35話 創世のお話2
いくら他の竜よりも強いとはいえ、四匹を相手にするのは分が悪く、追い詰められたファフニールは、この世界を滅ぼそうと【破壊】の力を使い始めました。
戦竜ティアマトと魔法竜ジルニトラは、暴走するファフニールを止めるために懸命に戦い、命を落としました。
そして、ファフニールが弱ったところを、聖竜バハムートと闇竜ヨルムンガンドの二匹がファフニールにとどめを刺しました。
ファフニールを討伐したまでは良かったのですが、滅竜と呼ばれるドラゴンが暴れた傷跡は酷いモノで、これから先、生物が生きていけない程、滅竜の呪いにより汚染されていました。
慈竜アマテラスはこれに困りましたが、水神竜リヴァイアサンが生命力を使い、呪いを浄化しました。
その後、慈竜アマテラスは自分の力を使い、世界に生命力を注ぎ、死んだ二匹の竜、それに瀕死のリヴァイアサン、そして、自分自身の命を使い、生物を誕生させました。
「つまりは、この世界の生けとし生けるものは、全て四匹の竜の因子を持って生まれているという事だ」
なるほど。
つまり、【破壊】の力を持つグラヴィは、ファフニールの生まれ変わりという事ですね……。
ふむ。
それは厄介なのでしょうか?
「ちょっと待って!? 私の知っている歴史と違うわ。神アブゾルは関係ないの?」
イラージュ先生は道具袋から一冊の本を取り出し、開きます。その本には、世界の創世について書かれていました。
「見て。この本には、竜神アマテラスと神アブゾルが協力して世界を作り上げたと書かれているわ」
ふむ。
確かにこの本にはそう書かれていますね。
「なに? 神アブゾル? 神アブゾルとは何者だ?」
はて?
ヨルムンガンドはアブゾルの事を知らないのですか?
「知らないんですか?」
「あぁ。知らん」
竜神であるヨルムンガンドが神を知らないのは、おかしいですよね。
『ヨルムンガンドが知らんのも無理はないな。アマテラス様の世界の創世の後、こいつはこの世界とは不干渉だったからな』
「なに? バハムートはそのアブゾルという神を知っているのか?」
『知っているさ。アブゾルは、私の事を神の文献で知り、挨拶に来たからな』
「え? 毛玉はアブゾルと直接会った事があるのですか!?」
『ん? あぁ、物腰の柔らかい好好爺だったぞ。アマテラス様の所業に涙を流し、世界を守ると誓っていたな』
ふむ。
好好爺という事は、教会に置かれていたのは老人の像でした。
しかし、私が会ったアブゾルは仮面をつけた青年でした。
……。
なるほど。
神ならば、姿形を変えてもおかしくないとはいえ、何か引っかかりますねぇ……。
「しかし、ヨルムンガンドが知らないという事や、毛玉が言う限りでは、イラージュ先生が見せてくれた本もいまいち信憑性がありませんねぇ……。そもそもこの本を書いたのは誰なのでしょうか?」
しかし、この世界の創世の頃から生きているのに、神アブゾルを知らないという事は……。
「もしかしてと思いますけど……」
「なんだ?」
「貴方は偽物のヨルムンガンドなのですか? それならグラヴィがヨルムンガンドの生まれ変わりと言ったのも理解できます」
「いや、理解するな!?」
はて?
ヨルムンガンドは怒っているみたいですね。という事は違いましたか?
「では、グラヴィはなぜ自分をヨルムンガンドと言っていたのですか?」
「……。これは推測でしかないのだが、そのグラヴィという奴は、別の神に作り出されたんじゃないのか?」
確かに、グラヴィはベアトリーチェという神に作られたと言っていましたね。
……。
はて?
「レティシアが言っていた【破壊】の力なのだがな、少なくとも闇竜である我は持っていない。持っていたのは滅竜ファフニールだけだ」
ファフニールと言えば、ヨルムンガンド達が倒した滅竜と言っていましたね。【破壊】を持っているという事は、そのファフニールという竜も【神殺し】だったのでしょうか?
