21話 レティシアとの遭遇
暫くラロ視点が続きます。
自白魔法のところが、盗賊退治の時にはまだ使えなかったと指摘があったので直しました。
「まさか、マイザーの英雄が特別授業をしてくれるなんて、生徒達にとってはこれ程光栄な事は無く、多大な経験を得ると思います」
「ふふ……。そんなにかしこまらなくていいわよ。私と貴方の仲じゃない」
目の前のリベルタは、彼が冒険者になったばかりの新人の頃から付き合いだ。
昔は頼りなかったけど、今はこうやってギルド学校の教師をやっているわ。
ギルド学校の教師になる為には、Aランクである事が最低条件で、ギルドに貢献している事、それに下位ランク達からの信頼も必要になって来るわ。そしてギルド職員である事……。この条件はかなり難しいわ。
「ラロさん。今日は別のクラスを見てもらう事になりますが、明日は覚悟しておいてください」
「どうしてかしら?」
当然、レティシアやエレンの話は情報として聞いているわ。だから、聞く必要はないけど、Sランクの言葉じゃなく、この学校で唯一の中立である教師の意見も聞きたいわね。
「ラロさんに明日担当してもらうクラスは、問題児がいましてね……。元々は教会の勇者を監視役に置いていたのですけど、彼が失踪してしまいましてね……。彼女は今は完全に放置されている状態なんです」
「そうなの? 彼女という事は女の子なのね?」
「はい。見た目は幼い少女です」
「そう……」
レティシアで確定のようね。
そういえば、この学校には治療師のSランク、イラージュがいたわね。
アイツと一度話をしたいけど、私もアイツが嫌いだし、アイツにも嫌われているから、ちゃんと話を聞けるかしら……。
「リベルタ。一つ頼まれてくれない?」
「はい?」
「イラージュと話がしたいのよ。今日の夜に尋ねるから、自室にいるように言っておいてくれない?」
「え? でも、ラロさんとイラージュ先生は……」
リベルタは長年冒険者ギルドに携わっているだけあって、私とイラージュの仲の悪さは知っているみたいね……。
「どうしても話があるのよ。お願いね」
「分かりました……。その前に今日の授業をお願いしますね」
「分かったわ……」
今日はレティシアのいないクラスの授業を手伝ったけど、やはり一年以上学校に通っている生徒はやはり優秀になるわね。
ギルド学校を卒業した冒険者は、皆が最低でもCランク以上にはランクアップするわ。でも、Aランクになるものは殆どいない。だいたいの卒業生が、Bランクに上がったり、Aランクになった時点で引退するわ。そして、ギルド職員になる事が多い。
だからこそ、ギルド学校で育った優秀なAランクの冒険者はいない。
だからこそ、今のAランクの質は良くない。
「リベルタ。あんたの師匠である元Aランクのリューグナーがどうなったか知っている?」
「ら、ラロさん……。その名は出さないで欲しい……」
そうでしょうね。
リューグナーは、元々荒くれ者だった優秀な魔法剣士で、理由は分からないけど、今のシンマスターであるカンダタを強く妬んでいた。
リベルタはそんなリューグナーに育てられたわ。正直な話、リベルタがここまで真っ直ぐした性格に成長したのは奇跡に近いわね……。
「駄目よ。腐ってもあんたの師匠なんだもの……。結末だけは聞いておきなさい」
「結末?」
「リューグナーがだいぶ前に死んだというのは聞いたかしら?」
「い、いえ……。アイツは死んだんですか?」
「えぇ……」
リューグナーは、気性が荒く、性格は残忍だったけど後輩からは慕われていたわ……。
しかし、とある貴族からの護衛依頼の時に依頼対象の貴族の娘を襲い、そして、その娘を囮にして逃げた事で冒険者ギルドから責任を問われ、盗賊に堕ちた元Aランクだったんだけど……。ある冒険者によって捕らえられたわ……。
……そして、三日後に突然死んだと聞いた……。
「セルカ周辺で盗賊被害が出ていた事を知っているわね。その主犯というか……、盗賊の頭領がリューグナーだったのよ」
「な!? そ、それならば討伐に行かなければ!! 今回は俺が行きます!」
「話を聞きなさい」
「いえ、俺はアイツの弟子だった。だから、アイツを殺す責任がある!」
「だから、話を聞きなさい! リューグナーは死んだと言っているでしょう!」
取り乱すリベルタを止めて、リューグナーがどうなったかを教えてあげる事にする。
「そうですか……。アイツの最後は苦しみ抜いて死んだんですね……」
「同情する?」
「いえ、アイツのやった事は決して許される事じゃない。腐ってもアイツは師匠でしたから、死んで嬉しいという訳じゃないですけどね……。しかし、三日ですか……」
「そう。私が一番気になっているのは、三日後に死んだという事よ……」
「え? 拷問されたんじゃないんですか?」
普通はそう思うわよね……。
でも、カンダタの話では拷問の類は一切していないらしい。むしろ、自白するかのようにペラペラと他のアジトの事を話したとの事だけど……どういう事かしら……。
「色々調べたんだけど、どうもリューグナーは捕らえられて三日後に突然苦しみだし、死んだらしいのよ。そして、当時カンダタと共にリューグナーを捕らえに行った職員が気になる事を聞いたらしいの……」
「気になる事?」
「えぇ……。とある少女が『三日後には悶え苦しんで死にますので早めに事情聴取をしてくださいね』と言っていたそうなのよ……」
「ま、まさか……」
リベルタも事の重大さに気付いたようね……。
そんな魔法が存在するのなら……それは一種の呪いのようなモノよ……。
「ねぇ……。レティシアちゃんが受けている授業を見学できない?」
「……はい」
あら?
少しだけ警戒されているみたいね。
今は、レティシア達は建築ギルドの授業みたいね。
さて、気配を消しているけど、気付かれないで入れるかしら……。
「!?」
レティシアがこっちを見た!?
き、気付いたの?
リベルタには案内してもらっただけですぐに退いて貰った。ここには私一人……。
いえ……。
気付かれていないはずよ……。
もう一度……。
アレ?
レティシアがいない……。
「ど、どこに行ったの?」
「何を隠れて見ているんですか?」
「!!?」
う、嘘でしょ……。
いつの間に後ろに来たの?
私は恐る恐る振り返る……。そこには無表情の黒髪の幼女が立っていた……。
「あ、貴女がレティシアね……」
「そうですよ。貴方は?」
「私は冒険者ギルドのSランク……ラロよ」
「ラロ? 聞いた事がありますねぇ……。確か……マイザーの英雄ですか……。そういえば、マイザーと言えばタロウが隠れていた場所ですねぇ……」
「そうね。昨日、貴女に会ったとタロウが言っていたわ」
私がそう答えるとレティシアの顔が驚愕に染まった。何があったの?
「た、タロウがお姉さまと言っていたのは貴方ですか!?」
「うん? そうよ。タロウからはお姉さまと呼ばれて慕われているわ」
ど、どうしたのかしら……。
随分と驚いているみたいだけど……。




