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親友が酷い目に遭いそうなので二人で逃げ出して冒険者をします  作者: ふるか162号
4章 レティシアの学校生活

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12話 治療魔法の最適化


「ただいま帰りました……」


 私は重い足取りで自分達の家の扉を開けます。いつもは一人で行動したとしても、エレンとカチュアさんの下に早く帰りたいので、扉が軽いと感じるのですが、今日はとても重く感じます。


「お帰り、レティ! って、アレ?」

「お帰りなさいませ。レティシア様……。どうしてレティシア様の後ろにイラージュ先生がいらっしゃるのですか?」


 帰って来た私の後ろに立つ、危険な人にお二人は困惑している様です。私はそっと振り向きます。危険な人はニッコリと笑っていました……。恐怖と凍るような寒気を背中に感じてしまいました。


「申し訳ありません。危険な人に無理やりついて来られました……。助けてください」

「あら~? 助けてって私は何もしてないわよ~」


 貴女がいるだけで精神が削られていきます。

 私は小刻みに震えてしまいます。そんな私の姿を見てカチュアさんが私の手を引いてきました。


「レティシア様が怖がっているので帰ってください!」

「あら~? 随分と酷い事を言うわね~。カチュアちゃん」

「……気分が悪いです」


 危険な人のウインクでカチュアさんがダメージを負っています。私も少しダメージ受けてしまいました……。


「ちょっと二人とも失礼だよ。イラージュ先生、どうして家に?」

「えぇ。エレンちゃん(貴女)に話があってね。レティシアちゃんに無理を言って連れて来て貰ったのよ」

「そうですか。とりあえず中にどうぞ」


 エレンは危険な人を家に招き入れてしまいました……。


「それで、レティ。学長さんは何の話だったの?」

「そ、それは……」


 私は危険な人の顔を見ます。

 この人は、今回の事をどこまで知っているのでしょうか?

 私が危険な人を見ていると、危険な人は頷きます。


「あらあら。大丈夫よ~。ある程度の事を学長から聞かされているわ~」

「そうなのですか?」

「そうよ。私はセデルちゃんが冒険者だった時からの知り合いだけど、セデルちゃんの性格を考えれば家族に黙って旅に出るなんてあり得ないもの……」


 危険な人が言うには、セデルという人はとても正義感の強い人で、何も言わずに勝手にいなくなる事は何があってもあり得ないとの事でした。


「危険な人はセデルって人がどうなったと思っているのですか?」


 酷だと思います。

 でも、私の予想では恐らくは……。


「死んでいるでしょうね。そして、殺したのはグラヴィでしょうね……」


 危険な人から静かな怒りの魔力を感じます。怒っているのですね……。


「そこまで分かっているのなら、グラヴィを痛めつけて吐かせるのが一番じゃないんですか? もしくは殺すほどの拷問を……」


 私がそう言うと、危険な人は悲しそうな目をします。


「綺麗事だけどね、簡単に人を殺すなんていっちゃいけないわ」

「また道徳論ですか? 聞き飽きましたよ」

「違うわよ。これは治療師としてのプライドの話よ。それを貴女に押し付けようとしているだけよ」


 随分と素直に言いますね。

 でも、下らない綺麗事を言うよりは遥かにマシです。


「レティシアちゃん。貴女に聞きたいんだけど、勇者タロウを知っているわよね」

「知っていますが、ジゼル達との事はシュラークさんでも知りませんでした。なぜ、貴女が知っているのですか?」


 私は危険な人を警戒します。

 しかし危険な人は笑顔で私達を見ています。

 そして、私達にカードを見せてきました。


「これは冒険者ギルドカードですか?」

「違うわ。これは治療ギルドのカードよ。ここを見てごらんなさい」


 カードには危険な人の本名、イラージュの名が書かれていて、そしてランクは……。

 ……Sランクでした……。


「ち、治療師のSランク!?」

「そうよ。そしてエレンちゃん。でも貴女のランクも恐らくだけど、Sランクになっているわ」

「え?」


 エレンは自分の冒険者ギルドカードを取り出します。そこにはランクSの文字が書かれていました。


「エレンがSランクですか。という事はグランドマスターに知られていると思っていいかもしれませんね……」


 私がポツリとそうこぼすと危険な人の目が鋭くなります。


「ふーん。貴女もグランドマスターを怪しんでいるのね」

「貴女もなのですか?」


 私がそう聞くと、危険な人が真顔になります。


「そうね。グランドマスターは表向きは立派だけど、素直に信用するのは危険だと思うわ……。何の根拠もないから、なぜかと聞かれても困るのだけどね……」


 要するに私と同じ直感ですか……。

 どちらにしても、グランドマスターと一度会わないと何とも言えません。


「まぁ、その話は置いておいて……、エレンちゃん。貴女に話があってここに来たのよ」

「私にですか?」


 危険な人は警戒するエレンを優しく笑いかけます。逆効果にしか見えないのは私だけでしょうか?


