45話 神との戦い
≪ドゥラーク視点≫
戦いが始まった当初は、レティシアの事だから神が相手でも簡単に勝つモノだと思っていた。
レティシアは、別に相手を見くびっているわけでも、手を抜いているわけではない。その証拠に【身体超強化】で自身を強化している。
どうやら、アイツの【身体超強化】は強化する場所を任意に決められるみたいだ。
だが、ベアトリーチェには通用していない。
単純に避けられているだけなら、問題ないのだが、何度か目の錯覚かと思ったが、攻撃がベアトリーチェをすり抜けていた。
「最初の威勢はどうしたんだい? 私にはまったく攻撃が当たっていないようだが?」
「そうみたいですね」
おそらく、レティシアも攻撃がすり抜けているのに気付いているだろう……。
まぁ、アイツの事だ。対策を考えているだろう。
しかし……。
さっきから気になっているのだが、なぜ、ベアトリーチェは攻撃してこないんだ?
まさかと思うが……。
最悪の想定をしていると、ヨルムンガンドが俺のズボンの裾に喰いついて引っ張ってくる。
「ドゥラーク。レティシアが危険になったら、我がベアトリーチェを押さえる。その隙に、逃げ切れ」
「どういう事だ?」
「神といえど、攻撃が透過するとは思えない。もしかしたら本体はここにいないのかもしれない」
「あぁ。俺もその可能性が高いと思う。そもそも、ベアトリーチェは攻撃してきていない」
「あぁ。考えられるのは、あそこにいるベアトリーチェは虚像かもしれない」
「虚像だと? それはあり得なくないか? 仮に虚像だとして、俺達が気付かないのはあり得るが、あのレティシアが気付かない事があり得るのか?」
「確かにな。我も自分で言っていて、あり得ないと思う。お。おい!? アレを見ろ!」
ベアトリーチェを見ると、レティシアの剣を掴んでいた。
これで確定してしまった。アレは虚像じゃない。
じゃあ、なぜレティシアの攻撃がすり抜けたんだ?
「ヨルムンガンド! ベアトリーチェは虚像じゃない!? 助けに入るぞ!!」
「あぁ!」
俺達がレティシアを助けようとすると、エレンが俺達の前に立ちはだかった。
今のままではレティシアが危ないのに、何故エレンが止めるんだ!?
「エレン!? ベアトリーチェを相手にするべきじゃなかった! そこをどけ!!」
「ダメ!! レティがドゥラークさんを温存しているのは、あの力を使った時の為のはずなんだよ!!」
「なに!?」
確かにレティシアがあの力を使えば、力の反動でアイツは倒れる。それを俺が助けるしかなくなる。
だが、ベアトリーチェが本物の神ならば、俺達を殺してエレンを手に入れる事は可能だろう。
「エレン!!」
「大丈夫。レティは全く焦っていない」
「なに!?」
俺はレティシアの顔を見る。
…………。
わ、笑っている?
≪レティシア視点≫
あぁ、ダメです。
ついつい笑みがこぼれてしまいます。
確かに攻撃がすり抜けるのはそこそこムカつきますが、剣を掴まれている今となっては、実体がないわけではなさそうなので、どうとでもなりそうです。
「くくくっ。攻撃も当たらないというのに、随分と余裕だね。頼みの綱の【身体超強化】も役には立っていない。それなのにその余裕は何だい?」
「あぁ……。貴女に攻撃が当たらない理由を考えていたんですよ」
「あはははは。別に考えなくていいよ。簡単な話だ」
「はい?」
「君と私では、生物としての次元が違うのだよ。私は神、君は人間。その差だよ」
ベアトリーチェは私を剣ごと遠くに投げます。凄い力ですね。
でも、その程度で私は諦めませんよ。
私は魔力で空中に足場を作り、それに踏み込んでベアトリーチェに斬りかかります。
ベアトリーチェも私が空中で動けないと思ったらしく、私の反撃に少し驚いているみたいです。
これでダメージが与えられますかね?
私はファフニールを振り抜きますが、ベアトリーチェの体をすり抜けてしまいました。
……やはり攻撃がすり抜けましたか。
「無駄だと言っただろう? 君が人間である以上、神に攻撃は通用しない」
「……」
通用しないわけではなさそうですが、今のままでは攻撃は当たりません。
もしかして、神の発する魔力で防いでいるのでしょうか?
いえ、防がれているのではなく、すり抜けているのには意味があるかもしれません。
一瞬だけ、ベアトリーチェの言う通り、神に攻撃が効かないのか? とも思いましたが、微かとはいえ、同じ魔力を発していた魔神ジゼルには攻撃が通用しましたよ。
ベアトリーチェとジゼル。この二人の違いは何でしょう?
「君が何を考えているかは知らないが、私から攻撃させてもらおう」
ベアトリーチェは手を上げます。するとベアトリーチェの背後に光の剣が十本現れました。
「喰らえ。シャインブレード!!」
光の剣が私に襲い掛かります。
ただ、直線的な軌道なので避けるのはたやすいです。
「この哀れな攻撃はなんですか? こんな直線的、しかも遅い攻撃当たるわけないじゃないですか」
「ふふふ。普通の人間には避けられないと思っていたんだがね。なかなかやるようだ……」
「随分と余裕ですね」
私は十本すべてを避けた後、ベアトリーチェに攻撃をしに行きますが、悪寒を感じましたので後ろを振り向きます。
すると十本の剣が私に再び襲いかかって来ました。
「あははは。随分と余裕ぶっているけど避けられるかな?」
そうですか。
私を追いかけてくるのですね。
私は、光魔法で剣を撃ち抜きます。
すると剣は光となって霧散しました。
どうやら、この魔法を破壊する事は可能みたいですね。
私はヒカリの剣を全て光魔法で撃ち抜きます。
「消えましたよ」
「へぇ、なかなかやるじゃないか。私の魔法には、神の力を混ぜているから、そう簡単には破壊出来ないと思ったんだがね」
「そうですか? わりと簡単に消せましたよ」
今は光魔法で消しましたけど、ファフニールに【破壊】の力を乗せても、今の攻撃を消せるでしょう。
しかし……、今の攻撃ですが……、あの魔法を使った時のベアトリーチェに少し違和感を覚えました。
まさかと思いますが……。
「まぁ、こちらの攻撃が通用しないのであれば、少し困りましたね。今の攻撃も追尾してくるとはビックリしましたし。まぁ、十本程度ならたいした事じゃありません。これが十倍ならばキツイかもしれません」
「あははは。まるで百本撃って来いと言わんばかりだね。何を考えているかは分からないけど、その挑発に乗ってみようかな?」
ベアトリーチェの背後に多数の剣が浮かび上がっています。
「さぁ、お望み通りの百本だよ。逃げ切れるかな?」
ベアトリーチェが手をかざすと、一斉に百本の剣が襲いかかります。
相も変わらずの直線攻撃ですが、流石に百本程度なら避けるのは簡単です。
でも、私が狙っているのは……。
今です!!
私は一瞬でベアトリーチェの背後に回り、剣を振り下ろします。
「がっ!?」
私はベアトリーチェの後頭部に剣を叩きつける事に成功しました。やはり、攻撃に転じている時は、攻撃が当たるんですね。読み通りです。
あとは私を追ってきた剣に自ら串刺しにされてください。
私はベアトリーチェの背中を思いっきり蹴ります。
ベアトリーチェの体は無数の光の剣に襲われてしまいました。




