11話 学長からの協力要請
ゴブリン退治の翌日。今日の授業が終わった私は学長であるシュラークさんに呼び出されたので一人で会いに行きます。
エレンやカチュアさんと離れるのは嫌でしたが、シュラークさんがどうしても一人で来てくれと言っていたらしく、二人を家に送り届けてからここに戻ってきました。
「わざわざ済まないね……」
シュラークさんの顔が少し暗いです。何かあったのでしょうか。
「どうしましたか?」
「君が知っているかは分からないが、昨日の夜に風紀委員長のセデルという子が旅に出たそうだ……」
「はい。今日の朝、授業の前に危険な人がそう言っていましたね。その人は学校にとって必要な人だったんですか?」
「そうだね。彼は風紀委員としてだけじゃなく、人柄も良かったし、彼の家族にとっては必要だった……と言えるだろう。でもね、レティシア君。この世界に必要でない人なんていないんだよ」
ふむ。
この手の精神論は聞き飽きましたが、少なくともこの学校内では教師と呼ばれる人達が必要なのは理解していますし、そのセデルという人が必要とされているのも理解しました。
「まぁ、そこはどうでもいいです。そのセデルという人が旅に出た事はおかしいのですか?」
「あぁ、おかしいんだ」
「そうなのですか?」
「彼は責任感の強い人物だった。それに彼はまだ若いが、妻や子供もいたんだ。彼はとても家族を大事にしていてね、元々優秀な冒険者だったんだけど、子供が出来たから安全で安定した仕事に就くためにギルド学校に通っていたんだ。それなのに……、そんな彼が家族に黙って失踪するなんて考えられない……」
「失踪? 旅に出たのではないんですか?」
そのセデルという人に随分と肩入れしている様ですね。シュラークさんは何かを知っているのでしょうか?
「私からすれば失踪だね。さっきも言ったが彼は責任感の強い人物だった。それなのに、何も……誰にも告げずに旅に出るとは考えにくい……」
はて……誰にも?
「それはおかしくないですか? 誰にも伝えていないのに、なぜ私達は旅に出たと知っているのですか?」
「そう。そこなんだ。レティシア君。君は【創造】の力を持っているんだろう?」
「ふむ。カンダタさんに隠せと言われているのであまり言いたくないのですが、すでにグランドマスターから聞いているのですか?」
「あぁ。聞いているよ。それと安心して欲しい。カンダタからも聞いているし、今日君を呼び出す事も、彼からも許可を取っているよ」
「そうですか。なら答えます。私は【創造】の力が使えます」
カンダタさんが許可を出しているのならいいでしょう。
「しかし、シュラークさんはグランドマスターを信じているのですね」
「そうだね。グランドマスターは誰よりも世界の事を考えている素晴らしい方だからね」
「素晴らしいですか……」
私は会った事がないので断言できませんが、カンダタさんやギルガさんやグローリアさんは警戒しているのは分かります。なぜでしょうか?
考えても仕方ないですね。どちらにせよ、一度会ってみないと私自身は評価ができません。
「まぁ、カンダタからすればグランドマスターが怪しく見えているんだろうけど、グランドマスターの人となりは私が保証するよ」
正直な話、保証されてもどうとも言えませんね。
でも、【創造】の力はバレているのですから隠しても仕方ありません。
「それで【創造】の力で何を作るのですか?」
「そうだね。彼の足取りを掴むための魔法を編み出せないかい? 昨日に何があったのかを調べて欲しいんだよ」
「どういう事ですか?」
「彼の家族に話を聞いたんだけど、彼はいつも同じ時間に連絡するようなまめな性格だったそうだ。だが、彼がいなくなったその日は連絡がなかったらしい」
「でも、黙って旅に出るなら連絡なんてしないんじゃないんですか?」
「本当に旅に出ていたならそうなのだろうがね……。ただ、気になるのが、セデル君の家族も今日の朝に生徒会長のグラヴィ君から旅に出たと聞かされたそうだ……」
今朝?
シュラークさんが先程から言っているように責任感が強いのならば、どうして家族ではなくそのグラヴィという奴には旅に出ると言ったのでしょうか?
「グラヴィというのが怪しいですね。私と同じクラスにいる奴ですよね」
「ははは。レティシア君はグラヴィ君の事はあまり好きそうではないね」
「胡散臭いんですよ。あの人は……。ジゼルと同じ臭いがします」
「ジゼル? あの魔導王かい? 君は魔導王ジゼルと顔見知りなのかい?」
「はい。私はジゼルと戦いました」
「ジゼルと戦った?」
シュラークさんは驚いている様です。
はて?
グランドマスターはジゼルの事をシュラークさんに話していないのですか?
あの戦いというのは、ファビエ王国が滅びるきっかけとなった戦いだったはずです。私の能力やクラスだけを伝えてなぜジゼルの事を話していないのでしょうか?
ふむ。
グランドマスター……。
気を付けた方がいいかもしれませんね。
「まぁ、良いです。彼女は胡散臭いの臭いがしました。グラヴィからも同じ臭いがします」
「そうか……。ジゼルとの話はまた今度聞くとしよう。確かに彼は優等生でいい子だったのだが、今回の事で少し不信感がでてしまったね……」
「はい。なぜ責任感で家族思いの人が大事な家族にではなく、グラヴィに旅に出ると伝えたのでしょうね……」
「私もそこが気になるんだよ」
シュラークさんはそれを調べろというのですね……。
「分かりました。できるかどうかは分かりませんが魔法を作ってみます」
「頼むよ。それともう一ついいかい?」
「なんですか?」
「もし魔法を作るのなら自宅で作ってくれないかい? この学長室は防音や防魔の魔法が使ってあるから、外に洩れる事は無い。でも学校内では、どこで誰に魔法の事が洩れるのかは分からない」
はて?
洩れる……ですか。
「分かりました……。ただし、こちらも一つ条件があります」
「なんだい?」
「この事はグランドマスターやカンダタさんにも秘密にしてください」
「なぜだい?」
「私もグランドマスターを少し疑い始めましたから。カンダタさんもシンマスターになったと聞きました。どこでグランドマスターに洩れるか分かりません」
「そうか……。分かったよ。私の心の中にとどめよう」
これでグランドマスターに情報が洩れる事は無いでしょう。もし洩れたのならシュラークさんは敵……。とまでは言いませんが、アセールのように彼女にも何らかの処置が行われているという事になります。
「では、私は戻ります」
「あ、そうそう。イラージュ先生も話があるみたいだよ。少し待っていてくれないかい?」
「……私は帰ります」
私はあの危険な人が苦手です。
なにかは分かりませんが、怖いのです。
そう思っていると、シュラークさんの部屋の扉が開きました。
「あら~? どうしてかしら~?」
「あ、現れましたね。危険な人……」
危険な人の登場に私は少しだけ警戒してしまいました。




