27話 暗躍
私の特別授業が終わったその日の夜、イラージュの自室で話をする事にした。
イラージュは、私からの話という事でかなり警戒しているみたいね。
「さて、仲の悪い私と話をしたいなんて、何を考えているのかしら?」
「そうね。結構重要な話になるから心して聞いて欲しいのよ」
私との仲は悪いけど、だからこそ、ある意味イラージュを信用しているところがある。
もし、イラージュがグランドマスターよりならば、この話をするのは危険だと思うけど、こいつはレティシアちゃんと仲が良いように見える……。だからこそ、それに賭けようと思っている。
タロウが私達の為にお茶を淹れてくれた。そんなタロウの姿を見てイラージュは嫌な笑みを浮かべる。
「あら、ありがとう。今は違うとはいえ、噂の勇者であるタロウ様にお茶を淹れて頂けるなんて光栄ね」
「あら? それは嫌味かしら?」
まぁ、タロウはこのくらいの嫌味は聞き流せるようになっているけどね。
「ふふっ。それよりラロ、話って何かしら? レティシアちゃんの事?」
「そうね……。その前に、この魔道具を使わせてもらうわ」
私は隠ぺいの魔道具を砕く。
コレのおかげで、外からは私達の話を聞く事はできなくなるわ。
この魔道具は、どこぞの強欲な女神が開発したと言われていて、決して破る事はできないと言われているわ。
以前に、グランドマスターで危険な実験をしたんだけど、見事に気付かれなかったわ……。
「隠ぺい? 誰に聞かれたくないのかしら?」
「グランドマスターよ。貴女だって疑っているでしょう?」
「そうね……」
イラージュは意外そうな顔をしていたわ……。恐らく、私を疑っていたんでしょう。
イラージュは私と同じでSランクに自力で到達した男……いえ、女……。そんな私達だからこそ、グランドマスターが胡散臭く感じてしまうのよね……。
「貴女もSランクならグランドマスターに会った事もあるでしょう? アレを前にして何を感じた?」
「そうね……。言うならば……神かしら……」
「そうよ……。アレは神の類よ」
これは間違いないわ。
【神の眼】を持っていれば、グランドマスターの正体が神だという事に気付く。
「という事は、グランドマスターの正体がアブゾルという事?」
「……」
【神の眼】を持っていない者ならば、当然そう思うでしょうね……。
確かに、グランドマスターがアブゾルならば、色々と説明がつく事がある。……でも。
「どうしたの?」
「いえ……。グランドマスターとアブゾルが同一人物というのを決めつけるのは良くないわ。それに……、私の知っているアブゾルとこの学校に現れるアブゾルの姿が完全に違うのよ……」
「なんですって? 貴方はアブゾルに会った事があるの!?」
「会った……と言っていいのかしら……。でも、私が見たアブゾルは老人だったわ。少なくとも、この学校に現れる仮面をつけた青年では無かったわ」
「そ、それって……!?」
確かに、神ならば姿を変える事くらい簡単だと思うわ。本当はこんな不確定な情報をイラージュに教えるのは良くないけど、決めつけてしまった結果、レティシアちゃん達が不利になるかもしれないからね……。
今後、間違いなくレティシアちゃんは……アブゾルともグランドマスターとも対峙するはずだからね……。
それから一時間ほど話をして、解散する事になった。
……。
別れる前にこれだけは言っておいた方がいいわね。
「イラージュ。あんたにこんな事を言うのは不本意だけど、帰り道に気を付けなさい」
「どういう意味かしら?」
「そのまんまの意味よ……。今、この学校では様々な勢力が聖女……、いえ、神の巫女であるエレンちゃんを手に入れる為に動いているわ……。イラージュ、貴女は良くも悪くもレティシアちゃんに気に入られている……。エレンちゃんを手に入れたい勢力からすれば、学校でそれなりの支持を得ているわ。それだけでも充分に貴女は邪魔になる」
「邪魔……ね」
「そう。いつ命を狙われてもおかしくないわ……。気をつける事ね……。貴女は強いと言っても私達と比べれば、少し劣るのだから……」
「……。忠告はありがたく受け取っておくわ……。じゃあ、帰るわね」
学校から出て、イラージュを見送った後、タロウにイラージュの護衛を影から頼んでおく。
今のイラージュよりもタロウの方が強いはずよ……。
「タロウ……。イラージュはこの先のレティシアちゃんには必要になるはずよ。隠ぺいの魔道具を使って後をつけて」
「あぁ……。自信は無いがイラージュの命だけは守ってやるよ」
「お願いね……」
≪イラージュ視点≫
意外だった……。
ラロはグランドマスターの犬だと思っていたのに……。正直な話、驚いたわ……。
しかし、ラロの言葉……。私の命を狙ってくるね……。レティシアちゃんにとって私はそこまで重要ではないはず……。そんな、私なんか狙って何の意味があるのかしらね。
……っと。
本当に誰か付いて来ているじゃない。
まったく……。
「それで? 貴方は一体何者かしら?」
「お前の顔は心臓に悪い。こっちを向かなくてもいいぞ……。それに、出来れば抵抗しないで死んでくれ」
「!?」
この声は……。
どうしてここにいるの?
「ふーん。いきなりいなくなったと思えば、こんな闇討ちみたいな事をしているなんてね……。学校一番の優秀な生徒も堕ちたものね……」
私は、警戒しながら振り返る。
そこには、禍々しい魔力を放つ……グラヴィが立っていた。
「ほぅ……。僕を覚えているのか?」
「えぇ……。貴方のような性悪はそう簡単に忘れられないわ……。それで、なぜここにいるの?」
「さっきも言っただろう? 大人しく死んでくれ……」
ふーん。
死んでくれ……ね。
「随分と物騒な事を言うじゃない。そういえば、犯人がまるで分らない殺人があったわね。生徒達には秘匿にしてあるけど……。生徒会の子達を殺したのも貴方ね……」
「そうだ……。邪魔だったからな」
「邪魔……ね……」
この子はグランドマスターの指示で動いているの?
グランドマスターは学校の生徒の命を粗末に扱う事は無い……。それなのに……。
……!?
グラヴィからは殺気があふれ出ている。
ど、どちらにしても……本気のようね。
「さて、死んでもらおうか……」
「やれるものならやってみなさい」




