47話 神殺シ
≪レティシア視点≫
「あははは。随分とお綺麗な顔をしていますねぇ。隠す必要なんてなかったじゃないですかぁ。流石は神と言ったところですかぁ?」
「こ、このクソガキ!!」
おかしいですねぇ……。
もしかしたら、顔に傷でもあると思っていたのですが、随分とお綺麗な顔です。
しかし、グランドマスターと顔が一致していないのであれば、なぜ仮面をつけていたのでしょうか?
とはいえ、今まではベアトリーチェも本気ではありませんでしたでしょうし、これからが本番でしょうか?
「レティシア……。ここまで私を怒らせたのは君が初めてだよ。あわよくば、君も手に入れようと思っていたが、もう必要ない!」
ベアトリーチェの黒い羽が大きく広がりました。
これがベアトリーチェの本気なのでしょうか?
「今度は簡単に避けられると思わない事だ」
ふむ。
またあの魔法ですか。
ベアトリーチェの背後に、さっきの数とは比にならない程の剣が現れます。
「一瞬で、この世から消滅しろ!!」
≪ドゥラーク視点≫
「な、なんだ!? あの数の剣は!?」
ベアトリーチェは先程も同じような魔法を使っていた。数は百本近くあったと思う。
ただ今回は前の数倍の剣が浮いている。
「ま、不味い。あれだけの数なら、流石のレティシアでも!?」
俺が助けに入ろうとすると、エレンに止められる。
「大丈夫だよ。レティは全く焦っていない。ううん。むしろ、楽しんでいる」
「な、なぜ、分かるんだ?」
「私にもよくわからないけど、【鬼神の巫女】として、【鬼神】であるレティの心が通じているんだと思う。事細かく、ハッキリとまでは分かるわけじゃないけど、感情の起伏くらいは分かる。ここにはいないけど、カチュアさんもコレに気付いていると思うよ」
「そ、そうか……」
俺は、エレンの言葉を信じてレティシアとベアトリーチェの戦いを見る。
しかし、どう見たって、絶望的な状況なのに……なぜ、笑う?
「あはははははははははははははは」
戦場にレティシアの笑い声だけが響く。
その時ベアトリーチェが手を前に出した。その瞬間、無数の剣がレティシアを襲う。
どうするんだ!?
そう思っていたのだが、レティシアは自分の剣を投げた。
何をやっているんだ!?
投げられた剣は魔力を発しているのか無数の光の剣を蹴散らせながら、まっずぐとベアトリーチェに飛んでいく。
ただ直線的な攻撃だ。当然、ベアトリーチェに当たるわけもなく、避けられ……!?
な、なぜ、レティシアがベアトリーチェの後ろにいるんだ!?
これにはベアトリーチェも驚いたのか、慌てて振り返っている。しかし、レティシアは自分で投げた剣を持ち、ベアトリーチェに振り下ろす。
「がっ!?」
当たった!?
殴られた事で、ベアトリーチェは地面に落下していく。しかし、レティシアが羽を掴み落下を防いだ。
ちょっと待て。
どうして、レティシアの奴は空中に浮いているんだ?
「えい!!」
「ぎゃあああああ!!」
は、羽を引き千切りやがった。
浮いている事もそうだが、そもそも、どうして攻撃が当たるようになったんだ?
「レティは【破壊】を使ったよ」
「!?」
そ、そうか。
あの攻撃が透けていたのは、特殊能力だったのか!?
俺は驚きつつレティシアとベアトリーチェの戦いをジッと見る。そんな時、ヨルムンガンドが震える声でこう言ってきた。
「ドゥラーク。我はレティシアの味方で良かったと思う」
「なに?」
「あのレティシアを見ろ。アレに勝てると思うか?」
「少なくとも俺には勝てねぇな。いや、この世の誰がアレに勝てると思うんだ? エレン。あれが、【鬼神】の力と言っていたが……本当か?」
「うん。レティがあの力を使ってから、私も力があふれてくるんだ。多分だけど、カチュアさんも一緒だと思う。詳しくは分からないけど、【鬼神】の力を使うと、密接な関係のある【鬼神の巫女】【鬼神騎士】の力も増すんだと思う」
「という事は、ベアトリーチェがお前を手に入れても、意味がないんじゃないのか?」
「多分そうだと思う。でも、私達自身もこの力については良く分からないから、確実に意味がないとも言えない」
なるほどな。
レティシアの話では、グランドマスターやアブゾル、それに今戦っているベアトリーチェも【神の巫女】であるエレンを欲しがっていた。
リディアの様な【神の眼】を持たない限り、エレン達の本当のクラスは神共には露呈する事は無い。
そもそもだ。
ベアトリーチェの力は絶大だ。
もっと早くにエレンを手に入れようとしていたなら動けたはずだ。
俺達はグランドマスターやアブゾルを警戒していたんだからな。
それを考えたら、ベアトリーチェは本当にエレンを手に入れようとしていたのか?
その辺りの事を聞いてみたいが、もう聞けないだろう。
レティシアが、ベアトリーチェの腹を突き刺し地面に落ちてきた。
ベアトリーチェも、もう虫の息に見える……。
「あはははは。そろそろ、限界が近いですから、貴女を殺しましょう」
レティシア!?
なぜ限界が近い事を口にする!?
ベアトリーチェが逃げ切る力……。いや、まだ力を隠していたら!?
まさかと思うが……逃げる事を想定しているのか?
俺はそう思ったのだが、ベアトリーチェは震える手をレティシアに向ける。
まだ、戦おうとしているのか?
本当に、もう何もできないから、せめて一矢でもと思ったのか?
しかし、レティシアがそれを許さない。
ナイフを取り出し、ベアトリーチェの手首を斬り落とした。
「あ……が……が……」
「あはははは。傷付けられすぎて、頭が狂ってしまいましたか!?」
レティシアはベアトリーチェの腹部に突き刺さった剣を一度抜き、胴を斬るように叩きつける。
あれだけの重みのある剣だ。例え斬る為の刃がなくとも、胴くらいは真っ二つにする事はできるだろう。
レティシアはベアトリーチェの頭を鷲掴みにする。そして、持ち上げた。
「さぁ、終わりにしましょう。貴女の存在を【破壊】します」
「あ……あ……」
レティシアは、ベアトリーチェを燃やし尽くした。と同時に、燃えカスが光となって霧散する。
アレは【破壊】だったのか?
≪レティシア視点≫
【破壊】が成功しましたか……。
生物には【破壊】は成功しないはずなのですが、もしかしたら、神というのは特殊能力と同じ存在なのでしょうか? ……。いえ、もしかしたら……。
「これが本体ではないかもしれませんね……」
そもそも、神と言うには弱すぎます。
正直な話、中途半端な魔神だったジゼルの方がまだ歯応えがありましたよ。
確かに、今の私には、この変な力がありますから、あの時よりも強くなっていますが、それでも腑に落ちません。
ぶしゃぁああああああ!!
あ。
頭から血が噴き出しました。限界がきてしまったようです。
うぅ……。眠いです。目を開けていられません……。
私が地面に倒れ込みそうになったら、誰かが私を支えてくれました。
誰でしょう?
私は薄目で誰が助けてくれたかを見ます。
「おい! レティシア!?」
ドゥラークさんです……。
エレンもいます……。
ベアトリーチェは倒しましたし……、とりあえず、眠っても大丈夫なはずです……。
おやすみ……なさい……。




