31話 鬼の片鱗
魔王と化したグラヴィの攻撃は、その巨躯から繰り出される事もあり苛烈でした。
タロウやカチュアさんのお二人では、倒せるかもしれませんが、一撃でも喰らってしまえば致命傷になるかもしれない程です。
そういう私でも、直撃されてしまえば無傷とはいかないかもしれません。
「ぐわははははは! 逃げてばっかりでは、僕にどう勝つつもりだ!?」
グラヴィにそんな事を言われなくても、それくらい分かります。
しかし、この巨躯を覆う鱗には刃が通りません。何度も斬りかかっているのですが、傷すらつかないのです。こんなに硬い鱗があるなんて驚きです。
グラヴィは避けた口を大きく開き、黒い炎を吐き出します。
ブレス攻撃までできるとは驚きです。本来の姿と言っていましたが、もしドラゴンの姿が本来の姿ならば、ブレス攻撃くらいはできるのでしょうか……?
も、もしかして、第三段階のドゥラークさんならブレス攻撃くらいできるかもしれませんね。
グラヴィを殺してから、実験してみるとしましょう。
「【破壊】の力も今まで以上に使いこなせるようになっているぞ! 喰らえ! 破壊の雷!」
グラヴィが空に手を上げると、今まで晴れていた空に暗雲に覆われ、黒い雷が私を襲い降り注ぎます。
雷撃がどこに来るのかを予測すれば、簡単に避けられますが、数がなかなか厄介です。
しかも、一撃一撃に【破壊】の力が込められているので、かすりでもすれば、何かの能力を破壊されるでしょう。
まぁ……。仮に能力を消されたとしても、すぐに修復する事ができるので困る事はありませんが、グラヴィに良い顔されるのがムカつきます。
しかし、斬撃が通らないのであれば、どうすれば戦えばよいのでしょう。
斬撃がダメならば、打撃ですか。
いえ、先ほど打撃を与えてみましたが、ダメージはなさそうでした。
もしかして、打撃耐性もあるのですかね?
いえ……、純粋に威力が足りないのですかね?
よし、全力で殴ってみましょう。
「えい!」
「ぐっ!?」
グラヴィの表情が若干歪みます。痛みを与える事ができたようです。
しかし、かなりの力を込めましたが、顔を吹き飛ばすほどでは無かったみたいです。
「くくくっ。少々、痛みを感じたが、所詮はその程度だ! 僕に、大人しく僕に殺されろ!」
「お断りです」
ふむ……。
しかし、困りましたね。
斬撃も打撃も効かないとなると、魔法……ですか?
焼き尽くしましょうか?
私はグラヴィの首を掴み炎魔法を発動させますが、全く効いている様子はありません。
「キサマの魔法も無効化した! もう僕には勝てない! 諦めろ!」
ムカつきますねぇ……。
ヒカリ……。ヤミ……。
全力で……。
全力でこいつを殺しますよ!!
≪グラヴィ視点≫
ぐあははははは!!
レティシアの攻撃を全て無効化できた。
斬撃、打撃、そして魔法。どれも僕には通用しなかった!!
これで、僕の勝ちは揺るがない。
僕の理性もそのままだ。
ベアトリーチェ様もきっと喜んでくださるはずだ!!
「……」
くくく……。
現実を受け入れられないのか?
哀れだな……。
「うふふふふふふふ」
なんだ?
なぜ突然笑い出したんだ?
「あははははは。なんでしょう。とてもいい気分ですよ~」
レティシアの目が……金色に変わっている!?
髪の毛も銀色に光っている……。
し、しかも、なんだ? あの黒い魔力は……。
まさか、大罪の力か!?
「あははははは。いっきまっすよぉおおおおお!」
な!?
き、消えた!?
「がぁ!?」
ぼ、僕の腕が斬られた!?
馬鹿な!? 今まで斬撃は通用しなかったはずだ!?
パキィ!?
今の音は何だ?
僕はレティシアの剣を見る。
折れたのか!? 二本とも剣は折れている。
僕の龍鱗に剣が耐えられなかったんだ。
僕の腕は再生できる。くくく!
