23話 ラロの特別授業1
ラロが先日言っていた通り、本日の冒険者の授業は野外授業みたいです。
今はラロはいませんが、冒険の教師であるリベルタ先生も少しだけワクワクしている様でした。
「今日は冒険者ならば誰でも知っている、マイザー王国の英雄であり、冒険者ランクSランクのラロさんが、特別授業をしてくれる事になった。俺もどんな授業をするかを聞いていない。だが、どんな授業であってもお前達にとって良い経験になるはずだ。じっくり学べよ」
冒険者なら誰でも知っているですか……。
正直な話、私はマイザーの事が無ければ知りませんでしたが、周りの反応を見る限り、とても有名だというのは分かります。
それに、昨日、直接話をした印象としては、ラロを悪い人とは思えなかったですね……。
「では、ラロさん。今日の授業の説明をお願いします」
「えぇ……」
リベルタ先生がラロを呼ぶと、ラロはキリッとした姿で現れました。
はて?
昨日話をした時には長い髪をそのまま下ろしていたのに、今日は後ろで結んでいる様です。格好も軽鎧で、どこから見ても男性に見えます。あんな話し方をするとは思えないですね。それに、隣にいるのはタロウですか……。
タロウの姿を見て、カチュアさんが殺気立ちます。
「な、なぜ……あの男が!?」
「カチュアさん。落ち着いて下さい」
私がカチュアさんの手を握ると、殺気立っていたカチュアさんが落ち着いてくれます。
「……はい」
「レティシア、カチュア。静かにしろ」
「「はい」」
怒られてしまいました。
タロウもそんな私達を一瞥しますが、すぐに目をそらして道具袋に手を突っ込んでいます。何を取り出すのでしょうか……。
しかし、タロウにしては……大人しいですね。
タロウは、何かを取り出そうとしたり、何かの準備を始めようしていますが、そんなタロウを見てクラスの女生徒達が騒ぎ始めます。
「あの男……。あの有名な勇者タロウ!? し、死んだんじゃないの!?」「あ、あんな性犯罪者がなぜここに!?」
酷い言われ様ですが、その通りだったので同情もできませんが、タロウはそんな声にも気にした様子もありません。
そんな女生徒達の様子を見たラロは安心させるように女生徒の前に立ちました。
「ふふっ……。貴女達が恐れる必要はないわ。タロウは何もしないし、私がさせないわ」
やはり喋り方はあのままですか……。
しかし、その喋り方で女生徒達は安心したみたいで、静かになりました。
その様子を見てカチュアさんが私に耳打ちしてきます。
「あのラロという男? ……信用できますか?」
「できると思いますよ。そもそも、タロウは私達に興味を持っていません。いえ、私には憎悪の感情を持っているみたいですけど」
まぁ、私にどんな感情があっても興味もありませんが……。しかし、カチュアさんはそうではないみたいです。
「ならば……殺しましょう」
「カチュアさん。押さえて……」
もう一度殺気立ったカチュアさんをエレンが必死に止めています。
「し、しかし……」
「大丈夫です。タロウが今襲ってきてもカチュアさんなら倒せると思います。ただ、依然と違い、少しだけ苦戦するかもしれません」
「え?」
私がそう言った事で、カチュアさんはタロウの魔力を探ります。
当然、タロウは今魔力を押さえているでしょうが、私達はそこそこ魔力を見破る事ができます。
「な!?」
タロウの魔力を探ったカチュアさんは絶句してしまいます。それはそうでしょう……。
タロウの魔力はジゼル達と戦った時よりも強くなっているんです。
おそらくですが、ラロがここまで鍛え上げたのでしょう。
「つ、強くなっていますね……」
カチュアさんも少し警戒したのか、頬に冷や汗が流れています。
「の、能力は持っているの?」
「タロウに特殊能力は無いと思いますよ。私が破壊し尽くしましたから……。今、特殊能力を見ても、何も見えません。だから、無いと思いますよ……」
私にはリディアさんのように【神の眼】はありませんが、特殊能力を見る眼は持っています。見る限り、特殊能力は何もありません。
「それに、タロウには想いを寄せている人がいるそうですよ。だから、他の女性には興味がないとの事です」
「え? タロウの想い人!?」
これにはエレンも驚いている様です。
以前のタロウは美人な女であれば誰彼構わず襲いかかったそうですからね……。
「あのラロという人が言うには、その女性はすでに死んでいるとの事ですが……誰なのでしょうね」
「え? 死んでいるの? それに、あのラロって人に会った事があるの?」
そうです。
ラロがサプライズと言っていたので、エレン達にも黙っていたんです。
カチュアさんが、昨日の授業の時の私の行動を思い出したみたいです。
「昨日、授業を抜け出したのはラロと会う為だったんですね」
「そ、そうなの!?」
「はい。昨日の授業中に何者からの視線を感じた瞬間、レティシア様がいなくなってしまいましたから」
やはりカチュアさんも気付いていたのですか……。
一瞬だけ視線を感じただけで、気付くとは……カチュアさんも本当に強くなりましたねぇ……。
「バレていましたか……」
「え!? そ、そうなの!? それなら、昨日怒らなかったのに!?」
「いえ、授業を抜け出したのは事実です」
エレンに心配をかけたくないと、黙って授業を抜け出したのです。怒られて当然です。
私達がコソコソ喋っていると、ラロが私達を指差します。
「ほらほら! そこの三人、外に出るわよ。外で特別な魔物と戦ってもらうわ」
特別な魔物?
英雄ラロの授業ですから、実力差も考えない模擬戦でもすると思っていたのですが、魔物と戦うんですね。
これにはリベルタ先生も驚いたみたいで、ラロさんに駆け寄っていきました。
「え? ラロさん。ラロさんと模擬戦をするんじゃないんですか?」
「違うわよ。それじゃあ、実力差があり過ぎて訓練にならないわ。今回は、前衛職以外も戦闘に参加してもらうわ」
「な!? そ、それは危険じゃないんですか!?」
リベルタ先生の顔が明らかに動揺の色が見えます。
……確かに話を聞くだけなら危険です。
このクラスの半分近くが生産職希望です。
私も数ヵ月、生産職希望のみなさんと授業を共に受けましたが、彼等には戦う力はありません。その状況で魔物と戦えば死んでしまいます。
何を考えているのでしょうか?
「そうよ。危険よ。でもね、例えば建築職によくある事なのだけど、何も建築は安全な町の中だけで仕事をするわけじゃないわ。外壁の外で仕事をするときは、当然冒険者や前衛職に見張りをさせたり護衛させたりさせるでしょう。でも、突如襲われた場合、護衛が間に合わない場合もあるのよ。その為に魔物に無抵抗に殺されるといった事例もよくあると聞くわ。だからこそ、最低限の戦闘訓練も必要になるのよ」
なるほど。
それは理解できます。
「し、しかし……」
「一応言っておくと、各ギルドに就職するためにはそこそこの戦闘能力は必要になるわ。各ギルドの受付や内勤になるのなら別だけど、職員としてやっていくのなら危険な仕事も増えていくわ。そうなった時には魔物が怖いなんて言っていられないわよ」
ふむ。
ラロの言っている事は間違ってはいないですね。
エレンも最低限は自分の身を守れるようになっていますし、姫様も同じです。
いえ、今の姫様は一人でも戦えるようになっています。
……。
姫様の事を思い出していたら、久しぶりに姫様に撫でてもらいたくなりましたねぇ……。




