30話 魔王化
クソっ!?
レティシアの攻撃……いや、暴虐が止まらねぇ……。
俺の体を斬り刻み、内臓を抉り出し、そして、骨を砕いていく。
もう何度、死にたいと思ったのか分からない。だが、俺は負けないし、死ねない。
しかし、永遠に続く事なんてない。こいつも人間だ。いつかは疲れる筈なんだ……。
しかし、レティシアが拷問を始めて、数時間……。まったく、疲れを見せる様子もなく、僕を拷問し続けている。
こ、こいつに疲れという言葉はないのか!?
「ぎ、ぎゃああああ!!」
「ここまで散々痛めつけておいて、今更こんな事を聞くのも変なのですが、貴方は痛みは消されなかったのですか?」
「はぁ……。はぁ……。く、クソっ。痛みは誰でも持っているモノだ……。何を言っている?」
「はて? 貴方の様な捨て駒を戦わせるならば、痛覚を消して作った方がお得じゃないですか。それなのに、なぜ再生能力を持たされたのに、痛覚は消されていないんですか?」
な、何を言っている?
ベアトリーチェ様が僕を捨て駒に?
い、いや。
馬鹿な、ベアトリーチェ様はそんな事を考える御方ではない!?
「それと、魔族がドゥラークさんの半龍化よりも上だと思っている様ですが、どう考えてもドゥラークさんよりも弱いですよ」
「だ、黙れ」
「黙りませんよ。魔族がどういう存在かは知りませんが、今の貴方は明らかに改造されていますよね……。それなのに痛覚はそのままとは……。貴方を改造した人は中途半端ですね」
「ふ、ふざけるな!」
こ、こいつはベアトリーチェ様を馬鹿にしているのか?
今すぐコイツを殺してしまいたい!!
しかし、今の僕はレティシアに両足の骨を砕かれて、上半身と下半身を両断されている。
早く再生しろ!?
ベアトリーチェ様をコケにした、こいつを殺すんだ!!
「あ、あの御方は僕を必要と言ってくれた!!」
だからこそ、僕の体を魔族にしてくれた。
魔族は人間とは違い、全ての身体能力が勝っている。どう考えても人間の上位種だ。
ベアトリーチェ様は僕の事が必要で、僕が望んだ体を授けてくださった。
「く、クソっ。殺してやる!!」
「さっきから口だけじゃないですか。できるモノなら……どうぞ」
レティシアが僕の頭を踏みつける。
早く再生しろ……。
い、いや……。再生していない……?
どうして再生しない!?
「おや? なぜ再生しないのが不思議ですか?」
「な……」
こ、こいつ……。
もしかして、僕の再生能力を破壊したのか?
い、いや。
内臓は再生されている……。どういう事だ!?
「傷口を焼いてみたのですが、それで再生が遅れているみたいですねぇ」
き、傷口を焼く?
ふ、ふざけるな。
そんな単純な事で僕の再生能力を遅延させているだと!?
「べ、ベアトリーチェ様の力は偉大だ……。それなのに、ベアトリーチェ様に与えてもらった力が……」
「ベアトリーチェ? 初めて聞く名ですね」
「!?」
し、しまった。
ベアトリーチェ様の名は絶対出さないつもりだったのに……。
クソっ。
なぜ、口に出してしまった!?
こいつはここで殺さないと……。
「殺してやる。殺してやる」
「口だけなら何とでも言えますよ?」
がっ!?
し、心臓に剣を刺された。
「ごぶぉ!」
の、喉まで刺された……。息ができない。
クソっ。
ベアトリーチェ様……。
僕に力を……。
(グラヴィ。一つだけ約束してくれないかい?)
(約束ですか?)
(そうだよ。第二段階だけは使ってはいけないよ。これは君の理性を犠牲にして、魔王と化す禁断の力だ……。私はレティシア暗殺よりも君の命の方が大事なんだ……)
(ベアトリーチェ様……。しかし、僕は!?)
