3話 スミスという男
エラールセの皇王グローリアさん。別名、狂皇グローリア。
私達は、スミスさんが来るのが三日後とグローリアさんに報告するために、皇王の執務室まで来ました。
「三日後か。よし、分かった。助手をやってもらう鍛冶師を手配しておく」
「鍛冶をする場所などは、もう用意できているのですか?」
「あぁ。スミスを懇意にしていると言っていただろう。元々スミス専用の鍛冶部屋がある。鍛冶ギルドに道具の手入れなども、定期的に依頼してあるから鍛冶をする場所などは問題ない。寝るのは、スミスが勝手に町の宿屋をいつも通り手配するだろう。もしもの時は、イラージュ頼む」
「……はい」
イラージュさんの顔が優れません。どうしたのでしょうか?
「イラージュ。俺もスミスを懇意にしているから、人となりは知ってはいるが、お前と同じSランクとして、スミスは信用できるのか?」
「そうですね。何度か会って話をしましたが、信用はできると思います。彼も私達と同じと聞きましたから」
「同じか……。つまりはグランドマスターの手が加えられていないという事か。という事は、グランドマスターに操られていないと?」
「それは何とも言えません。彼とは数年は会ってはいませんから、今がどうなっているかは……」
「そうか……」
やはり気になるのはそこですね。
私としても、グランドマスターを信用なんてしていません。
「そう言えば、スミスさんという方はどんな人物なんですか?」
「そうだなぁ……。一言でいえば変人だな。鉱石が大好きで大好きで仕方ないといった奴だった」
「はぁ……?」
「オリハルコンやミスリルの様な希少な鉱石をこよなく愛す鍛冶師だ。今回もヒヒイロカネを弄れると聞けば喜んで盾を作ってくれると思っている」
「いえ……」
はて?
スミスさんをの事を説明してくれるグローリアさんを見て、イラージュさんが少しだけ嫌そうな顔をしています。
どうしたのでしょう?
あ、どうした、といえば、一緒に連れてきたヘクセさんが全く動きません。
グローリアさんもさっきからヘクセさんの様子が気になるみたいで、チラチラとみています。
「ところでだ。今日はどうしてヘクセ嬢まで連れてきたんだ?」
「はい。指名依頼の事を話したら、知らないと言っていましたので」
「そうだな。ヒヒイロカネの盾が出来てから、ヘクセ嬢の父親には言おうと思っていたんだ。ヘクセ嬢」
「ひゃい!!」
急に声をかけられたヘクセさんは飛び跳ねるように返事をします。
その様子を見たグローリアさんは苦笑しています。
「ははは。別に俺が狂皇と呼ばれていても、取って喰おうなんて思っちゃいないよ」
「へ? グローリアさんは人間を食べるんですか? 驚きです」
「喰わねぇよ! 物の例えだ!!」
「食べないんですか? 紛らわしいです」
全く。
取って食おうなんて言うから、人間が大好きだと思ったじゃないですか。
もし本当に食べているのなら、盗賊でも狩ってきて差入れにしようと思っていましたのに。
残念です。
「おい。その顔はまた妙な事を考えている顔だな」
「はい? 妙とは失敬な。人間がお好きなら、盗賊を差入れしようと思っていただけです。あ、もちろん殺してからですよ」
「アホか!? そんなもん貰ったって、迷惑以外の何物でもねぇよ!!」
まぁ、迷惑なら差入れにしませんけど……。
と、私とグローリアさんのやり取りを見て、ヘクセさんの表情が固まっています。
はて? どうしたのでしょう?
「ヘクセちゃん。戻って来なさい。レティシアちゃんの相手をしている陛下はいつもこんな感じよ。実際の陛下は、狂皇という恐ろしい名前が霞んで見えるくらいお茶目な人なのよ」
「おいおい。俺はこの国の皇王だぞ。お茶目とか言ってんじゃねぇよ」
イラージュ先生の「お茶目」発言にグローリアさんも呆れた顔をしています。
「まぁ、そんなわけだ。ヘクセ嬢も俺への不敬などは気にしなくていい。そんな事を言っていたら、この二人はどうなんだ? ってなっちまうからな」
「そうよ」「そうですね」
「いや、お前ら二人はもう少し俺に敬意を払ってだな……」
グローリアさんがさらに呆れた顔をしてため息を吐きます。
「それで、スミスを大々的に迎え入れるのですか? 正直な話、スミスはそう言うのが嫌いだと……」
「分かっているさ。イラージュ、スミスの城への案内はお前に任せたい。頼めるか?」
「はい。それは問題ありませんが……」
「何かあるのか?」
「いえ、私はあまりスミスと仲良くありませんし、それならば鍛冶ギルドのギルドマスターに話を通した方がいいのでは?」
「それは俺も考えたんだがな……。もうすでにグランドマスターに洩れているから意味はないんだが、あまり、ヒヒイロカネの事を鍛冶ギルドの連中に聞かせたくない」
「なぜですか?」
「イラージュ、グランドマスターがスミスにどこまで詳細を話しているかを聞いているか?」
「私が聞いた話では、ヒヒイロカネの事は話していないと言っていましたね。「希少な鉱石が報酬だとは言った」と言っていましたが」
「希少な鉱石か……」
グローリアさんは少し困った顔をしています。
「どうしたのですか? 報酬の希少な鉱石はヒヒイロカネを渡しておけばいいんじゃないですか?」
「いや、できればそれは避けたい。スミスの鉱石好きの話をさっきしただろう? アイツの事だ。ヒヒイロカネが手に入ったり、ヒヒイロカネを加工できると聞いたら、周りに自慢しかねん」
「そうですね。恐らくグランドマスターもそれがあるから、スミスにヒヒイロカネの事を話さなかったのでしょう」
なるほど。困った人なのですね。
「お前、何を呆れた顔をしているんだ?」
「はて?」
「お前の方がある意味問題なんだぞ?」
「何がですか? 失礼な人ですねぇ」
「ヘクセ嬢とイラージュが着けている腕輪……。ヒヒイロカネだろう? 簡単に創造できるからと言って、ヒヒイロカネを簡単に人に渡すなよ。前に俺が言った事を忘れたのか?」
「はい?」
前に?
そう言えば市場が崩れるとか、何とか言う話を聞きましたねぇ……。
「はぁ……。お前は無自覚だから、スミスよりもタチが悪い。とにかく、ヒヒイロカネの事をあまり広めるなよ」
「はぁ……? まぁ、分かりました」
それはともかく、話を聞く限り、スミスさんという人は面白そうな人です。
「スミスさんが来るのが楽しみですねぇ……」
「いきなり楽しみとか……、お前が問題を起こしそうで怖いわ……」
楽しみだと言ったら、グローリアさんに呆れられました。
なぜでしょう?




