24話 ラロの特別授業2
「タロウ。準備はできた?」
「あぁ。お姉さま。この場所でいいのか? 町から近くないか?」
「大丈夫よ。昨日のうちにエラールセ城には連絡を入れているし、この場に私もいるんだから問題ないわ」
「分かった」
タロウはその言葉を聞いた後、道具袋から四つの小さな籠のようなモノを取り出します。そして、ソレを足元に置きます。
「お姉さま。準備ができたぞ。誰からやるんだ?」
「少しだけ待っていて。まず、説明をするから」
「あぁ」
説明?
そんな事をせずに魔物を解き放てばいいと思うのですが……。いえ、そもそも魔物はどこにいるのでしょうか?
「あの封魔の檻には四体の魔物を捕らえてあるわ。まず説明していくわね。一つ目の檻には上級の魔物、オークジェネラルが入っているわ。オークジェネラルは冒険者志望の生徒だけで戦ってもらうわ。そして二つ目はそれほど強くない魔物が入っているわ。これは生産職志望の人達で倒してもらうわ。あ、安心してね。生産職志望の人達だけはちゃんと死なないようにサポートするからね。後の二つは……一つはエレンとカチュアちゃんの二人……最後の一つは特別な魔物……私でも苦労して捕らえた魔物よ。その魔物をレティシアちゃん一人で戦ってもらうわ」
私達三人は特別扱いですか……。
しかし、これにリベルタ先生が反論します。
「そ、それは危険だ。レティシアが強いとは言ってもあくまで生徒だ。そんな危険な目にあわせるわけにはいかない」
ふむ。
心配されているみたいですね。しかし……。
「大丈夫ですよ。倒せます」
「そう? 自信があるのね」
「そうですね。魔王でもない限り大丈夫じゃないですか?」
まぁ、魔王であっても倒しきる自信はありますけどね。
「さて、まずは冒険者志望の生徒だけ前に出てね」
指名された生徒達が前に出ます。生徒達は上級魔物と戦うという事で緊張している様です。
上級魔物がどれほどの強さなのかは知りませんが、今はレギールもいませんし、彼等だけで勝てるのでしょうか?
緊張する生徒を一瞥してタロウは生産職の女性に近付きます。
「タロウが女生徒に近付こうとしています。殺しましょう」
カチュアさんがタロウに聞こえるようにそう言いますが、タロウは興味無さそうに無言で女生徒の前に立ちました。
「ひ、ひぃ」
「おい。そんな近くにいたら巻き込まれる。さっさとリベルタ先生の後ろにでも隠れていろ。邪魔だ……」
それだけ言ってタロウは封魔の檻の元に戻ります。そして緊張している生徒達に話しかけました。
「さて、今からオークジェネラルと戦ってもらうわけだが、今日の訓練ではお前等を助ける事は無い。負けがそのまま死につながると思え」
「な!?」
冒険者志望の生徒達は、悪評の強いタロウに対して反発心が強いようで、全員が罵声を投げかけています。
「はん! お前みたいな名ばかりの勇者に偉そうに言われるいわれはないんだよ!」
「そもそも、お前は大罪人だろうが!? なぜ、こんな所にいるんだよ!」
タロウは今にも殴りかかろうとしている冒険者をに対し、ため息を吐きつつ、呆れた顔で「そこまで言うなら、オークジェネラル程度なら簡単に倒せるだろう。倒してみろ」と冷たく言い放ちました。その言葉に生徒達は何も言えなくなります。
タロウは黙り込んだ生徒を一瞥して、檻を踏みつぶしました。
その瞬間、巨大な魔力と共に一匹の魔物が現れます。
「なるほど……。あの小さな檻の中に魔物を捕らえるんですね。私達は魔物をすぐに狩りますが、ああいう風に捕らえる事もあるんですね」
「でも、あんな魔道具があるなんて聞いた事がないよ」
確かに聞いた事はありません。
世界にはまだまだ知らない魔道具などもあるみたいですから、色々と探してみるのも面白いかもしれませんね。
「ら、ラロさん!? あの魔物は!?」
「オークジェネラルよ。タロウに偉そうに言ったんだもの。あの程度倒せるでしょう」
ふむ……。
確かに冒険者志望の生徒達は常日頃から生産職志望の人達を馬鹿にしたりしていました。今もタロウをあそこまで馬鹿にしたのですから、あの程度の魔物くらい倒せるでしょう。
少なくとも、今のタロウであればあの程度の魔物なら簡単に倒してしまいそうです。
それに比べて、私が見る限りはこのクラスの冒険者志望の生徒達では、あの魔物に、ただ殺されるだけでしょう。
あの中にレギールでもいれば勝てるかもしれませんが……。
仕方ないのでリベルタ先生に助言くらいしておきますか。
「リベルタ先生。止めた方がいいんじゃないですか? クラスの生徒では、勝てません。無駄死にしますよ」
「あ、あぁ! ラロさん!? 今すぐ止めてくれ!」
リベルタ先生は、オークジェネラルを倒そうと動きますが、ラロに止められてしまいました。
「何を焦るの? そもそも、タロウとの実力差も分からない連中が、この学校を卒業して冒険者になったとしてもすぐに死ぬだけよ。正直な話、それが少し早くなるだけの話じゃない」
ラロは結構辛らつな言葉を使いますが、正しい事を言っていると思います。
偉そうな口だけの人は、勇んで自分の実力を分からず襲いかかり返り討ちに遭うというのが当たり前です。私の姿を馬鹿にして偉そうに襲いかかってきたら、私だって問答無用に殺します。
「し、しかし……」
「ふふっ。安心しなさい。タロウには危なくなったら助けるように言ってあるから」
「あ、あの男は……。能力に溺れた……」
「そんなのはもう過去の話よ。今のタロウに神の加護は何もないわ。それでも、今のタロウはAランクの冒険者に匹敵する力を持っているわよ」
英雄がそこまで言うとは、タロウ……。一度、遊んでも面白いかもしれませんね。
それに、タロウが強くなっているのは確かですね。殺気も何も発していませんが、何かあればいつでも動けるようにしている様です。
「や、やってやらぁああああ!!」
冒険者の一人がオークジェネラルに斬りかかります。
あの男は馬鹿ですか?