(二度も言わせないでおくれ。新世界を作った後に、君には私の隣にいて欲しいんだ……)
あの時、ベアトリーチェ様は僕を抱きしめてくれて……温かった……。
僕は貴女の為なら……。
命よりも……。
「レティシア……。最期にお前に言っておく事がある……」
「はて? 喉を突き刺したのに喋れるんですか。凄いですね」
「……」
僕が魔王に変わり果て、こいつを殺した後、エレンを手に入れたベアトリーチェ様が僕を殺してくれるはずだ……。
僕はそれで満足だ。
さぁ……。僕の理性を喰え。
魔王となって……こいつを……。
八つ裂きにしてしまえ!!
≪ベアトリーチェ視点≫
「!?」
グラヴィ……。
私の言いつけを守らず、魔王化するつもりだな……。
「ふふふっ……」
やはり、人間という生物は愚かな生き物だな……。
少し優しくしてやったら、すぐに恭順になる。本当に哀れだ……。
新世界を手に入れた時に、私の隣にいていいのがお前なわけがないだろうが……。
神たる私の隣にいていいのは、【神の巫女】であるエレンだけだ。
グラヴィ、お前には大事な役目がある。
「さぁ……。グラヴィ……。全てを思い出し、私の為に世界を滅ぼしておくれ……。私は、お前をそう作ったのだから……」
≪レティシア視点≫
はて?
私はなぜか嫌な予感がして、グラヴィから離れます。
なんでしょう……。
グラヴィから圧倒的な魔力を感じます。
「が……。が……」
「気でも狂いましたか?」
「ぎゃああああああああ!!」
グラヴィの体が宙に浮きます。そして……。
グラヴィの体が巨大に膨れ上がり、手足が再生しました。
「はて? この変化は一体?」
「がぁああああああ!!」
これは……。
「翼と尻尾まで生えましたか。もう人間には見えませんね」
グラヴィは、ヨルムンガンドのように漆黒の鱗に包まれた巨竜へと変貌してしまいました。
なるほど……。
「言葉は通じますか?」
「……」
心まで魔物になってしまったのでしょうか?
しかし、グラヴィは血走った真っ赤な目を私に向け、話し始めました。
「レティシア……。これが僕の真の姿だ……」
「はい?」
「今思い出した……。第二段階は僕の真の姿をさらけ出すモノだった……」
真の姿?
という事は、グラヴィは元々巨竜だったのでしょうか?
「貴方は魔物だったのですか?」
「僕は魔物ではない。僕は神に作られた魔王の一体にして、この世界を作り出したドラゴンの生まれ変わりだ」
「はて?」
魔王の一体という事は、魔王は複数いるのですかね?
それに世界を作ったドラゴンですか。
「記憶も戻った……。僕は世界を滅ぼす為に作られた。僕の前世の名はヨルムンガンド。魔王でありながら神の力を持つモノ……最初の竜だ」
はて?
ヨルムンガンド?
「おかしいですねぇ……。ヨルムンガンドは死んでしまったんですか? それに、神というのは魔王をも作り出す事ができるのですか?」
「そうだ……。神は偉大だ」
「神……。アブゾルの事ですか?」
「ふん。あんな小物とあの方を一緒にするな。ベアトリーチェ様はグランドマスターやアブゾルと違い、本物の神だ」
なるほど。
そのベアトリーチェというのが第三勢力の親玉という事ですか……。
しかも……、神ですか……。
「そして、僕の本当の使命を思い出した」
「本当の使命?」
「そうだ。ベアトリーチェ様の手足となって、この世界を滅ぼして、ベアトリーチェ様が神となる新世界を作り出す為に作り出されたんだ」
「そうですか……」
何を言っているかはよく知りませんが、グラヴィを殺した後に、ベアトリーチェとか言う神とも戦わなきゃいけないという事ですか……。
まぁ、別に殺す相手が一人増えただけです。
「どうでもいいです。さて、始めましょう」
「そうだな。これ以上、お前と話をする必要はない。かかって来い! 愚かな人間よ!」




