42話 暴虐
グラヴィの漆黒の龍鱗は本当に厄介ですが、ダメージが完全に無いわけではなさそうです。
ベアトリーチェが超回復があると言っていましたから、グラヴィの特殊能力を探ってみましたが、【超速自然回復】というのがありますから、それがそうでしょう。
しかし……。
何か中途半端な能力ですね。
【超速回復】なら戦闘に有利なのは分かります。しかし、自然とついているのでそこまで即効性のある回復ではないようです。
現に、最初に砕いたグラヴィの足の骨は時間が経ってようやく回復したみたいで、よろよろと立ち上がり、私を睨みつけ咆哮します。
ふむ。
咆哮をする暇があるのなら、さっさと攻撃してきた方がいいですよ。
私はグラヴィの顔に近付き、ファフニールで頬を殴ります。
やはり、斬る事も砕く事もできません。しかし、殴った場龍鱗は多少は変形している様です。
ふむ。
変形しているという事は……。
私は殴った龍鱗を注視します。
グラヴィは私が動かなくなったので爪で攻撃してきました。
さて、問題です。
グラヴィの全身は硬い龍鱗で覆われています。しかし、爪はどうでしょう?
私の武器はヒヒイロカネのいわば鈍器。相手はただの爪。
答えは……。
「ぎゃあああああ!!」
当然のように、爪は粉々に砕け散ります。
ベアトリーチェはこの結果に驚いているようですが、どうでもいいです。私が気になるのは……。
ふむ。
間違いなく、変形した龍鱗の傍には隙間がありますね。
そうと分かれば、私のやる事は一つです。
私はグラヴィの背後に回り、背中を殴り始めます。
ガン!! ガン!! ガン!!
鈍い音が何度も響きますが、殴っても肉体にはダメージがあるようには思えません。でも、間違いなく龍鱗は歪んでいます。
そうです。
歪むという事は、隙間があるという事です。
つまりは……。
私はその隙間に手を入れて、一気に龍鱗を引き剥がします。
バリィ!! という音と共に、一枚の龍鱗が宙を舞います。
あははは。
確かに龍鱗は硬いですが、剥がすだけならば、そんなに力はいりませんね。
「ガァアアアアア!!」
グラヴィは私に食いつこうと大きな口を開いて襲ってきます。
口の中には立派な牙が敷き詰められるように生えています。しかし、爪と同じ素材なので砕くのは簡単です。
私は、グラヴィの口の中の下顎にファフニールを振り下ろします。
すると、下顎に生えていた牙が一気に砕け散ります。
牙だけではダメですね。ついでに顎の骨も砕いておきましょう。
私は何度も下顎を殴り続けた結果、グラヴィの巨躯は地面に叩きつけられます。
はい。
私が龍鱗をはがしたおかげで無防備な背中ががら空きですよ。
私は龍鱗の無い部分にファフニールを突き刺します。
「ぎゃあああああああ!!」
どうやらお肉は普通の様ですね。
となれば、私のする事は決まりました。
さて、何も身体強化をしていない状態でこれですから、私が【身体超強化】を使えばどうなりますかねぇ……。
実は私も作っていたんですよ。
今までは、【身体超強化】がなくとも、敵を壊せましたけど、今回のグラヴィの龍鱗は正直厄介です。
だからこそ、私自身のパワーアップが必要になりました。
あの力が使いこなせれば、特殊能力を使わなくてもいいのですが、今の私には、アレは使いこなせません。
だから、この特殊能力で代理です。
私の【身体超強化・剛】は単純に力を十倍にまで強化します。
ドゥラークさんの第四段階よりは劣りますが、それでもグラヴィの鱗を叩きつけるには丁度いいです。
≪ドゥラーク視点≫
「ま、マジかよ……」
「どうしたの?」
「レティシアの奴、【身体超強化】を使いやがった」
いや……。
俺が言っている事がおかしいのか?
確かにレティシアは、俺達に【超強化】系統の特殊能力を作った。
だから、アイツも自分用に作っていてもおかしくはない。
しかしだ……。
目の前の戦闘はどういう事だ?
レティシアが【身体超強化】を使い、グラヴィってやつを攻撃した結果、宙に舞う無数の龍鱗。
最初の一枚は、確かに引き千切っていた。
しかし、今はレティシアがグラヴィを殴る度に龍鱗が飛び散っている。
打撃の威力が高すぎて、弾け飛んでしまっているのか!?
グラヴィは漆黒の龍鱗に包まれていた最初の姿とは違い、いまではところどころに皮膚がむき出しになっている。そこからは血も流れている場所もある。
しかも、爪は全て砕かれ、羽は引き千切られ、顎は砕かれ……。もう、瀕死にしか見えない。
「な、なぜだ!? 超回復はどうしたのだ!? それに、グラヴィは伝説の滅竜ヨルムンガンドだぞ!?」
ベアトリーチェも目の前の惨状が信じられないみたいだ。
そりゃそうだろう。
自分が作り出したドラゴンが、こうもアッサリと殺されかけているんだ。
認めたくはないのだろう……。
「く、クソっ。グラヴィ、死んでいる生徒を喰らえ!! 血肉がお前の力になる!!」
な!?
確かに生徒の死体がそこら中に散らばっている。
死んでいるとはいえ、死体を喰うだと!?
グラヴィは、レティシアの攻撃を避けて周りの人間を喰い始める。
止められるか!?
レティシアも止めようと、グラヴィを殴っているがグラヴィは喰うのを止めない。
暫く人間を喰い散らかしたグラヴィの姿が、黒く光る。
な、何があった!?
レティシアも危険を察知したのか、少しグラヴィから離れた。
グラヴィの巨躯がだんだんと小さくなる。
そして光が止むと、そこには人間サイズに縮んだ竜人の姿をしたグラヴィが立っていた。
「くははははは。いい気分だ!! レティシア、決着を付けよう!!」
「はぁ?」
自我が戻っている?
それに、ここから感じる限り、グラヴィの魔力がさらに高まった。なのに、なぜかレティシアは面白くなさそうだな……。
なぜだ?




