6話 建築ギルドのお仕事
ギルド学校に通いだして一週間が経ちました。
初日に私に絡んできた人をボコボコにし、ついでにレギールの腕の骨を砕いた事により、このクラスの人は私に逆らわなくなりました。おかげで静かに学ぶ事ができるのですが、たまに別のクラスの人にからかわれたりします。
本当は痛めつけて立場を分からせるのが良いのですが、それをするとシュラークさんに怒られてしまうので、大人しくはしています。
しかし、エレン達に迷惑をかけた人はバレないように痛めつけます。
あ、能力は使っていませんよ。いつもは何か弱体化する特殊能力を作るのですが、カンダタさんに特殊能力を使うなと言われたので、ただ殴っているだけです。
今日は初めて受ける建築ギルドの授業です。
小うるさいグラヴィが建築ギルドの先生も癖があると言っていましたが、どんな先生なのでしょう?
そう思っていたら、教室の扉が勢いよく開きました。
「俺は建築ギルドを教える教師のナガルだぁあああああ! みんな、建築は熱血だぁあああああ!」
はぁ?
あのうるさい生き物は何ですか?
「あの、うるさいので帰ってください。不快です」
「俺をうるさいだとぉおおおおお!? 口が悪い幼女だぁあああああ! そうかぁああああ! お前がアセールが言っていたレティシアという幼女かぁあああああ!」
アセール?
あぁ、建築ギルドのSランクですか。
「幼女幼女うるさいです。普通に話せないのですか?」
「普通に話せるぞ」
なんでしょう。
とてもイラつきます。
「エレン。この人どついていいですか?」
「せ、先生らしいから叩いちゃダメだよ」
「そうなのですか。残念です。しかし、アセールを知っているという事は本当に建築ギルドの先生なのですね」
「そうだな。建築ギルドでアセールの事を知らぬ者はいない。アイツは優れた建築士だからな」
「そうなのですか?」
建築士としては優れているのでしょうが、私の知っているアセールは口だけで、自分の実力も分からずに、すぐに喧嘩を売る駄目な男性でしたけど……あれで百歳以上なのですから、脳の方は子供の頃から成長していないみたいですね。
「あの男は脳を作り変えた方がいいんじゃないんですか?」
「いや、お前は何を言っているんだ? お前、アセールに会っているんだったな。確かにあいつは軽薄そうな男だが、驚くなよ。この学校を設計したのはアセールだ。しかも、建築もほぼ一人で行ったそうだ」
この広大な学校をほぼ一人で?
それは予想以上に凄いのでは?
「思ったよりも凄い人物だったんですねぇ……口調は変でしたけど」
「あはは。まぁ、いい。とりあえず席に着け。授業を始めるぞ」
「はい」
授業が始まってもナガル先生は教科書を開こうとしません。なぜでしょうか……。
「今日は建築ギルドの初めての授業だ。初めての授業の時は必ず現場の見学に行く事になっている。お前等、今日は建築ギルドの仕事を見学に行く。建築ギルドの仕事は聞くよりも見た方がいい……行くぞ!」
ナガル先生がそう言うと、レギールや他の人が立ち上がり文句を言い出します。全員が厳つい顔をしています。冒険者でしょうか?
「おい。俺達は冒険者志望だ! 建築ギルドなど興味もないわ!」
「僕に至っては勇者候補なんだよ? 建築ギルドのような生産職に何の興味もないね。時間の無駄だよ」
まったく。
まだ、ご自分達の立場を理解していないみたいですね。私が席を立とうとすると、ナガル先生の魔力が急激に高まります。
「ははは。この学校ではすべてのギルドの仕事を勉強するんだ。嫌なら学校を辞める事だな。冒険者は経験がなくてもできるぞ」
ナガル先生から強力な魔力を感じます。この人は建築ギルドの先生ですから生産職なのに、かなり強いです。
「「「ひぃ!」」」
レギール達はナガル先生に怯えきっています。レギールはCランクだと言っていましたが、殺気でもない魔力で怯えてどうしますか。
結局レギール達は、黙ってついてきました。
私達は学校のすぐ近くの建築現場に足を運びます。大工さんのお仕事を見るという事ですかね?
そう思っていたのですが、ナガル先生は建築現場の傍にある建物に入っていきます。
「はて? こんな所に何の用なのですか?」
「お前等は大工になるつもりなのか? もしそうだというのなら、大工に弟子入りした方が良い。建築ギルドは大工達の仕事を円滑に進めるのが仕事だ」
「はて? 大工さんは建築ギルドに所属していないのですか?」
「大工は建築ギルドに登録はしている。しかし、大工は個人経営が多くてギルドが個人的な仕事を斡旋する事はほぼない。しかし、この現場のように大きな建物の場合は建築ギルドが大工を集める。集めるにしても大工はもともと個人でやっているから我が強い……だからこそ、まとめるのに建築ギルドが必要なんだ。大工でも建築ギルドの職員の言う事は、ある程度は聞いてくれるからな」
「なるほど。大工になるのに資格は必要なのですか?」
「基本は建築ギルドに登録すれば何の資格もいらない。ただし、技術があっても経験と信頼を得ていないと個人の仕事はほぼ来ないだろうな。だからこそ、建築ギルドが斡旋した仕事で技術を磨き経験と信頼を得るんだ」
「なるほど。冒険者と同じですね」
私がもし依頼をするのなら、何の実績もないレギールのようなダメCランクよりも、口も態度も悪く見せていたけど実績と信頼のあったドゥラークさんの方に依頼します。まぁ、今はドゥラークさんもAランクですけど。
「そうだな。冒険者も結局は依頼を受けて信頼と経験を積む事にある。さっき吠えていた奴にはそれは無理そうだな」
「な、なに!?」
いきなり話を振られたレギールがナガル先生を睨みつけています。
まぁ、こいつのような口だけの冒険者には何を言っても無駄ですけど。
「お前は信頼の意味を分かっていない。確かに冒険者には態度も性格も悪い奴がいる。しかし、依頼をこまめにこなしている冒険者はたとえ態度が悪くとも経験と信頼を得ていく。それに比べ、お前のようなCランクというだけで偉そうな態度を取っているだけの冒険者は、信頼を得る事ができずにいつかは盗賊に堕ちる」
そうですね。
例えAランクでも堕ちる人は堕ちます。
「あぁ。私はそういう人を何人も殺しましたよ」
「ちょ、レティ!?」
「むがむが……」
「あはは。なんでもありませんよ」
「そ、そうか……」
私は自分の体験を話そうとしたのですがエレンに口を押さえられてしまいます。
そんな私達を見て、ナガル先生は呆れている様でした。




