16話 疑惑
「なに? 神に会っただと?」
私は学校で起こった事をグローリアさんに報告する事にしました。
「はい。神はどうやらエレンを狙っている様です。そしてグランドマスターもエレンを狙っていると見ていいでしょう」
「なに? グランドマスターにも会ったのか!?」
「いえ、生徒会長のグラヴィがエレンを寄越せと言ってきたんです」
グラヴィが生徒会長なら、学校を作り上げたグランドマスターとつながっていてもおかしくないでしょう。
しかし、グラヴィはグランドマスターとアブゾルがそっくりだとも言っていました。
「レティシア、アブゾルはどんな姿だった?」
「何も描かれていない仮面をつけた銀髪の長い髪の男性でした」
「そうか……。特徴はグランドマスターと同じだな。性別が違う程度か……」
グローリアさんもグラヴィと同じ事を言っています。それ程似ているのでしょうか……。
「それで、お前はどうするつもりだ?」
「はい?」
「だから、アブゾルとグランドマスターにエレンを狙われてどうするんだ? と聞いているんだ」
聞くまでもないでしょう。
私の大事な人を奪おうとする者に慈悲など必要ありません。それが例え、多くの人に尊敬されているグランドマスターでも、世界中で崇拝されている神でも……です。
「私は【神殺し】です。神アブゾルを殺します」
「そうか……。お前と敵対するのなら戦いは避けられないだろうな……。グランドマスターはどうなんだ?」
「同じ事です。敵ならば殺します」
「……そうか」
「そう言えば、生徒会長のグラヴィが神ならば性別も変えられると言っていました」
「なに!? それは確かな情報か!?」
「いえ、あくまでグラヴィの予想でしょう。グランドマスターがアブゾルならば、グラヴィは無関係だと思います」
「なぜ、そう思う?」
「はい。グラヴィはアブゾルから守るためにエレンを寄越せと言ってきました。つまりはアブゾルと敵同士と考えていいでしょう」
「そうか……。ならば第三勢力と考えてよさそうだな……」
第三勢力。
確かにそうかもしれません。
どちらにしても不確定な事ばかりなので何とも言えませんが……。
「第三勢力の事は俺の方でも一応調べておく。レティシア、お前の話ではグラヴィとか言う奴は明日からいないんだろ? なら、お前は普通に過ごせ。分かっているとは思うがエレンからは目を離すなよ。常にお前かカチュアが傍にいろ」
「そんな事は当然です。それよりもどうして普段通り過ごせと?」
「あぁ。そのグラヴィが誰についているかまでは分からん。そして存在を消されたという事は完全に消されたか……コソコソと裏工作をしているかのどちらかが予想される。用心に越した事は無いだろう……。変にお前が動けば警戒されて更に潜られる可能性もあるからな……」
「分かりました……。もう一つ相談があるのですが」
「なんだ?」
私はセデルさんの事をグローリアさんに説明します。
「お前もそのセデルという男に直接会った事は無いみたいだが、話を聞く限りはとても優秀な男のようだな……。シュラークからも頼まれているみたいだから、そいつの事は俺に任せておけ」
「どうするのですか?」
「うちの城で雇う。優秀な人物ならばぜひとも欲しいからな。うちで匿う意味も込めて面倒を見てやる。当然家族も一緒にだ。それよりもその甦生魔法は成功するんだろうな……」
「成功しますよ。エレンは天才ですから……」
贔屓目で見てもエレンは天才のはずです。黒蛇は難しいと言っていましたが、エレンならばできる筈です。
「そうか。それなら、俺は俺で準備を始める」
次の日の朝、疲れ切ったエレンが「甦生魔法が完成したよ」と言ってきました。これでセデルさんの方は安心です。
しかし……。
「どこで生き返らせるのが良いでしょうか……。学校内で生き返らせなければいけないのは確かなのですが……」
「学長のところではダメなの?」
学長のところは防音魔法があると言っていました……。ただ、私は……。
そんな私の態度を見てエレン達は察してくれたようです。
「そうですね。学校で一番信用できる人の所へと生きましょう」
「それって……」
「危険な人です」
学校に着くと、危険な人が私達を待っていました。どういう事でしょうか……。
「昨日、陛下から言伝があってね。ある程度の話は聞いたわ。セデルちゃんを生き返らせる算段が整ったそうね……」
「グローリアさんから? もしかしてシュラークさんにも伝わっているのでしょうか?」
「いえ、学長には伝わっていないはずよ。その事については後で聞くとして……蘇生魔法を完成させたというけど、蘇生は不可能よ……」
蘇生は不可能ですか……。
「なぜか聞いてもいいですか?」
「えぇ。まず蘇生魔法は肉体が無いと生き返らない。そもそも誰に殺されたかすら分からないわ……」
そういう事ですか……。
危険な人はグラヴィの事を覚えていません。だから誰に殺されたか分からないのです。
……。
神の魔法に勝てるでしょうか……。
いえ、弱気になるなんて私らしくありませんね。
「危険な人。頭をこっちに持ってきてください」
「ん? なに?」
消された記憶をよみがえらせる……。どうすれば……。
……そうです!