実力差も何も考えずに、ただ斬りかかるとは……。
あの男、死にましたかね?
「い、いかん!?」
リベルタ先生も同じ事を思ったのか、飛び出そうとしています。しかし……。
「がぁああああああ!!」
「え?」
オークジェネラルが振り下ろした斧は大きく男を逸れます。
そして、男は後方へと蹴り飛ばされました。
「おい。何を自惚れているんだ? まだ、Eランク程度のお前が、一人で上級の魔物に勝てるわけがないだろう。分際を弁えろ」
どうやら、タロウが斧を蹴り軌道を変えたみたいです。やりますねぇ……。
生徒は自分が助けられた事にショックを受けている様です。無様ですね……。
オークジェネラルはタロウを敵と判断したらしく、タロウに襲いかかります。
「チッ……。テメェの相手は俺じゃねぇよ」
タロウはオークジェネラルの腹を思いっきり殴りかかりますが、オークジェネラルは後ろに大きく飛び跳ねます。
なるほど……。
上級の魔物ともなると、あの程度の動きは避ける事ができるんですね。
今のはタロウも本気で殴りかかっていませんね。しかし、生徒達はそれを見て笑い出します。
「偉そうに言ってたのに攻撃も当てられないのかよ!」
「たまたまオークジェネラルの斧がそれただけだろ。ぎゃはははは!」
タロウに助けられた生徒も一緒になって笑っているのを見て、私含め戦闘に参加していない人達はため息を吐いています。
「本当に情けない連中ですね……」
「はい。本当に情けないです。それにしても、タロウは本当に強くなっていますね。軽く見ても勇者をやっている時よりも強くなっていますね」
「はい」
私とカチュアさんがタロウの動きを見て話していると、ラロが私達の傍にやってきました。
「貴女達ならあの程度の魔物は簡単に倒せるでしょう?」
「そうですね」「はい」
私達はそう即答します。
オークジェネラル。確かに見た目は強そうですが、動きは愚鈍です。まぁ、攻撃力だけはありそうですが、当たらなければ無意味ですね。
しかし、ラロはため息を吐いています。
「どうしました?」
「普通の女の子には、あの魔物は倒せないわよ」
「そうですか?」
「はい。大罪共に比べれば弱いです」
「大罪?」
はて?
グランドマスターからその辺りの情報も流れていると思っていましたが、知らないのですかね?
ラロに大罪の事を適当に説明して、生徒達の戦いを見学します。
一時間くらい戦闘が続き、ようやくオークジェネラルを倒したみたいです。
「あ、生徒達が魔物を倒したみたいですよ」
オークジェネラルを何とか倒した生徒達はその場に倒れ込みます。中には死にそうな人もいますね……。
しかし、死んでいないのはタロウが死にそうな生徒をさりげなく守っていたからです。まぁ、生徒はその事にすら気付いていないようですが……。
「お、おい。怪我人が多い! イラージュ先生を呼んできてくれ!」
「は、はい!」
リベルタ先生はすぐにイラージュ先生を呼ぼうとしていますが、私は止めます。
「れ、レティシア……止めるつもりか?」
「はぁ? 別に彼等が死のうとどうでもいいですが、今からでは時間がかかり過ぎますよ。少し待っていてくださいね」
私は転移魔法でイラージュ先生を呼びに行きました。
タロウがまともになるとギャグキャラがいなくなってしまう……。次の生贄は誰にしようか。




