46話 仮面の下
「ぐはぁ!?」
ベアトリーチェの生み出した光の剣は、術者の体を貫き、当初の目標である私に襲いかかって来ます。
……まぁ、所詮は直線攻撃なので当たる事はありませんけど、なぜベアトリーチェは避けられなかったのですかね?
私はボロボロになったベアトリーチェを見ます。
ふむ。
まだ、一度目なので五体満足みたいですが……腕は折れていますかね。
ベアトリーチェは私を睨みつけています。
いいのですか? 光の剣はまだ消えていませんよ。
光の剣は、相変わらず私めがけて襲いかかって来ます。
まぁ、何度襲ってきても一緒ですよ。私は再び、ベアトリーチェの背後に立ち、背中を蹴ります。
「な!?」
私に蹴られて、ベアトリーチェは驚いているみたいですが、一度で済むわけないでしょう?
「ぎゃああああ!!」
ベアトリーチェは再び光の剣にくし刺しにされます。
でも、まだまだ終わりませんよぉー!!
私は何度も何度もベアトリーチェの背後に回っては光の剣に向かって蹴り飛ばします。
それを十回ほど繰り返した結果、右腕と右足が無くなり、腹部に大きな穴をあけたベアトリーチェが浮いていました。あ、羽はとっくに穴だらけですよ。
しかし、不思議な事もあるモノです。体もボロボロなのに、仮面には傷がついていません。
そもそも、なぜ外れないんですかねぇ……。
ふーむ。
私はベアトリーチェに掴みかかろうとしたが、身体をすり抜けてしまいました。光の剣が無くなったからでしょうか?
うーん。ずるっこいです。
「く、クソっ。人間風情が私の体を傷付けるとは……」
ベアトリーチェの体が修復されていきます。これが、超回復ですか?
そう思っていたのですが、魔力の流れを感じたので、ゴスペルヒールを使ったのでしょう。聖女が使えるのであれば、神が使えてもおかしくありません。
しかし、厄介ですね。
攻撃時にこちらの攻撃が通用する事は分かりましたが、こちらが気付いているのに、気付かれているでしょう。
これでベアトリーチェは迂闊に攻撃してこないかもしれません。
では、どうしましょう?
最初は神だから攻撃が当たらないと思っていましたが、ちゃんと実態がある事は確認しました。
それなのに、すり抜けるという事は……。
私はベアトリーチェの能力を視ます。
神の能力を視れるかは分かりませんが、試してみる価値があるでしょう。
「!?」
霞ががったように視えくなってしまいました。
それに気づいたベアトリーチェの口角が吊り上がります。
「何を視ようとしているのかな? まさかと思うけど、神の能力を視れるとでも思ったかい?」
「はい。視えると思っていましたが、視えませんねぇ」
これは嘘です。
確かに、今は視えませんが、一瞬だけいくつかの能力が視えました。
そのうちの一つに気になるものがありましたね。
【攻撃透過】
これは、攻撃を透過するという事でしょう。これを破壊すれば、ベアトリーチェに攻撃を当てる事ができるという事です。
しかし、気になる事もあります。
それは攻撃の時には、この特殊能力の効果が無くなっている事です。
私もそうですけど、【身体超強化】以外の特殊能力を同時に使う事は可能です。
ベアトリーチェもこの特殊能力を使いながら、攻撃をしてくれば、私を簡単に倒せたはずです。
それに、もう一つ気になる事があります。
先程、ベアトリーチェは私の剣を受け止めましたよね。しかし、ベアトリーチェは攻撃してきませんでした。
正直な話、あの一撃は当たる訳が無いと思って攻撃したのは確かです……。
……!?