私には【再生】があるじゃないですか。【再生】で記憶を再生させれば……。
「少し魔法を使います」
「え?」
……【再生】発動です。
私が魔力を込めると危険な人の体がビクッとします。
「あ……あ……」
「危険な人……。グラヴィを覚えていますか?」
危険な人は無言でうなずきます。
「ど、どうして忘れていたの?」
「誰が使ったまでは分かりませんが、精神操作系の魔法で記憶を消されていたのですよ」
「じゃ、じゃあ、どうして戻ったの?」
「私の力の一つで治しました……」
「そう……。記憶が戻ったのは良いけど、肉体がないと蘇生ができないのは同じよ……」
「それは大丈夫です!」
エレンは自信に満ち溢れた目をしていました。きっと成功するでしょう。
私達は危険な人の自室へと場所を変えます。ここでセデルさんを生き返らせましょう。
「エレンちゃん。大丈夫って肉体もないのに……ま、まさか……」
「はい。甦生魔法です。完成しました」
「そ、そんな……馬鹿な。あの甦生魔法を……?」
「知っているのですか?」
「治療師ならあの魔法を知らない者はいないわ。神のみが使うと言われている甦生魔法……。どんな状態でも生き返らせる事の出来る禁断の魔法……。治療師の憧れでもあり、最も畏怖する魔法……」
そこまで知っているのなら大丈夫ですね。
この部屋を隔離してなに者にも干渉できないようにします。これで邪魔も入りませんし、魔法を使っていると認識されないはずです。
「これで外部に甦生魔法が洩れる事はありません」
「ちょっと待って。甦生をする前に一つ聞きたいの……」
「なんですか?」
「もし、私が敵だったらどうするの?」
敵だったらですか……。
エレンとカチュアさんは今の危険な人の言葉に驚いていますが……私からすれば問題ありません。
「れ、レティ?」
「大丈夫です。この人はアセールやシュラークさんと違い、私やエレンやカチュアさんと同じ匂いがします」
「匂い?」
そう。
私が感じた疑問……。そして匂い……。
「危険な人。答え難かったら答えなくて構いません。でも、これを感じているかどうかで貴女がどうなのかが分かります」
「な、なに?」
「シュラークさんをどう思いますか?」
「……彼女を疑っているの?」
「疑っている……ですか」
私の中では疑っているのじゃなくて確信しています。
「そうですね。隠し事は無しですね……」
「えぇ……。貴女の疑問を先に教えてくれない?」
「分かりました。シュラークさんは……、グランドマスターにより作られた人です」
そうとしか思えません。
ジゼルが作り出した魔人……七つの大罪達と同じ臭いがしました。おそらくアセールも同じでしょう……。
人間を作り出す事もグランドマスターがアブゾルだというのならあり得ない話ではありません。
「さて……危険な人……いえ、イラージュ先生。腹を割って話をしましょう」
「……そうね」