やはり、僕の勝ちだ!?
もう、レティシアには何もできないはずだ。そう思っていたのだが、レティシアは折れた剣のまま僕に襲い掛かり、折れた剣を僕の首に突き刺してきた。
「ぎゃああああ!!」
くそっ!?
ち、力任せに僕にダメージを与えたのか!?
しかも、何度も突き刺している!?
僕の傷はすぐに再生する。しかし、こいつは何度も刺し続ける。
こ、こいつは何を考えている!?
全く退く気がない!?
ドゴォオオオオン!!
がっ!?
じ、地面に叩きつけられた!?
打撃か!?
馬鹿な。僕を地面に叩きつけるほどの威力だと!?
な、何て力だ!?
「あははははは。斬ったり刺したりするよりも叩きつけた方が痛みを与えられるみたいですねぇ」
く、クソっ。
打撃が有効だと思ったら、何度も何度も殴り続けてきやがる。
クソっ、声すら出せない!?
こ、こいつの力は一体何だ!?
しかも、動きが全く読めない!? 速過ぎる!?
動きに一貫性も無く、僕を破壊する事しか考えていない!?
破壊!?
ま、まさか、僕の能力を……。
い、いや、能力は消されていない。【破壊】の力を使ってはいない!?
なぜだ!?
しかし、破壊の力は込められているはずだ!?
「れ、レティシアああああああ!!」
僕はブレス攻撃や破壊の雷でレティシアを攻撃するが、全く当たらない!?
避けられている。
「あはははは。おっそいですねぇ~」
ば、馬鹿な!?
ブレス攻撃は直線状の攻撃だから、避けられるのは分かるが、雷は避けられる速度じゃない。
現に、さっきまでは魔力の感知や予測で避けている節があった。しかし、今は間違いなく視認してから避けている。
……あ、あり得ない。
「な、なんだ、その速度は!?」
は!?
レティシアはどこだ!?
「あはははは。飛ばないんであれば、これはいらないですよね~」
な!?
いつの間に背中に乗られたんだ!?
「お、降りろ!?」
「あはははは。そぉれ!!」
「ぎゃああああ!!」
つ、翼を引き千切られた!?
な、なんだ!? この化け物は!?
殺される!?
この化け物に、関わるべきじゃなかった!?
ぶしゃあああああ!!
な、なんだ?
一体に何が起きた?
レティシアの動きが止まっている……。
なに?
俯いたレティシアから血が滴り落ちている?
「な、なんだ?」
「あ……は……は……?」
ぶしゃああああ!!
レティシアの頭から血が噴き出した。
「……? ? ?」
レティシア自身も何が起こっているか理解していないのか?
レティシアは血が噴き出ている場所を押さえている……。
い、今がチャンスだ……。
今しかない。
僕はレティシアを殺そうと、ブレスを溜め始める。
しかし……。
「させるかボケェえええ!!」
「がはぁっ!?」
な、なんだ!?
僕の目の前に、緑色の龍鱗の大男が立っている。こいつは……。ドゥラークか!?
そして、頭を押さえるレティシアを抱きかかえる女。
「リディア、レティシアを頼むぞ!!」
「うん!」
クソっ。
今がチャンスなのに、邪魔が!?
レティシアに痛めつけられてなかったら殺せたのに!?
この糞がぁあああああ!!
「ドゥラーク!! 死ねぇえええええ!!」
僕がドゥラークを喰い殺そうとした瞬間、頭の中にベアトリーチェ様の声が聞こえてきた……。
(グラヴィ。戻っておいで……。今、君を失うわけにはいかない)
「し、しかし!? ドゥラークさえ殺せれば、レティシアを殺せるんです!!」
(……。これは命令だ。戻って来い)
「……はい」
く、クソっ。
ドゥラークも僕とまともに戦おうとしていない。
僕は転移魔法を発動させる。
「レティシアに伝えておけ。次は必ず殺す……」
「チッ……」
なぜだ。
なぜベアトリーチェ様は……。
クソっ……。
レティシア……。お前は必ず僕が殺す……。




