22話 ラロとの接触
今回もラロ視点です。
途中からはレティシア視点です。
「な、何を驚いているのよ……」
レティシアは私の姿を見て、少しずつ後ろへと下がっている。どういう事?
何かを企んでいる?
いえ、それはあり得ないわ。この子の力なら、姑息な事をしなくても私を倒す事も簡単でしょう。それなのに……。本当にわからないわ。
「た、タロウがお姉さまと言っていたから女の人だと思っていたのですが、まさか……男の人だったとは……。タロウは気でも狂ってしまいましたか?」
「気が狂うって……。結構酷い事を言うわねぇ……」
どうやら、私の性別に驚いただけみたいね……。しかし、気が狂うって……、まぁ、以前のタロウの性格を知っていれば、私と行動をとっている事もおかしく思えるのかもしれないわね。
「いえ、タロウは女好きだったはずです。そこらの女性に誰彼構わず手を出す屑だったはずです。でも、貴方は話し方は気持ち悪いですが、男性です。アレですか? タロウの趣味が変わってしまいましたか?」
「話し方が気持ち悪いって、酷い事を言うわねぇ……。何度か抱いたけど、タロウとはそういう関係じゃないわよ。タロウは今でも女性が好きだろうし、恋愛対象も女性でしょうね」
「そうですか……。屑のままでしたか……」
「いえ、そうじゃないわよ。今ではタロウは女性にあまり興味を持っていないみたい。どうやら、心に決めた女性がいるようね……。あ、安心してね。貴女や聖女ちゃん達じゃない事は確かよ」
「気持ちの悪い事を言わないでください。それで、タロウの想い人とは誰なのですか?」
「ごめんなさいね。私もタロウの想い人が誰かは知らないわ……」
まぁ、私は会った事がないけど、あの子でしょうけどね……。
「もしかしたら生きている人間ではないかもしれないわね。今のタロウは貴女への復讐心だけを糧に生きているみたいね」
「それは愚かですね」
「また、この子はハッキリと……」
この子には人を思いやる心がないのかしら……。いえ、元は敵同士だったわね……。
しかし、私もタロウに関しては同じ気持ちだわ。
まぁ、タロウが今までやってきた所業を考えれば、こう思われても仕方ないし、いつかは恨みを持つ誰かに殺されてもおかしくないから、愚かとも言い切れないのだけど、できれば静かに暮らして欲しいのだけどね……。
「まぁ……いいわ。一つだけ言っておく事があるの」
「なんですか?」
ん?
さっきまでと違い、一気に雰囲気が変わったわね……。
もしかして、エレンに危険が迫っていると思ったのかしら……。
私は【神の眼】を発動させる。
レティシアのランクは当然Sランク。
そして……。クラスは……。
あぁ……。そういう事ね……。
「明日の冒険者の授業は特別授業よ。学校側のサプライズで私が特別授業をするわ」
「特別授業? サプライズ?」
「どうかした?」
「貴方みたいな気持ちの悪い人がサプライズになるのですか?」
「気持ち悪いって……。本当に酷い事を言うのね……。私はあくまでマイザーの英雄よ。充分にサプライズになるわ」
「成る程……。しかし、特別授業ですか……」
「えぇ……。グランドマスターに頼まれたのよ」
「グランドマスターですか?」
グランドマスターの名がでた瞬間、少し雰囲気が変わったわね。
「そうよ。貴女達のクラスはグランドマスターから期待されているのね。マイザーの英雄である私が呼び出される事は殆どないわよ」
「そうなのですか……。そう言えば、タロウから『グランドマスターを信じるな』と言われたんですが、貴方もSランクなんですよね。何か心当たりはありますか?」
あの子……、レティシアを嫌っている割には忠告しているのね……。全く何を考えているのかしら……。
「心当たりはないわね。貴女を混乱させるためにそう言ったんじゃないかしら。それにグランドマスターは素晴らしい人よ。タロウにもう一度そう教えなきゃいけないわね」
まぁ、レティシアに嘘を隠せないとしても、私の心は読まれない自信があるわ。
「ふむ……。今は信じるとしましょう」
「それよりも……。授業を勝手に抜け出していいの?」
「はて?」
「あっちで貴女に何かを叫んでいる女の子がいるわよ」
「はい? あ、エレンが怒っています!?」
レティシアは叫んでいる子を見て慌てて元の場所に戻ります。あの金髪の女の子がエレンね……。
ここから……ステータスを見れるかしら……。
ふむ……。
駄目ね……。
ここからじゃ、遠すぎて見る事はできないわ。
それにしても……、既に神になっているとはね……。
レティシアが神ならば、グランドマスターもアブゾルも大変でしょうね。
それに、レティシアが神になれば……神界も動くかもしれない。
神界が動けば間違いなくアブゾルもグランドマスターもただでは済まないわね……。
勿論……レティシアも……。
「まぁ、先の事だけを考えても仕方ないわね。明日の為に魔獣でも捕まえてきましょうか」
レティシアがいるのならそこらの魔獣ではだめね……。
「……。少し危険だけど、王種と呼ばれる大型の魔獣を捕らえてきましょうか……」
≪レティシア視点≫
「こら! レティ、授業を抜け出して何をしているの!?」
「ごめんなさい」
ふむ。
授業中に妙な視線を感じ、そこに行ってみたらマイザーの英雄ラロがいるとは思いませんでした。
「レティ、聞いているの!?」
「はい。聞いていますよ」
エレンの説教を聞きながら考えます。
なぜ、あそこに英雄がいたのか……。それに、タロウがなぜグランドマスターを信じるなと言っていたのか……。
あのラロという人は、アセールや学長と同じような事を言っていました。
しかし、あの目……。
学長やアセールのような目はしていませんでした。
私はなんとなく嘘を吐いている人の心を読む事ができるのですが、あの人の心は読めませんでした。
でも、嘘を見破るのは別に心を読まなくてもできるんですよ……。
目を見るとある程度人の心理とやらはわかります。恐らくラロは嘘を吐いています。
あの人はグランドマスターを全く信じていません。
そんなあの人の特別授業ですか……。
「楽しみですねぇ……」
「レティ~? 反省しているの~?」
ハッ!?
今が説教中なのを忘れていました!?
私はエレンからさらに怒られてしまいました。




