48話 お母さん
今回はヨルムン視点です。
僕の名前はヨルムンガンド。エレン達と一緒に暮らしているんだ。
このヨルムンガンドと言う名前は、伝説の竜神の名前だそうだよ。僕みたいに弱いドラゴンが名乗っていい名前じゃないと思うけど、数百年前に出会った女の子が、強いドラゴンになれるようにと、名付けてくれたんだ。
でも、同じ名前の本物の竜神が一緒に住んでいるから、僕はヨルムンって呼ばれているんだ。
本物のヨルムンガンドと違い、僕は何の役にも立たないけど、エレン達は僕に優しくしてくれるんだ。
実は、僕はエレン達に一つ嘘をついているんだ。
僕の今の姿は幼竜なんだけど、エレン達はこの姿を魔法の効果だと思っているみたいだけど、実は違うんだ。
レティシアと初めて会った時に、【幼竜化】の特殊能力を作ってもらってこうなった事になっているんだけど……。実は、この姿が本当の姿なんだ。
お母さんから、「みためをこわくすればだれもさからわないからもりのみんなをまもりやすい」と教えて貰って、お母さんに変化の魔法をかけて貰っていたんだ。
ま、まぁ……。そのせいで森を追い出されたんだけど……。
だから、【幼竜化】の能力を使わずに元に戻っただけなんだ。
今までいろいろあったけど、今が一番幸せかな。あ、お母さんと暮らした一年も幸せだったけどね。
でも、三日前にレティシアが頭から血を流して帰って来たんだ。
エレンの治療魔法もあまり効果が無かったみたいで、気持ち悪い人に魔法を使わずに傷の治療をしてもらったみたいなんだけど、今も眠っている。
エレンに聞くと、とても強い人と戦ったんだって。
……。
でも、不思議なんだよね。
眠るレティシアを見ていて気付いたんだけど、頭以外は怪我をしていないんだ。しかも、エレンが言うには、頭の怪我は自分の力の反動らしいんだ。
うん?
という事は、強い人と戦ったのに無傷って事?
どっちにしても、早く起きてくれないとエレンもカチュアも元気がないんだよ。レティシア、早く起きないかなぁ~。
エレンといえば、今回、レティシアと戦った強い人のせいで、エレン達が通っていた学校でもいっぱい人が死んだらしくて、エレンがどうにか生き返らせられないかと、気持ちの悪い人と毎日甦生方法を考えているんだよね。
その話を聞いて僕はこう思ってしまったんだ。
「お母さんなら、簡単に助けられるんだろうなぁ……」
エレン達が寝た後に、僕は夜の散歩に出かける。
僕の姿は小さいとはいえドラゴンなので、昼間に散歩に行くと騒ぎになってしまうんだ。だから、こうやって夜に散歩に行く事が多い。
僕は月明かりに照らされたメイン通りをふわふわと飛ぶ。
アレ?
いつもなら、メイン通りは夜でも人が多いのに、今日は人が一人もいないや。なんでだろう?
僕はいっぱい人が死んだ学校へと飛んでいく。
そして、毎日手を合わせるんだ。
昔、お母さんが言っていたけど、こうやって手を合わせて、安らかに眠るように願うと、死んだ人の気持ちが少しだけ楽になると教えてくれた。僕には他にできる事が無いから、こうやって毎日手を合わせるんだ。
「安らかに眠ってください」
さて、帰ろうかな。
僕が帰ろうと、学校に背を向けた時……懐かしい匂いがした。
アレ?
……この匂いは?
僕が振り返ると、そこには僕の体と同じ色の黒紫色の羽を持った人間の女の子が浮いていた。
「あ、あれは!?」
月明かりに照らされた女の子は、両手を空にあげていた。
髪の毛の色まで分からないけど、アレは……間違いない。
僕が女の子に近寄ろうとすると、急に眠くなった……。
いつもなら、まだ眠くない時間なのに……。どうして?
ま、まだ、寝ちゃダメだ。
僕は必死に、女の子の下まで飛ぼうとする。でも、眠気が強すぎてこれ以上飛べない。
僕は羽を動かす事ができなくなり、地面に落下していったんだけど、地面にぶつかる瞬間、僕の体がふわっと浮く。
「……ちゃんが………………けてやる。……………あさん……らな」
「お……お母さん……」
こ、これ以上は……起きていられない……。
僕は、そこで意識を失った……。
僕が目覚めると、お家でエレンと一緒に寝ていた。
アレ?
僕は学校にいたはずなのに。いつ帰って来たんだろう?
僕が訳も分からずキョロキョロしていると、気持ち悪い人が部屋に飛び込んできた。
「エレンちゃん!? 起きて!? 生徒達が一斉に生き返ったわ!?」
「……へ?」
エレンも気持ち悪い人の声でビックリして起きた。でも、何を言われたか理解していないみたい。
意味の分かってないエレンに気持ち悪い人が起こった事を説明している。
「ど、どういう事?」
「エレンちゃんが甦生魔法を使ったわけじゃないのね?」
「う、うん。私では一人しか生き返らせられないし、魂が存在していないと……」
「そ、そうよね……。でも、一体誰が……」
僕はエレンと気持ち悪い人に近付いて行く。
学校の人達が生き返っていたのなら……アレは夢じゃなかったんだ。
「お母さんだよ」
僕は昨日の夜の話をする。
顔はハッキリ見れなかったけど、お母さんが助けてくれたんだ。
お母さんは人間だと思っていたけど、人間じゃなかったのかな?
会いたいなぁ……。
でも……。生きていればきっと、また会えると思う。
その時には、僕も立派なドラゴンになって、お母さんと再会するんだ。




