誤解を解こうとしておるのじゃ」
変態?
あぁ、スミスさんは鉱石に興奮する変態だというのを鉱石自身も危機感を持っていると?
「それは自業自得で、事実でしょう?」
「な、何を言っておる?」
「イラージュ先生から聞きましたけど、毎夜毎夜、鉱石を相手に変な事をしているんじゃないんですか?」
「あの男女!? お、お嬢ちゃんのような幼子に何を言っておるんじゃ!? しかも、誤解じゃ!? わしが城で寝泊りしないのは、今回の様に夜通しで説得しておるからじゃ。ドワーフは一週間くらい寝なくても、酒があれば大丈夫じゃからな。酒を飲みながら説得しておると、どうしても息が荒くなってしまう。それが真相じゃ!?」
「本当ですか?」
何やら必死過ぎて信用できませんねぇ……。
「そもそも、わしには愛する妻も子もおった。今は数百年も生きておるから、異性にはあまり興味が無くなってしまったが、今でもわしの一族の者達とは仲良くやっておるし、大事にも思っておるわ」
「数百年?」
「わしはSランクじゃからな。歳は取らん」
「はて? グローリアさんは貴方は四十代だと言っていましたよ?」
「あぁ、わしは年齢を教える時は四十代と答えておるからな。それが原因じゃな……。さて、誤解も解けた事じゃ。そろそろ出て行ってくれんか?」
「まぁ、説得の意味は理解しましたが、説得に時間がかかり過ぎて盾が出来なくなれば元も子もありません」
「それは大丈夫じゃ。加工なら一週間もあればできる。安心しろ」
「本当ですね?」
「あぁ。お嬢ちゃんこそ、盾が完成したら、あの鉱石をちゃんと作ってくれよ」
「分かっています」
私はスミスさんと別れ家路に着こうとします。
「あ、そう言えば姫様達に手紙を渡していません。一度セルカに転移して渡してきましょう」
私はセルカの町にある拠点に転移します。
家に入るとリディアさんが一人でご飯を食べていました。
「あれ? レティシアちゃん。どうしたの?」
「リディアさん一人ですか? 姫様はいないのですか?」
「ネリー様? ネリー様とレッグさんとケンさんとドゥラークさんの四人で魔物討伐の依頼を受けていえ、帰ってくるのは三日後かな」
「リディアさんは居残りですか? それとも、暇なのですか?」
「あはは。私も今帰って来た所だよ。最近のリーン・レイは皆、忙しいからね。ギルガさんなんて、まとめ役だから毎日が忙しいみたいでトキエちゃんもギルガさんの体調を心配していたわ」
「そうなのですか。どちらにしても、姫様達は三日は帰ってこないんですね」
「うん、そう聞いているよ」
「分かりました。では、三日後にまた来ます」
「何か依頼?」
「はい。グローリアさんからの指名依頼です」
「指名依頼だったらギルガさんに言っておくよ。ギルガさんとトキエちゃんの二人でリーン・レイのスケジュールを管理しているからね。そうだ、連絡用の魔宝玉を常に出しておいて。今日の夜にギルガさんから連絡があると思うから」
「分かりました」
私はリディアさんと別れ、セルカの教会に向かいます。
ついでに魔族の事を聞いておきましょう。
私が教会に向かうと、教会の入り口に見知った人が立っていました。あの人はセルカの町の教会にいないはずなのですが……。
「ラウレンさん」
「む? レティシアさんではないですか。お久しぶりです」
「お久しぶりです。ラウレンさんがいるのならちょうどいいです。聞きたい事があるのでいいですか?」
「はい。構いませんよ。教会の一室を借りてきましょう」
ラウレンさんはそう言うと、セルカの教会に入り受付で何かを話しています。そして、何かのカギを渡してもらい奥の部屋に私を案内してくれます。
「適当に座ってください。紅茶でいいですか?」
「はい。ありがとうございます」
ラウレンさんは紅茶を淹れた後、私の前に座ります。
「それで、聞きたい事とは?」
「はい。魔族について聞きたいと思いまして……」




