34話 創世のお話1
「はて? 危険な人がどうして家にいるんですか?」
「あら? お帰りなさい」
私達がエラールセの家に帰ってくると、イラージュ先生と黒蛇、それにヨルムンが仲良くお話をしていました。
「勝手に上がり込んでごめんね。この黒蛇ちゃんが竜神の一匹であるヨルムンガンドだというから、世界の創世の話を聞かせて貰おうと来たんだけど、別の話に花が咲いちゃってね」
「この世界の創世? あ、そう言えば、黒蛇の名前ってヨルムンガンドでしたね」
「そうだが? 我の名がどうした?」
「この前戦った魔王に進化したグラヴィが「自分はヨルムンガンドの生まれ変わり」と言っていたのですが、黒蛇。貴方が偽物なんですか? グラヴィの方がよほど伝説のドラゴンっぽかったですよ? 貴方は弱かったですし……」
「おいおい。話の意味も分からずに、なぜか、物凄く馬鹿にされた気がするのは気のせいか?」
「気のせいではありません。貴方の方が偽物なのですか? って聞いているんですよ」
「偽物かどうか決めつける前に、何があったか詳しく話してくれないか?」
黒蛇は本当に意味が分からないみたいで、困惑していました。これは、どういう事でしょう?
エレンとカチュアさんの二人が作ったご飯を食べてから、私達はグラヴィの事をヨルムンガンドに説明しました。
「なるほど。おおむね理解した……。【破壊】の力ね……」
はて?
もしかして、思い当たる事があるのでしょうか?
「一つずつ説明していこう。ヨルムンガンドは我一匹だ。そして、我は【破壊】の力は使えない。我の力の根源はどちらかというと、大罪の力に近い」
「大罪の力?」
「あぁ。我の真名は【闇の巨竜・ヨルムンガンド】だ。主に闇の力を使う。そして、【破壊】の力を使う竜も確かに最初の七竜の中にいた」
いた?
つまり、今はいないという事ですかね?
「ヨルムンガンドちゃん。この世界を創世した竜神は七匹もいたの?」
「それも正確には違うな。実際この世界を作ったのは、慈竜アマテラスだけだ。我等はアマテラスと共にこの世界には来たが、世界の創世そのものには関わっていない」
「そうなのですか? ならヨルムンガンドはたいした事が無いと?」
「……お前……。いや、お前に何を言っても無駄かもしれん。どうとでも思ってくれ」
はて?
なぜ苦笑されているのでしょうか?
とはいえ、ヨルムンガンドが初めて現れた時、圧倒的な魔力を感じたのも確かです。まぁ、竜神なのは事実なのでしょう。
「そういえば、毛玉も竜神の一匹でしたよね。エレン、呼び出してもらえますか?」
「え? うん」
エレンが手をかざすと、眠そうな毛玉が現れます。
『なんだ? 私は眠いのだが?』
こいつ……。エレンの腰ぎんちゃくの癖に偉そうですねぇ……。
「握り潰して、永遠に眠らせてあげましょうか?」
『いや、それくらいじゃ死なんが……。それよりも、こんな時間にいきなりなんなんだ?』
「バハムート。この凄い女が創世の話を聞きたいらしい。それに、今度のレティシアの敵も我等、竜神に関係があるらしい」
『何? 創世はアマテラス様が命を賭して成された事だろう? 我等がやった事は狂ったファフニールを倒しただけだ』
「ファフニール?」
はて?
初めて聞く名ですね。
そういえば……。
「ヨルムンガンド。竜神は七匹いると聞きましたが、他にはどんなのがいるのですか?」
「ん? まずはそこのケダマの正体が、聖竜バハムート。そして我、闇の巨竜ヨルムンガンド。創世の竜にして、我等の故郷である竜界の王たる慈竜アマテラス。その夫である水神竜リヴァイアサン。護衛竜だった戦竜ティアマト。魔法竜ジルニトラ。最後に滅竜ファフニールの七匹だ」
「ふむ。この中で【破壊】の力を持っているのは、どいつですか?」
『あぁ、滅竜ファフニールが使っていたな。なぜだ?』
「今日戦ったグラヴィという男が、自分をヨルムンガンドの生まれ変わりと名乗りました。その男は【破壊】の力を使っていました」
『なるほどな……。これは確かに創世の話をしておいた方がいいな……。まぁ、全てはただの勘違いなのだがな……』
「そうだな……。本当に、我としては迷惑な話なのだがな」
勘違い?
確かに得体のしれない男に、自分の生まれ変わりと言われれば、迷惑と考えるのも理解できますね。
「貴方も大変ですねぇ……」
「いや、お前が考えているのとは、絶対違うが……。まず、一つずつ説明しておくか。まずは、我の生まれ変わりと言っていたが、我はまだ滅びていない。これに関してはバハムートも同じだ」
バハムートも同じ?
つまりは他の竜は滅びている?
よくよく考えれば、さっき狂ったファフニールを倒した。と言っていましたし、アマテラスという竜も命を賭したと言っていましたから、死んでいるのでしょう。
では……。
「他の竜はどうなのですか?」
「そうだな。今現在も生きているのは、我等二匹だけだ」
ヨルムンガンドの話では、元々この世界には、生物が一匹もいない死の世界だったそうです。
そんな時、魔王竜によって滅ぼされた竜界から、七匹の竜が逃げてきました。
魔王竜との戦いに長い時をかけていた慈竜アマテラスは疲れ果て、この荒廃した世界を平和な世界に変えたいと望みました。
しかし、それを面白く思わない竜がいました。それが滅竜ファフニールだそうです。
元々、滅竜ファフニールは気性が荒く、魔王竜と最後まで戦ったのもファフニールでした。
しかし、魔王竜は底なしの強さで、竜界を犠牲にしないと倒しきれませんでした。
竜界の崩壊と共に魔王竜を倒しはしましたが、ファフニールはそれに納得していませんでした。
ファフニールは慈竜アマテラスの行いに嫌がらせを始めました。
最初は、アマテラスも軽くあしらっていましたが、そのうちファフニールはアマテラスを殺そうとまでしてくるようになりました。
しかし、それを阻んだのが二大巨竜である聖竜バハムートと闇竜ヨルムンガンドでした。
ただ、滅竜ファフニールは他の竜に比べて強すぎました。
魔王竜には勝てなかったかもしれませんが、ファフニールは魔王竜とずっと戦い続けていただけあって、別格の強さだったみたいです。
聖竜バハムートも闇竜ヨルムンガンドは必死にファフニールと戦い続けました。
しかし、徐々にファフニールが二匹を追い詰めていきました。
バハムートとヨルムンガンドの二匹もそろそろ危なくなった時に、さらに二匹の竜が参戦しました。
その竜は戦竜ティアマト、魔法竜ジルニトラ。
かの二匹が参戦した事により逆にファフニールは追い詰められていきました。
……そして……。