もしかして……。
私は気になる事を試す為に、ゆっくりとベアトリーチェに近付きます。ベアトリーチェは攻撃が効かないと思っているのか動こうともしません。
神というのは、人間を馬鹿にしていちいち油断するのですね。それが全ての間違いです。
私は剣を収めて、ベアトリーチェの首に手を回します。
「抱擁かい? 君は見た目が可愛らしいが、性格が腐りきっているからね。あまり嬉しくはないなぁ……」
「そうですか? 私としては自称神様に抱きつけるのですから、面白いですよ?」
「ふん。君が何を考えているかは知らないが、離れてくれないかい?」
「嫌です」
ここで首を絞めようとしたら、多分すり抜けるのでしょう。私はベアトリーチェの後頭部にそっと手を置きます。
「何をするつもりだい?」
「え? 分かっているでしょう? もう、目安はついていますよ。【破壊】!!」
「なっ!?」
これさえ破壊できれば、ベアトリーチェに攻撃を与える事ができるはずです。
「馬鹿め! たかが人間のお前に神の能力を破壊できるわけがないだろう!?」
「はて? 私は【神殺し】ですよ。神の天敵ですよ。だから【神殺し】の【破壊】の力で充分に破壊できると思っています」
「や、止めろ……」
「いっやで~す」
もしかしたら、魔力を込めた瞬間、すり抜けるかもしれません。そうなってしまえば、もうチャンスはないでしょう。
一回限りです。私は魔力を込めます。すると、ベアトリーチェの中で何かが割れる音がしました。
「な!?」
私はベアトリーチェの腹部を蹴り離れ、ファフニールを取り出し、ベアトリーチェの頭に振り下ろします。
「くそっ。なめるな!」
ベアトリーチェはファフニールの刃先を掴みます。
「やや? まさか、今のを反応されると思いませんでしたよ。でも……」
この程度で済ますとも?
私はもう一度ベアトリーチェの腹部を蹴りつけます。
「ぐっ……」
ベアトリーチェは剣を離します。その瞬間、私はベアトリーチェを剣で薙ぎ払います。
「がっ!?」
「【攻撃透過】が無くなったら、ちゃんと攻撃が当たるようになりましたね。さて、今からが戦闘の始まりですよ」
「くっ!? 舐めるなよ、人間風情が!!」
ベアトリーチェの羽が銀色から黒く染まります。魔力も荒ぶっています。これが神の本気ですか?
楽しくなってきました。
「キサマは血の一滴すらこの世に残さん!!」
「あはははは。ここからが一番楽しいんですよ!! いきますよ!!」
私はあの力を発動させました。
≪ドゥラーク視点≫
レティシアがとても楽しそうにしている。
目が金色に変わり、そして黒い魔力を放ち始めた。
「レティシアの奴、あの力を使い始めたな」
「あ、あれが?」
「……」
ヨルムンガンドはレティシアの変化に驚いているが、エレンは、レティシアの変化に驚いていない。どういう事だ?
「エレン、お前はレティシアの変化に驚かないのか?」
「そうか。ようやく理解したよ。あれが【鬼神】なんだ」
「なに!?」
エレンは何を言っているんだ?
【鬼神】……。確か、リディアが「【神殺し】の横に【鬼神】って書いてあるよ」と言っていた。
まさか、あの力の正体が【鬼神】の力とは思わなかった。
……。
ちょっと待てよ……。
という事は、レティシアも神の類なのか!?
俺は、レティシアの動きを目で追う。しかし、レティシアの動きが更に速くなる事で、目で追えなくなった……。
しかし、レティシアがベアトリーチェを攻撃しているのは確かだ。ベアトリーチェは、黒い魔力の剣を取り出し、何かを防いでいる。
一瞬、火花が出ていたから、レティシアが攻撃しているんだろう。
ベアトリーチェもレティシアの攻撃に対応できないのか、攻撃できずに防戦一方のようだ。
「く、クソっ!? に、人間風情がぁあああああ!!」
「うるさいですねぇ!!」
レティシアの剣がベアトリーチェの仮面に振り下ろされる。
パキィ!!
今のは!?
まさか、レティシアの奴、執拗に頭を狙っていると思っていたが、まさか仮面を割ろうとしていたのか!?
ベアトリーチェの仮面が粉々に割れる。
その仮面の下は目鼻の整った……、この世のものとは思えないほどの美しい顔だった。
あ、あれが女神か……。




