37話 ファフニール
はて……。
ここはどこでしょう?
私は、家で寝ていたはずです……。
(こんな武骨な姿は私には相応しくない……。滅竜と呼ばれた私に相応しい形に進化を……)
滅竜?
その名前は最近聞いた事があります。
誰ですか?
(私の名は…………)
はて?
聞こえませんねぇ……。
一瞬、ヨルムンガンドの出来損ないみたいなのが見えた気がします。
「ん……」
私は夜中に目覚めます。
はて?
今の夢は何でしょう?
あのヨルムンガンドみたいなのは何だったのでしょう?
……進化と言っていましたけど、いちいち夢にまで出てきてまで進化をする宣言しないでください。
いえ、ちょっと待ってください。
滅竜とか言っていましたね……。
もしかして、アレがファフニールだったのですか? 確かに、ヨルムンガンドに似ていましたね……。
まぁ、夢ですからどうでもいいんですけど……。
私の両隣ではエレンとカチュアさんが寝ています。
起こすといけませんね……。私ももう一度寝ましょう。
次の日、目を覚ますとカチュアさんはすでに起きている様でした。エレンは朝が弱いのでまだ寝ています。
さて、私も起きて朝の体操をしましょう。新しい武器の扱い方も覚えておかなくてはいけません。
しかし、私の棍棒が見当たりません。
「はて? 私の棍棒はどこでしょう?」
確かに机の横に立てかけておいたのですが……。あの真っ赤で七色に輝くぶっとい棍棒は結構気に入っていたのですが、どこに消えたのでしょう?
いえ、棍棒の代わりに別の武器が置いてありました。これは剣でしょうか?
ふむ……。しかし、この剣は私よりも大きいじゃないですか。いえ、ただのロングソードでも私よりは大きいのですが、どう考えても身長の高いドゥラークさんよりも大きいです。
それに……。この刀身もおかしいです。
「随分と分厚い刀身ですねぇ……。申し訳程度に刃もありますが、これは斬れるのでしょうか? とてもじゃないですが、斬る為の剣と思えません。もしかして、剣の形をした打撃武器なのでしょうか?」
私は置いてあった剣のようなモノを持ち上げます。
「ふむ。このズッシリとした重さ、敵を潰すのに最適かもしれません。それに刀身が赤黒くてかっこいいです」
私の作った武器は進化するとアレスさんが言っていましたね。もしかしなくても、私の棍棒が進化した姿なのでしょうか? いえ、そうですね。
しかし、あまりにも長い柄ですねぇ……。とても使いにくそうです。
そう考えていたら、長かった柄が普通の剣と同じくらいに縮みました。ふむ。これで剣の大きさが私の身長と同じくらいになりました。
「私の思い通りに形が変わりましたね。素晴らしいです。私に相応しい武器に名前を付けなくてはいけません……。何にしましょうか?」
この武器に相応しい武器の名は……。
(ファフニール……)
ふむ。
そう名付けて欲しいのですか?
しかし、その名は滅竜……。
夢……。
「どういう意図かは知りませんが、分かりました。今日からこの剣の名はファフニールです」
(ありがとう……。心が消える前に、貴女に創造してもらってよかった……)
はて?
(私の名を……いえ、名前はヨルムンガンドだけど……。私の姿と力を手に入れようとしているあの男を……)
それはグラヴィの事ですかね?
(声をかけてきた? 聞こえるの?)
はい。
(そう、バハムートが驚くわけね……。まぁ、良いわ。それよりも、お願いね……。私の自我は消えるけど……。私の本当の名を持つその武器で……私の偽物であり、私を模して造られたあの男を殺して)
ふむ。
良く分かりませんが分かりました。
(もう消えるわ……。最期に一つお願いを聞いてくれない?)
なんですか?
(ヨルムンガンドとバハムート、それにティアマトに謝っておいて……そして……こう伝えて欲しいの……)
はて?
バハムートというのは毛玉の事ですよね……。
ヨルムンガンドと毛玉はともかく、ティアマトという知り合いはいないですが?
(いるわよ……。無骨だけど心優しい彼が……。あの頃のティアマトの生き写しの様な……彼が……)
はて?
ティアマトに憧れていたのなら、あの人でしょうか?
(えぇ……。彼よ……。じゃあ、もうお別れね……その前に……)
分かりました。絶対に伝えます。
最後に私からも二つほど、聞いていいですか?
(何かしら?)
貴女は女性だったのですか? なぜ世界を滅ぼそうとしたのですか?
(ふふふっ。私が女だという事は誰も知らないわ。あの時は自我というモノをほとんど持っていなかったからね)
そうなのですか?
(そうよ……。じゃあ、さようなら。私の名を持つ武器を大事にしてね……)
はい。
ふむ……。不思議な声の持ち主の存在を感じなくなってしまいました。
ただ、目の前にあるファフニールの刀身が赤く鈍く輝きます。
持ち上げてみると、非常に軽いです。いえ、私だけが持てるのでしょうか?
不思議な感覚ですね。長年使ってきたみたいに馴染みます。
「これから、よろしくお願いしますね……」
私は起きてきたエレンに毛玉とヨルムンガンドをテーブルの上に置いて貰います。
そして、ファフニールを目の前に置きます。
『どうした? お前が私を呼び出すとは珍しいな』
「ふむ。我は朝ごはんを食べるのに忙しいのだが……」
「黙って話を聞きなさい。この武器をどう思いますか?」
『この武器……。ヒヒイロカネか?』
「ふむ。本物のヒヒイロカネよりも強度がありそうだな……。これを自慢したかったのか?」
「違います。この子の名はファフニール。私の新たな武器です」
この子の名を呼ぶと二匹は驚きます。
『なぜ、その名を付けた?』
「それが彼女の意志だったからです。自分の名を持つ武器で自分の姿形と力を持つ男を殺して欲しいと」
私はファフニールと会話した事を説明します。最初は二匹とも信じてくれませんでしたが、軽く脅したら信じてくれました。
まぁ、ファフニールの最期のお願いだけは聞いてあげます。
「二人に伝言です。貴方達に謝っておいてくれと頼まれました。まぁ、謝ったところで納得はしないでしょうが、納得してください。彼女はもう消えましたから」
二匹はそれを聞いて、複雑そうな顔をしていました……。
まぁ、複雑なのは理解できます。
「いや……。アイツ、雌だったのかよ……」
ヨルムンガンドは別の意味で驚愕していたみたいですね……。