「治療魔法の中には聖女にしか使えない魔法があるのを知っているわよね。そして、貴女は聖女だもの……。使えるわよね」

「……はい」


 エレンが不安そうに私の手を握ってきます。

 大丈夫ですよ。絶対に傷付けさせませんから……。


「イラージュ先生。聖女である私はその二つとも使えます」

「〈ゴスペルヒール〉と〈サルヴェイション〉ね。どちらも伝説上の治療魔法よ……。歴代の聖女ですらほとんど成功した事は無い治療魔法と言われていたわ……」


 はて?

 聖女になれば無条件で使えると思っていましたが、使えない場合もあるんですね。そう考えればエレンは凄いんですね。


「エレンちゃん。その二つをどうにか他の治療師にも使えるようにできないかしら。どうにかして使い方を教えて欲しいのよ」

「……。難しいと思います。この二つの魔法は消費魔力が桁外れで多いんです。私は無限の魔力があるので使えますが……」

「無限の魔力ね……。貴女達はセルカの町にいたわよね?」

「はい」

「治療ギルドのセラピアを知っているかしら? 彼女は長い時を生きるエルフ。莫大な量の魔力を持っているはずよ。それこそ無限の魔力に匹敵するくらいにはね……」

『それだけじゃないさ……』


 この声は……?

 私はエレンの頭の上を見ます。

 あぁ……毛玉が乗っていますね。


「降りなさい。殺しますよ」

『別にいだろう。エレンは私の宿主だ』

「殺しますよ」


 私は高速でケダマの触覚を掴みます。


「潰しましょうか?」

『お、落ち着け……。そんな事よりも、そこの化け物が妙な期待をする前に事実を教えておこうと思ってな』

「事実とは?」


 危険な人は突然現れた毛玉に動じる事もなく毛玉に聞き返しています。


『エレンが使う治療魔法は聖女専用(・・・・)最適化(・・・)されている。そこの化け物も聞いた事があると思うが、この世の消費魔力には限界値がある。この二つの治療魔法は消費魔力の限界値を超えてしまっているんだ。エレンの場合は神の力でこの魔法を最適化してある』


 最適化ですか……。

 それができれば普通の人も使えるのですが、危険な人は悲しそうな……残念そうな顔をしています。


「毛玉。その魔法術式の詳細を教えなさい。それとどうやって最適化しているかもです」

『なに?』


 私は毛玉の触覚を掴みます。


「さっさとしなさい」

『あ、あぁ……』


 毛玉は触覚を私の頭に乗せます。引き千切ってやりたいですが今は我慢します。

 毛玉の触覚から、様々な情報が流れてきます。

 

 なるほど……そういう原理ですか。

 神の力もどうにかできそうです。


「カチュアさん。紙を二枚持ってきてください」

「え? は、はい」


 カチュアさんは棚から紙を二枚持ってきてくれます。

 私はそれに〈ゴスペルヒール〉と〈サルヴェイション〉を最適化した魔法術式を書きだします。そしてもう一枚に簡易的な魔法陣を書きます。

 普通の人が使うには魔力消費量を軽減するための魔法陣が必要になりますが、これで発動できるはずです。でも、莫大な魔力がいるので実力のある治療師しか使えないでしょう。


「危険な人。これを使って試してください」

「これは?」

「二つの治療魔法を最適化したうえで、神の力を使わずに魔法陣の力を借りて再現しました」

「な、なんですって!?」


 危険な人の顔が驚愕します。

 そして、危険な人が〈サルヴェイション〉を使ってみると部屋全体が優しい光に包まれます。どうやら成功したみたいです。


「お見事です……」

『ま、マジかよ……』


 毛玉の表情の変化は良く分かりませんが、とても驚いている様でした。

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