もし、そうならばグラヴィも【神殺し】という事になりますね。
「グラヴィも【神殺し】なら、いつか他の特殊能力を得る可能性もありますね」
「それはない。そのグラヴィという奴が我の生まれ変わりと言っているのなら……、ほぼ間違いないだろうな……」
『……。ははっ。アレか。お前も災難だな。ヨルムンガンド』
「はて? どういう事ですか?」
「あぁ。ほぼ間違いないと思うが、そのグラヴィという男は、我として作られたのではなく、滅竜として作られている」
「はい? それなら、なぜグラヴィは自分がヨルムンガンドと言っていたのですか?」
「我の特徴は、黒い龍鱗、赤い目、巨躯……だ。そして、ファフニールも、黒い龍鱗、赤い目、巨躯……同じなのだ。ただ、我の方がイケメンで翼が生えているというだけだ」
このトカゲは何を言っているのでしょう?
あ、今はただの黒蛇でしたね。
「じょ、冗談だ。だから、そんなに冷たい目で見ないでくれ……」
『グラヴィがヨルムンガンドとファフニールを間違えていたのは、作り出した神が勘違いしていたのだろう。確か、私がアブゾルに見せてもらった神族の文献には、滅竜ヨルムンガンドと書かれていたからな。当然、本来のファフニールには無かった翼がしっかり描かれていたからな』
「な!? なに!? 我がファフニールと勘違いされているのは知っていたが、神の文献が原因だったのか!? お前、それは修正しろと言ってくれたのだろうな!?」
『必要ないだろう? アマテラス様やリヴァイアサン様が世界を作り上げたと書かれるのは分かる。現に、私が見せてもらった神の文献にはそう書いてあった。我等や、滅竜の事など、どうでもいいだろう?』
「どうでもよくねぇよ!?」
ヨルムンガンドは毛玉に必死に抗議していますが、毛玉は呆れた顔をしています。
「それよりも一つ聞いていいかな?」
『エレン、どうした?』
「うん。さっきから聞いていると、まるで神様が複数いるような言い方だけど、前にも聞こうと思ったんだけど、神様はアブゾル様一人だけだよね?」
『あぁ……。その辺りの事を説明していなかったな。神とよばれる者は決して一人じゃない。この世界とは別の世界に神族という種族の人がいる。神とよばれる者達はそこの世界の者だ』
毛玉の話では、神に世界を創世する力はないそうです。
世界を見つけた神族が神として、世界を管理するそうです。
『そもそも、本来は神は余程の世界の危機でない限りは干渉してこないはずだ。あのタロウという男を勇者に仕立てたのも、アブゾルではないかもしれないな』
「そうなのですか?」
『確証はないがな。少なくとも、私が会ったアブゾルがあんな男……いや、今は改心しているんだったか? まぁ、いい。あんな男を勇者にするとは思えないからな』
「それなら、なぜあの時そう言わなかったんですか?」
『まぁ、アブゾルが絡んでいるとは思っていなかったからな。そもそも、アブゾルが干渉してくるとも思っていなかったというのが言わなかった理由だ』
そうですか。
つまりは、あのベアトリーチェという奴がアブゾルを殺し、世界の管理権を手に入れようとしているという事ですね。
ふむ……。
「つまりグラヴィは、ファフニールをヨルムンガンドと勘違いして、その名を付けられたという事ですね。でも、神の文献とやらを読んだベアトリーチェという奴が勘違いしてしまったという事ですね」
『ベアトリーチェ? 誰だ?』
「はい。グラヴィを作ったと思われる神の名です」
そう考えたら、ヨルムンガンドが少し哀れです。
ヨルムンガンドは部屋の隅でいじけています。少しだけ可哀想ですね……。
よし、慰めてあげましょう。
「元々、たいして役に立たなかったのが、その文献のおかげで有名になれたんですよ。良かったですね」
「!?」
ヨルムンガンドはとても驚愕した顔になった後、泣きそうな顔をして、さらに落ち込みました。
アレ?
『ひでぇな……。鬼か……』
「慰めようとしましたが失敗してしまいました。『お前!? アレで慰めてたのか!?』……うるさいです。どちらにしても、グラヴィは世界を滅ぼす力を持っている滅竜として作られたという事ですね」
「恐らくな……。まぁ、正確には、ファフニールを真似て作ったドラゴンだろうな」
ふむ。
どちらにしても、次にグラヴィが現れたら、逃がしません。今度は粉々にしてあげます。
その為に、新しい武器を作らねばいけませんね。
私に相応しい武器を……。




