7話 魔国エスペランサへおつかい
スミスさんは、鉱石と話をすると言いお城の鍛冶場に籠ってしまいました。
グローリアさんに聞くと、新しい物を作り出すときはいつも、こうやって何日間か籠るそうです。
「とっていた宿が無駄になりそうですね。さて、盾が出来上がるまで、どうしましょうかね……」
盾の完成予定が三週間後、更にその二日後にエスペランサに行く予定です。つまりは三週間は何も予定がないのです。
「グローリアさん。私は三週間、何をしたらいいのでしょう」
「そうだな。時間のある時は学校に通っていればいい。ただ、お前には頼みたい事が二つある。一つはネリー達に、クランヌ殿からの招待状を渡して欲しい」
「はて? グローリアさんが直接渡さないのですか?」
「そうしてもいいのだがな。前にも言ったが、ネリーは元ファビエの王女だ。俺も彼女を昔から知っているからな。本当は貴族位くらいはつけてやりたかったが、ネリーの代わりの偽物を処刑しちまっているからな。そういうわけにはいかないんだ。もし、死んだはずのネリーの生存が外国の馬鹿な貴族にバレれてしまえば、何かに利用しようとするかもしれん。だからこそ、ネリーとは、できるだけ接触を控えているんだ」
「そうですか」
表向きは、ファビエ領土を守る為に命を使って責任を取った結果、ファビエ領土はエラールセの領土になったのでしたね。死んだはずの姫様が生きているのがバレれば、おかしい事になるかもしれませんね……。
でも、少し待ってください。
「エスペランサでは、婚約パーティがあると言っていました。そんな場所に姫様を連れていけば、それこそ姫様の存在がバレてしまうのでは?」
「あぁ、その辺りは気にしなくていい。元々ファビエと……、いや、ネリーと懇意だった王族には、ネリーの事は話してある。当然、バックに俺がいる事もな。それ以外の王族はネリーの存在すら知らないから大丈夫だ。まぁ、リーン・レイの一員というだけで、注目されそうではあるがな」
はて?
「リーン・レイはそれほどまでに有名になってしまっているのですか?」
「あぁ。リーン・レイの連中は、上位の連中が全員がAランクだ。今となっては、ネリーですらAランクだ。まぁ、最近入った奴等もBランクにまでランクアップしていると聞いている。そんなパーティなら、有名になって当たり前だ」
確かに、最近入ったオリビアさん達も十分強くなりました。これも私がおもちゃで遊んだ結果です。がんばって鍛えました。
次は……ヘクセさんですね。がんばって遊びましょう。
「もう一つは何ですか?」
「あぁ。お前はエスペランサに行った事があるか?」
「ありません」
「そうか。それならば、お前だけで一度、エスペランサに行ってくれ。普通の馬車なら一ヵ月かかる道のりも、お前なら数日でたどり着けるだろう。そうだな、お前に指名依頼を出すとしよう。エスペランサの門番にこの手紙を渡してくれ」
「門番でいいのですか?」
「あぁ、王族への手紙だが、大した手紙じゃないからな。それにエスペランサの軍律はしっかりしてあるから、手紙を粗末に扱わないはずだ」
「分かりました」
急遽、エスペランサに行く事になった私は、次の日の朝早くに出発しました。
エスペランサに向かって三日目。ついにエスペランサに到着しました。
「なるほど。魔族の国と言うのは本当みたいですね。国から発せられる魔力がエラールセよりも強力です。魔族は人間よりも戦闘面で優れていると聞いていましたが、あながち間違ってはいないみたいです」
私はエスペランサの大門まで進みます。すると魔族と思われる門番さんが二人立っていました。
「ん? お嬢ちゃん。一人か? 親はどうした?」
「はい? お母さんは私が幼い頃に死にましたよ。お父さんは私が生まれる前に死にました」
「そ、それは済まなかったな」
肌が青い魔族の門番さんは申し訳なさそうにします。同じ魔族でも紫頭の肌の色は私達と同じような色でしたし、魔族には色々いるのですね。
「どちらにしても、こんなに幼いお嬢ちゃんがこんな所に一人で来ちゃいけない。家はどこだい?」
「え? エラールセですけど?」
「なに? エラールセ……? あんなに遠くの国から?」
「そうです。今日は偵察に来たんです」
「て、偵察!?」
そうです。
転移魔法は一度言ったところにしか行けないので、一度来る必要があったんです。
しかし、偵察と言った事で、魔族さん達は騒ぎ始めます。
「はて? あ、そうです。表向きは依頼でした。門番さんに手紙を渡すように言われたんです」
「い、いや。表向きとか言われると、その手紙も怪しいぞ?」
「そうですか?」
おかしいですねぇ。
冒険者ですから、別に怪しくないと思うのですが……。
あ、そうです。冒険者カードを見せれば、納得してもらえるでしょうか?
「何の騒ぎだ?」
「ぶ、ブレイン様!!」
ブレイン様?
この男は偉いのでしょうか……。
見た目は普通の青年なのですが、確かに門番さん達とは別次元の魔力を感じます。かなり強いですね。
「なんだ? そのガキから、圧倒的な魔力を感じる」
「誰がガキですか」
「気を悪くしたのなら済まないな。ただ、お前の今の姿を見てガキと呼ばない奴はいないと思うんだが?」
私は自分の体を見ます。
「それは一理ありますね」
「それで? お前はどうしてここにいるんだ? 【神殺し】のレティシア」
「私を知っているのですか?」
「そりゃ、お前ほどの危険人物を知っていないと不味いだろう。私はこう見えても、この国の参謀だ。他国の情報は集めているさ。もちろん、エラールセの事もな」
「そうですか。なら、話が早いです」
「なに?」
「私は三週間後にもう一度ここに来ます。そのために一度ここに来たのですよ」
「そうか……」
ブレインは腰に差した剣を抜きます。
「三週間後に危険な人物を来させるわけにいかない」
「それは私も困ります。それが依頼ですから……」
「そうか……。出来れば穏便に帰って貰いたかったんだがな……。素直に言う事を聞いてくれないか?」
「いえいえ。私もお仕事ですから」
「そうか。なら、仕方ないな」
ブレインは、剣を構えます。
あの剣……。前に作ったヤミみたいです。魔剣でしょうか?
私も空間魔法からファフニールを取り出します。
「そんな大きな剣を使うのか?」
「そうですよ」
「そうか……。相手にとって不足はない!! 行くぞ!!」
そう言ってブレインが襲いかかって来ました。
……。
「今日はおつかいですから、殺しませんから安心してくださいね」




