13話 甦生魔法
シュラークさんは、グラヴィとセデルさんとの間に何があったのかを知りたがっていました。まだ、セデルさんが生きていると思っているのでしょうね。
しかし、それに比べて危険な人は既にセデルさんは死んでいると思っている様です。それは私も同じ考えですが……。
「レティシアちゃん。答えられる範囲でいいんだけど、学長はセドルちゃんの事をどう思っているか聞いてもいい?」
「セデルさんへの人間性に関しては、危険な人とほぼ同じ事を言っていましたよ。ただ、セドルさんがいなくなった事を失踪と言っていました。死んだとは思っていないようですね」
シュラークさんの考えを聞いた危険な人は難しい顔をしています。
「どうしました?」
「いえ、学長は素晴らしい人だけど、考えが甘すぎるわ。レティシアちゃん。これからどうするの?」
「とりあえずはセデルさんがどうなったのかを調べたいです。私は殺されていると思っていますが、エレン、一つ聞いていいですか?」
「なに?」
「エレンの使う神聖魔法には魂を浄化する魔法がありますよね。浄化ではなく魂を察知する事はできますか?」
「うーん。そうだね。確かに察知する魔法はあるよ……。ちょっと待ってね……」
エレンは毛玉に何かを聞いているみたいです。あんな毛玉でもエレンの能力の化身ですから、エレンが使う魔法の事をすべて把握しているのでしょう。
「えっと……けだまんの話だと魂を察知するくらいなら聖女の力を使わないし、レティにも魔法として作り出せるんじゃないかな? って言っていたよ」
「そうですか。カチュアさん、黒蛇を連れて来てくれませんか?」
「はい」
私はヨルムンガンドを呼びます。もしかしたら毛玉も知っているかもしれないですが、もしもの時のための保険です。
「黒蛇?」
ヨルムンガンドの事を知らない危険な人は蛇と聞いて少しビクッとします。蛇が苦手なのでしょうか?
少し待つとカチュアさんに尻尾を掴まれた不満顔のヨルムンガンドが持ってこられました。どうやらヨルムンも一緒にいたらしくカチュアさんの肩に乗っていました。
『なんだ? 魔法の研究で忙しいんだが?』
「黒蛇。貴方に聞きたい事があります」
『なんだ? 魔法の事ならバハムートに聞けばいいだろうが』
「ば、バハムート!?」
危険な人がケダマの本名を聞いて驚いています。そんなに驚く事なのでしょうか?
「危険な人はバハムートを知っているんですか?」
「魔導や世界を研究している人間で、世界を作ったと言われている竜神を知らない者はいないわよ!」
「そうなのですか? そこの性格の悪そうな黒蛇も竜神だそうですよ。名はヨルムンガンドです」
「な!?」
危険な人はヨルムンガンドと毛玉の存在に驚き目が飛び出そうです。怖い顔が更に怖くなっていますね。
『それで? 我に何の用だ?』
「あぁ。人を生き返らせる魔法というのは存在するのですか? 一度実験してみましたが、成功しませんでした。私に使えますか?」
今回セデルさんを生き返らせれば、真実を話してもらう事でグラヴィを追い詰める事ができます。
『結論から言う。お前には無理だ。それに聖女であるエレンでも難しいな』
「どういう事ですか?」
『人を生き返らせる魔法は二種類存在していて、一つは〈蘇生魔法〉単純に人を生き返らせる魔法だ。この魔法は僧侶……神職ならば可能だ。当然聖女にも可能だ。だが、条件が厳しすぎる。レティシア、今回生き返らせようとしている奴の遺体はあるのか?』
「いえ、ありません」
『それなら〈蘇生魔法〉は成功しない。しかも、この魔法を使うには三日という縛りもある。三日以内に完全な形の遺体と生きたいという希望を持った魂が必要になる』
「かなり難しそうですね。もう一つは何ですか?」
『もう一つは存在すらも疑われている〈甦生魔法〉というモノだ』
はて?
同じだと思うのですが……。
「馬鹿にしているのですか?」
『魔法名、呼び方は一緒なんだ。但し、中身が全く違う』
「中身?」
もう一つの甦生魔法は魂さえあれば肉体の復元して生き返らせるそうです。その魔法は存在する事が伝承で残っているそうで竜神であるヨルムンガンド達ですら使われているのを見た事がないそうです。
「僕、知っているよ。その魔法見た事あるよ」
突然エレンに抱っこされたヨルムンがそんな事を言いだしました。
『なんだと?』
「お母さんが使っていたんだ」
お母さん?
ヨルムンに名前を付けた少女と言いましたか……。
「僕がもともと住んでいた森にはいろんな動物や大人しい魔物が住んでいてね、平和に仲良く生きていたんだ。そんな時に外から大きい魔物が森にやってきてみんなを襲いだしたんだ。僕はまだ小さかったし隠れていたんだけど、森の動物や魔物が必死に戦ったんだ。だけど、みんな死んじゃったんだ。そんな時にお母さんがどこからともなく現れて、その魔物を魔法で一撃で倒しちゃったんだ」
魔法で一撃? 巨大な魔法でしょうか?
「お母さんが魔法を使うと魔物はずーんって潰れちゃったんだ」
『ば、馬鹿な……。重力魔法だと!?』
「重力魔法とは?」
『もう数千年も前に失われた最強の魔法だ。そ、その子供は何者なんだ!? それに甦生魔法まで使っていた……』
「うん。魔物を倒したお母さんは森に住んでいた動物達を生き返らせてくれたんだ。魔物との戦闘でボロボロだった体も全部治っていたよ」
『間違いない……。その子供は甦生魔法を使っていたんだ……。しかも単体にではなく……ありえん』
「ヨルムンガンド。その甦生魔法というのは最適化できないのですか?」
『恐らく不可能だろうな……。いや、諦めるのもダメだな……。二日くれ。どちらにしても二日以内に綺麗な遺体と魂を捜さなきゃいけないからな。二日経てばもうどうしようもなくなる』
「そうですね。分かりました。毛玉、私に魂を見つける魔法を教えてください」
『あぁ……』
毛玉から魔法を教えて貰った次の日、私は学校にセデルさんの魂を捜しに行きました。
学校全体に魂を察知する魔法をかけます。
ふむ。
彷徨う魂を見つけましたよ。しかし、気になりますね。
この学校では、危険な授業で死亡者もたまに出ると聞いていましたが、他に魂がいないんですね。これがヨルムンガンドが言っていた三日という制限でしょうか?
まぁ、良いのですが……。
「レティシア、話がある」
おかしいですねぇ……。
今日は彼は休んでいたはずですが、なぜいるのですかねぇ……。
「嫌です。授業をサボった貴方如きと話をするつもりはありませんよ」
「そうか。だが、今回は大人しく来てもらう」
「随分と偉そうですねぇ……。おや? それは本物の勇者タロウよりもいい聖剣と鎧じゃないですか? そんなモノをどうしたんですか?」
振り返ると、立派な純白の鎧と聖剣を持ったレギールが立っていました。しかも、いつもの弱いレギールとは違いますね。
「貴方は何者ですか?」
「俺は教会所属の勇者レギールだ」
教会所属ですか……。
この男、かなり強いですね。
「レギールはもういないのですか?」
「俺が本物のレギールだ。お前の知っているアイツは俺が用意した偽物だ」
「そうですか」
「話はこれくらいにしようか……。さて、一緒に来てもらおう」
「お断りです」
私が断ると、レギールは一気に襲いかかって来ます。
結構速いですね。
……でも、リーン・レイのみなさんに比べればまだまだ遅いです。
私はレギールを素手で殴りつけます。何度も殴っているうちにレギールは気を失ってしまいました。
「はて? もう終わりですか? 強くなっても弱いですねぇ……。話も聞けないようですし、私は帰りますね」
「いや……話を聞いて貰うよ」
「!?」
「貴方は何者ですか?」
振り返るとそこには、仮面をつけた銀髪の男が立っていました。
この男……。かなり強いですね……。




